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受付台の上に金を乗せたフレアに、慌てたペトラが担当者との間に割って入った。
「待てってフレア、そいつは今月と来月分に使うウチの維持費だろ。こんなとこで勝手に使っちまっていいのかよ!」
「仕方ないでしょ。こうでもしないと話も聞いてもらえないんだから。それに、……探すならやっぱり一番大きなギルドでないと意味ないもの」
「そ、それはそうだけどよ……。だけど、なぁ?」
不思議そうに見つめる担当者を背中で隠したペトラは、「少し冷静になろうぜ」とフレアをなだめた。しかし既に決心していたフレアは、「お金のことは私がどうにかするから」と間に入ったペトラをどけた。
「それで、どうなさいます?」
「もちろん募集します」
「お急ぎですと、当然のことながら料金も上乗せとなりますが……?」
「構いません。その代わり、できるだけ高ランクの冒険者、しかも魔法が堪能な方を集めてください」
さらさらと書き出した細かな条件を担当者に示したフレアは、お願いしますと頭を下げた。一読した担当者は、う~むと頭を掻きながら言った。
「こちらの条件ですと、なかなか思うような人材は集まらないかもしれませんが……、ダメでも一時金は発生してしまいますよ?」
「大丈夫です。すぐに手配をお願いします!」
条件に首を捻る担当者に対し「どうか見つけてください」と迫ったフレアは、気後れする相手をよそに手持ちの金を全てドンと突きつけた。
担当者が受け取った金をしっかり所定通り数え終えたのを見届け、フレアはうむうむとひとり頷き、また後ほどきますとギルドを出た。
「なぁおいフレア、ちょっと待てって、本当に良かったのかよ。手持ちの金、あれでほとんど使っちまったろ?!」
外へ飛び出すなり呼び止めるペトラの言葉を聞かず、フレアは「フン!」と鼻を鳴らし肩を強張らせた。どうやらそんなことは百も承知で、現状を打破するためにはここしかないと腹に決めていた様子だった。
「にしてもよぉ……、そういうのは事前に相談しといてくれよ。俺だって一応ランドの仲間なんだぜ?」
「ごめんね。でもこれは経営者である私の仕事だと思うから。それに……」
押し黙ったフレアは、以前に見たムザイの姿を思い出していた。
ランドの仲間全員で目撃したムザイが亀狩りをする姿は、フレアにとってあまりにも衝撃的な記憶として心に残っていた。当然それはペトラとの間でも共通認識となっており、すぐそれを察したペトラは、後頭部に両手をついて片目を閉じながら言った。
「確かに俺らは冒険者じゃねぇしさ、みんなみたいに身体を張った仕事はできねぇよ。でもな、それとこれとは別の話だぜ?」
「だけど、……私にできることなんかこれくらいしかないもん。いざとなったら犬男に土下座してでもお金は用意する。心配しないで!」
「そうは言ってもよぉ……」
「はい、もうこの話はお終い! それにペトラちゃんだって、私が知らない間に魔法を使えるようになってたでしょ。今回はそれでおあいこってことにしてあげる」
ペトラが魔法を使えるようになっていたことに不満を思っていたのか、わざとらしく膨れてみせたフレアは、パンと会話を打ち切った。
仕方なく言葉を飲み込んだペトラは、街外れの生け垣に腰掛け、ゴルドフに渡された瓶を陽の光に翳しながら言った。
「とは言ってもよぉ。たとえ人が集まったとして、コイツを開けられる奴が本当にいるのかね。ダメならそれこそ手詰まりだぜ?」
そうして募集期限までの間、二人はギルドからの呼び出しを待つしかなかった。
陽が落ち、夜の帳が下りた頃になって、ギルドからようやく一人だけコンタクトがあったことを知らされた――
「ええと、お相手さんは流れの傭兵だそうです。性別は女性で職業はガード。最近まで近くの街で護衛の仕事についていたそうですが、今回のことで拠点を移されたのだとか。今は近くのパブでお二人を待っているそうです。どうします、すぐにお会いしますか?」
もちろんですと顔を寄せて前のめりに返事をしたフレアは、所定の金を支払うなり、すぐにギルドを出発した。
「やったなフレア。まさかこんなすぐ人が見つかるなんてよ!」
しかし担当者に渡された紙を眉をひそめ確認したフレアは、ムムムと難しい顔をしてから、ペトラに手渡した。
「なんだよ、その微妙な顔。ええとなになに、冒険者の名前は、《マママ・ママママ》? ……なんだよこれ、ふざけてんのか?!」
「だけどギルド経由で正式に応募してきた人だから、情報が間違ってることはないと思うけど。どちらにしても、直接確認してみるしかなさそう」
「いきなり前途多難かよ……」
小走りで指定のパブへと向かった二人は、栄えた中央通りではなく、旧市街地のさらに奥まった一角でポツンと営む店の前にたどり着いた。
一歩踏み込むたびに漂う異様な雰囲気と空気感に飲まれ、二人はゴクリと息を飲んだ。なにせ約束のパブは、見るからに怪しかった。入口には、ゆらゆらと揺れるロウソクが複数刺し込まれ、外観からして真っ赤で不気味な様は、殺人現場すら想像させた。
こんなところに入って良いのかと顔を見合わせた二人は、流石に足を止め、入るのを躊躇った。
「メッチャ怪しいな。これ、俺たちが入っていい店なんだよな?」
「ど、どうだろう。私、パブなんて入ったことないし、わかんないよ」
二人が話し合いをしていた時だった。
キィィと音を立て、扉がひとりでに開き、中から何者かがヌッと姿を現した。
出てきたのは身の丈三メートルはありそうな大男で、筋肉隆々な腕を惜しげもなく魅せながら、店先にいた二人を食い殺すような眼で見下ろし言った。
「……こんなところで何をしている?」