2 上司で社運決まりがち
私、中川君、佐藤さん。
新人がそれぞれ先輩トレーナーにつく日が近づいてきた。
先輩と営業事務をしながら、会社の全製品を習得。
何でもそらで答えられるようにならなければならない。
製品と言っても通信会社なので扱うのは多種多様なオーダーメイドの通信サービスだ。
法人、会社向けの部署。
ネットワーク、ネットセキュリティ、ビジネスプランの新規、変更、解約など。
覚えることが多すぎて日々脳疲労が止まらない。
お陰で、平日は夜の九時に眠る日々。
だが、昨日は眠れなかった。
今朝は、新人たちのトレーナー「教育係」となる先輩社員の発表だ。
このキャスティングで会社人生決まると言っていい。
組み合わせが難ありだとその後の配属や評価にも関わると言う。
まさに「上司ガチャ」。
教育係の社員にとっても
「新人ガチャ」。
自分の仕事ぶりや習慣まで学んだ部下が出来上がる訳だ。
新人の仕上がりが悪ければ自分のせい。それに最近は何でもすぐにハラスメントと騒いでやめてしまい、
教える側が異常に気を遣う。
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「それでは発表します!」
朝礼の後、みな会議室に集まった。
「菊池 優子です。私の担当は中川大吾さん!よろしくね」
すっと立ち上がった菊池さんは、わが社の一番優秀な若手社員と噂のできる女子:29歳。
もったりした奥二重、落ち着いた声。いい意味で昭和っぽい。
立ち振る舞いに賢さがにじみ出ている。現役国立だろうなぁ…
菊池さんについたのは中川大吾。私達、新人同期の間ではマッチョ中川で定着していた。
中川君は人懐っこい人相をもっと可愛くして菊池さんに近づく。
筋肉に良い食事をとるための自作のお弁当の話で盛り上がっている。
素直で明るい、幼稚園児の男の子と先生の会話に見えてきた。
案外、上手くやれそうじゃない。
「うわー、菊池さんとマッチョだって。不釣り合いー」
「あたし菊池さん苦手だから、あたらなくてよかった」
「あたしも!同じ質問したら殺されそうだよね」
私と佐藤ちゃんは耳元でこっそりと話した。何か喋ってないと落ち着かない。
中川君は、もう菊池さんと和やかに談笑している。
正直、本当に菊池さんじゃなくて良かった。爆美女の私と正反対の星に生まれた人。
女を1ミリも売りにしないで、自分の能力だけで軽々と生きていく人。
いつかは絶対に衝突しそうな気がする。
「次は…誰だ?」
ああ、あの気難しそうなモサ男じゃありませんように…!
「あ、僕です。浅井 直樹と言います。僕の担当は佐藤愛理さん」
佐藤ちゃんがキャッ!と小さく叫ぶ。モサ男的中。
ぶあつい黒縁メガネ、眉間にしわを寄せている気難しそうな27歳の男子社員だ。
まだ若いのに生まれながらオジサンみたいな人ってたまにいるよね…?
寝ぐせか癖毛かわからない。
それが浅井さん。
「浅井 直樹と申します。この部には浅井が二人いますんで、通称ナオと呼ばれてます」
ナオさん、声は若かった。
「佐藤さん。僕も人に教えるのは初めてで、お互いに新人同士ですね。頑張りましょう」
「はい!よろしくお願いします!」
佐藤ちゃんはショートカットの爽やか女子、幼く見えて頭キレキレだ。
先輩にかえって指導しちゃったりして…?佐藤ちゃんならやりかねない。
残されたのは私。
人のことをあれこれ心配している場合ではない。
今日はシンプルに髪を一つにまとめ、パンツスーツで出社した。全然私らしくない。
でも小さな顔と内側から発光する美肌は隠せないだろうけど。
先輩社員が菊池さんのような女性なら地味に、オタクっぽい男性なら…え、わからない何が正解?
考えすぎたかな。
ここで先輩と関係がこじれたり、嫌われたりしたら…その末路は悲惨。
いきなりフルリモートで永遠待機?半年後、関連のアフリカ海外支店?平均年齢65歳の古参チームに配属?…昨夜の新人チャットルームではそんな噂でもちきりだった。
「あと2年はここ、東京支店に居たい!」
卒業旅行で買いあさったブランド品のローンがあと1年残っていた。社宅を出て一人暮らしもしたい。
私は祈るように首を垂れた。
「相田きほさん」
「はいっ」
いつの間にか呼ばれていた。
「僕があなたのトレーナーになりました!半年間よろしくね」
顔を上げて、思わずじっと見つめていた。
なんなの、この整った精悍な顔立ち。真っ白な歯が整列してキラリと光る。
「万城目 仁、27歳です。まきめって読むんです、珍しいでしょ」
彼の王子様のような笑顔は、私を自然に笑顔にさせた。
思ってもみなかった、こんな非現実な煌めき男子がこの会社にいたの?
「あ、あ、相田です。こちらこそよろしくお願いします!」
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会社からの帰り道、新人の私たちは興奮して会話が止まらなかった。
「佐藤ちゃん、ナオさんに馬鹿正直にズケズケ言ったらだめだよ?先輩なんだし」
「あはは、わかってるー!ナオさん、あの寝癖何とかならないかな」
私達には、5つ上の先輩の中見なんて、よくわからない。とりあえず外見で100%判断する。
「中川君、早速うまく取り入ってたね」
「ピュアなかんじでアピールしてみた。菊池さんと俺、相性良くない?」
「そーれーよーりー」
佐藤ちゃんが私の肩に手をまわしてきた。
「ずるいよー、きほ。うちの社イチのハンサム独り占め?」
「顔面強すぎるだろ万城目さんは。足も長いし」
私は顔がにやけてしまう。
「そうなの。それにすんごい優しくって話も面白くて」
喜びをぶちまけた。
「あたしってー、やっぱり持ってるよねー?」
早く明日にならないかな。
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