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「菊ッ、やめろ!」
ギルの声が響いた。
観客には聞こえない。だが菊には、確かに届いていた。
視界が白く光り、世界が崩れ落ちる。
巨大なシャンデリアが、轟音と共に舞台へと落下した。
伸ばされたギルの手。
そのわずか数十センチ先に、菊がいた。
耳をつんざくような轟音。
舞台を揺らす衝撃と、観客の悲鳴。
すべてが遠ざかっていく中で、ギルベルトの視界はただ一人を捉えていた。
「菊ッ――!!」
伸ばした手は、届かなかった。
砕け散るガラスの破片が雨のように降り注ぎ、光の粒となって舞台を埋め尽くす。
その中心で、菊は――倒れていた。
血の気の引いた顔。
薄く開いた瞳は、まだ舞台を見ているように思えた。