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その噂を最初に聞いたのは、劇場の自販機前だった。
「新山さん、聞きました?石井さん、この前後輩に告白されたらしいっすよ」
と笑いながら後輩に言われた。
俺は缶コーヒーを開ける手を止めた。
「……誰に?」
「え、なんか別の事務所の子らしいですよ。最近売れ出し中の子だとか聞きました!」
「へえ」
平静な声で返事をした。
だが、プルタブは変な方向に折れた。
「で、返事はしたんかなー?ってみんなで話してて」
そうなんやとだけ返し、缶コーヒーを飲み干し、自販機を後にした。
なんやその話。俺まったく聞いてへんぞ。不仲やからって言ってほしいこともあるわ。
なんて思いながら歩く。
胸の奥がじわじわと熱くなる。
腹が立っているとは違う。焦っているのか。落ち着かない。
返事したんかな。
断ったんかな。
もし、受けていたら。
……なんで俺がこんなドキドキしてんねん。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楽屋のドアを開けると、石井が一人でスマホをいじっていた。
荷物を置き、椅子に座る。
スマホをいじりながらちろちろ石井を見る。
「今日なんかあったん?」
石井が話しかけてきた。
「なんもない」
「じゃあなんでこっちみてくんねん」
「別に」
沈黙が数秒続いたあと、石井が口を開いた。
「新山、今日どうしたん?体調悪いん?」
「悪ない」
「悪い時の”悪ない”やんか」
「ちゃう」
「じゃあ、なんなん?」
俺はぼそっと言う。
「……石井が告白されたって聞いた」
「は?誰が言うてたん」
「後輩から聞いた」
数秒の沈黙。
次の瞬間、石井が吹き出した。
「っはは、なにそれ」
「笑うとこちゃうやろ」
「いや、ごめん。おもろすぎて」
「なにが」
石井が肩を震わせながら言う。
「それ、俺が流した」
思考が止まる。
「…は?」
「嘘の噂流してん俺」
「なんでそんなことすんねん」
「ちょっと試したかった」
「なにを」
石井が笑いをおさめて、まっすぐ俺を見る。
「新山が、どんな顔するか」
心臓が跳ねた気がした。
「……で、どうやった?」
「最悪の顔してた。ずっとジロジロ見てるだけで不機嫌」
「……うるさい」
「嫉妬してたやろ?」
「してへん」
「してた」
即答される。
石井は少しだけ照れたみたいに視線を逸らして、でも口元は笑っていた。
「………嬉しかったわ」
「なんで」
「そこまで言わなわからんの?」
石井はそう言って、スマホをポケットにしまった。
分からないわけがない。寧ろ、分からない方がおかしい。
でも、ここで頷く訳にはいかない気がする。
「……知らん」
やっと出た言葉だった。
石井は一瞬固まって、それから呆れたように笑う。
「お前、ほんまアホやな」
「なんで、俺が怒られんねん」
「怒ってへんわ」
「怒ってる顔や」
「もとからこの顔や」
いつもの言い合い。だが空気だけ妙に熱い。
落ち着かないので、立ち上がった。
「飲みもん買うてくる」
「逃げた」
「逃げてへん」
背中に笑い声を受けながら、楽屋を出る。
自販機の前で頭を抱えた。
「……なんやねん、あいつ」
なんで噂なんか流すねん
なんで嬉しかったとか言うねん。
なんで俺ばっかりこんな振り回されなあかんねん。
コーヒーのボタンを押したあと、気づく。
ーー振り回されてるんちゃう。振り回されにいってる。
「……うわ」
自分に自分で引く
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楽屋に戻ると、石井はソファでスマホをいじっていた。
俺は無言で缶コーヒーを差し出す。
「……ありがとな」
珍しく素直に受け取る。
俺は石井の隣に座る。
しばらくして、石井がぽつりと呟いた。
「新山」
「ん」
「さっきの、冗談ちゃうで」
胸がどくんと鳴る。
「なにが」
「嬉しかったってやつ」
石井が俺の方を向いたまま続ける。
「新山、俺のことどうでもええんやと思ってたから」
その声は、思ってたよりも弱かった。
俺は言葉を失った。
石井がそんなことを思っていたとは知らなかった。
「……どうでもええわけないやろ」
気づいたら口に出ていた。
「それ、相方として?」
ずるい聞き方をしてくる。
逃げ道を用意している癖に答えを一つしか許さないのだろう。
俺は数秒黙って、息を吐いた。
「……それ以外やったら、あかんの?」
石井の目が見開かれる。
次の瞬間、顔を真っ赤にして視線を逸らした。
「……急にちゃんと言うなや」
「石井が言わせたんやろ」
「知らん」
「さっきまで攻めてたやん」
石井は耳まで赤くなっている。
思わず笑ってしまった。
「なんでお前が照れてんねん」
「うるさい」
「好きやで、石井」
「……っ、今それ反則やろ」
耳まで真っ赤で、さっきまで強気なだった人だとは思えない。
少し体を寄せた。
石井はビクッとする。
「…近い」
「さっきからずっと近いで」
「今の近いと意味がちゃう」
「どの意味?」
「知らん」
そっと、石井の顎に手を添える。
ゆっくり顔をあげさせると石井は観念したように目を閉じた。その仕草が可愛すぎて、理性が危うい。
「なんで閉じんねん」
「うるさい、知らん」
「慣れてんの?」
「慣れてるわけあるか」
「じゃあ、待ってたん?」
「うるさい」
言い終わる前に、笑いながら唇を合わせた。
一瞬だけ、触れるように。
離れると、石井は固まっていた。
「……え」
「嫌やった?」
石井の顔が一気に赤くなる。
「嫌やない」
「もう1回する?」
「調子乗んな」
そういいながら服を掴んできた。
「それ、してええって意味なん?」
石井は照れながら目を逸らし、コクっと小さく頷いた。
可愛すぎる。
触れた唇は震えていたが離れなかった。
「次は人が来ないところでな…♡」
完
読んでくださりありがとうございます🥹🙏🏻💖
はじめまして、たるたるです。
初投稿です。初投稿にしては書いてないですか?
括弧分かりにくいですかね?
私でよければリクエストも答えようかなと思っています!
アドバイスもください🙇♀️