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海人side
紫耀と出会ったのは幼稚園に入る少し前。
俺が公園で一人で砂浜で山を作っていた時だった。
「すごおい!めっちゃ、おっきい!!」
後ろから声がして振り向くと俺と同い年ぐらいの男の子が立っていた。
「うん!頑張って、作ったんだぁ」
俺はにっこり笑って答えた。
「おれも一緒に作っていい?」
「いいよ!一緒にもっと大きいの作ろ!」
これが俺と紫耀の出会いだ。
運良く紫耀と俺の家は近所でよく遊んでいた。そこから幼稚園、小学校、中学校、高校、大学と同じところに進むことになる。
俺に恋心が芽生え始めたのは小学校五年生の時。
当時から女子から絶大な人気を誇っていた紫耀は一週間に二回は女子から告白されていた。でも紫耀は全員フっていた。俺は一度なぜフるのか聞いてみた方がある。すると紫耀は考えもせずにこう言った。
「だって俺が知らない人と付き合っていたら海人、寂しいでしょ?だから誰とも付き合わない。」
そこからだったかな。俺は紫耀を見るたび心臓が高ぶった。たぶん、これが恋なんだろうな。
そう気づいた俺はお姉ちゃんに相談したことがある。
「ねぇ、ねーちゃん。俺、好きな人いるんだけど……」
唐突だったけど、少女漫画が大好きなお姉ちゃんは興味深々に聞いてくれた。
「誰さ?やっぱ紫耀くん?」
「なんでわかるの…?」
「だって、わかりやすいんだもん。紫耀くんの話するとめっちゃ喜ぶじゃん?」
どうやらお姉ちゃんにはバレバレだったようだ。
「でも男の子同士ってどうなんだろ…紫耀に変に思われないかなぁ。」
俺はそこが一番気にしていたところだった。男性同士なんて、そんなの聞いたこともなかったから。
「いいんじゃないの?そう言う人、いっぱいいると思うよ。頑張ってね!海人。」
そうして俺は何度か紫耀に告白風の言葉を何度か言っていたのだが、向こうが鈍感すぎて気づいてもらえなかった。
そうこうしているうちに俺らは大学生になり、今に至るという訳だ。
何度この話を思い返しただろう。何度も何度も、思い出すたびに紫耀に対する思いは強くなる。でも紫耀には人生初めての、それも相思相愛の彼女がいる。諦めるしかないのはわかっているけど、十年近く片想いをしていた俺にとっては嫌な事だった。
思い出したように時計を見ると午後七時五分。廉とジンとテレビ電話をする約束をしていた時間から五分も過ぎている。
「やっばっ!!」
俺は慌ててテレビ電話を繋げる。
『海人遅いー!!』
早速廉に言われ、『ホントごめんー!昔のこと思い出してたら時間過ぎてて〜!!』と謝る。
『まあ、こればっかりはしょうがないでしょ。紫耀が他の人と付き合うだなんて海人にとっては初めてだもん。』
ジンが励ますように言う。全然励ましになってないけどさぁ。
『そう言うジンだって実ったじゃん。いいなぁ』
少し嫌味を言うように言うと、ジンが廉に『言ったな……??』とぽつり。廉は咄嗟に『だってぇまさかの展開やろ?』と可愛い声で言った。
紫耀は本当に俺のことを思って付き合うことを避け続けたんだなぁ。そんなことを考えていると廉の方からガチャッとドアが開く音がした。出てきたのは岸くん。
『廉ごは…おい、なんで勝手に俺抜きでテレビ電話なんてやってるんだよ!!ずるいぞっ!』
岸くんが駄々っ子のように言う。廉はそれを嗜めた後、『じゃあ、俺たちちょっとご飯食べてくるからー』と言ってテレビ電話を切ってしまった。
残された俺とジン。ジンは少し間を置いた後、『で、紫耀は姫花さんと付き合っちゃったんだ?』と俺に聞いてきた。
『……うん。』
認めたくない真実。でも認めざるを得ない事実。分かってる。分かってた。ずっと前からこういう時でも笑っていよう、紫耀とはずっと友達でいようと決めていた。でも、結局現実になってしまった今、俺は笑えていない。
『でも、海人。まだ諦め無くていいんだよ。俺の予想、半年以内に別れる。』
国民的彼氏と呼ばれているジンがこんな予言をするとは。相当自信がないとまた廉にいじられるのに。
『どうしてそんな事…』
言い終わる前にジンは続けた。
『相手は紫耀を恋人ごっこのコマとしてしか見てない。つまり、遊び尽くした後、フッて捨てるってこと。でも、俺は紫耀にはいい社会勉強だと思ってるけどね。俺も一回そういう奴と付き合ったことあってさ。散々だった。』
ジンは中学生の時、とある女子に告白され、ちょうど気になっていた子だったからと付き合うことにした。でもLINEを毎日チェックされたり、束縛が酷かったりとジンは色々悩んだ末、半年も経たないうちに別れたそうだ。
『俺はそこで知ったよ。『人間、裏で何を考えてるか分からない』ってね。だから気になった子に関しては悪い噂がないか、必ずチェックしてる。意外とホントだったりするからね。実際、俺が付き合った子も悪い噂が広まってた。でも、それは経験したことがある人にしか分からないからね。だから紫耀にも一回はそういう人もいるんだってわかってほしい。』
ジンにもそんなことが……。国民的彼氏にも色々事情がありそうだ。でもそうとは言えそんなに予言できるものなんだ?
『あの子のタイプ的に、すぐ別れるよ。今が七月だから……大体十二月ぐらい。最悪の場合、クリスマスにフられるか、フるかってところだね。』
クリスマスに…ってそれ最悪じゃん!!
この時、ジンも俺も、この予想が実際に起きるなんて全く思っていなかった。
五ヶ月後。とうとう十二月に入った。案の定、付き合った次の日から紫耀は束縛状態にされ、ここ数ヶ月間まともに話せていなかった。
俺の方はといえば、周りはいちゃいちゃカップルってこともあってちょっと居心地はあまりよろしくない。みんな俺を気にして控えめにはしてくれてるんだけどね。
…と考えているうちに身支度完了。
今日は廉と一緒に岸くんにあげるクリスマスプレゼントを買いに行くのだ……と言っても俺があげるんじゃなくて廉があげるから実質付き添い。俺も紫耀になんか買おっかな。年明けたら、紫耀の誕生日だし。クリスマスプレゼントじゃなくてもいいような物にしようかな。
俺は家族に「行ってきます」と声をかけ、外に出る。
水を少し含んだ雪がちらちらと降っている。いつもの交差点に着くと廉が先に待っていた。
「ごめん、待った?」
「いいやー。俺も今来たとこー。」
いつも通り高そうなブランド物で身を包んでいる廉は側から見れば芸能人にしか見えないだろう。まあ、実質芸能人のようなものなんだけど。
「なにさー。ジロジロ見てきてー。」
いや、なんでもないです。
少し廉と色々話しているとあっという間にショッピングモールに着いた。廉はお目当てのお店に直行。俺はそれの後に続く。そこは某有名アパレルチェーン店だった。
「さいきんさー岸さん、パーカーしか着てへんのー。おしゃれして欲しいんよー。」
とぶつぶつ言いながらいろんな服を見る。見ては見てで、「ちょっと違う。」とか「やーこれは岸さんには合わん」とか色々言っている。『おしゃれ番長、健在』だ。
「あ、これええかも。あーでも俺の趣味やしなぁ…」
「ねー廉。マフラーとかどう?なんか岸くんさ黒いやつしか使わないからダサいなーって思ってたんだよね。」
はっきり言って、どっかのお父さんみたい。
「流石不仲。じゃそっち系で行ってみよ。」
と廉は自分が気に入った服を購入し、雑貨屋の方に急ぐ。
「何色がええかなー岸さん。」
たくさんの色の中から岸くんに似合う色を探す廉。
「あ、海人他のところ見ててええよ。」と廉に言われ店内をうろつくことにした。雑貨屋だからピアスとかイヤリングとかもたくさん売ってる。俺はピアスコーナーで足を止めた。
「紫耀にピアスあげようかな……」
この中から季節を問わなく使えるものを探す。冬なので雪なんかをモチーフにしたものが多かった。その中でも俺が一番気に入ったものがあった。リングタイプで、側面に何個か小さなストーンがついてるやつだ。ストーンの色が何種類かあり、その中から俺は赤いものと黄色いものを手に取った。二人でお揃いもいいかもしれない。するとそこに選び終わったのか、廉が来た。手には暗い紫色のマフラー。
「決めたでー!あ、海人もなんか買うんー?」
「うん。お揃いにして紫耀にあげようかなって。」
廉は久しぶりに俺の口から『紫耀』という言葉が出たことに少し驚き、「ここ、確かラッピング無料やからラッピングしてあげな。」とお会計に行ってしまった。
「紫耀……喜んでくれるといいなぁ。」
優太side
廉が出かけてから一時間。もっと言うと、廉に「岸さんクリスマスはクリぼっち?」と大変失礼なことを言われてから一時間だ。
ちょっと戸惑ってる俺に廉は「じゃあ、クリスマス、デートな。」と半強制的に言って出かけてしまった。
クリスマスデートかぁ。ってことはプレゼントでも買いに行っているんだろう。俺もなんか買ってあげよう。ネット通販は届いた時にバレてしまいそうだから、別日にバイト帰りに買ってきてあげよう。
俺はさっそくバイトのシフト表を見返した。
勇太side
クリスマスはどうしようかと考えている時、無意識にLINEを開いていた。
送る相手はもちろん、玄樹。
勇太『クリスマスってなんか予定ある?』
すぐに返信が来た。
玄樹『何もないよ。いわゆる『クリぼっち』ってやつです。』
玄樹とは付き合ってからタメ語で話そうと話していたのだが、こういう風にたまに敬語になる。まあ、無理もないか。
勇太『じゃあさ、二人でどこか行かない…?』
玄樹『うん!』
プレゼント、あげたいなぁ。何がいいかなぁ。
紫耀side
別の日。俺は姫花さ……いや、姫花と例のショッピングモールに来ていた。デートっちゃ、デートだけど姫花の友達に買うプレゼントを一緒に選んで欲しい、とのことだった。
女子の趣味なんてわからないけどねー。
プレゼントを無事買い終えた姫花と一緒に歩いていると、気になるお店を見つけた。姫花に一言言って店内に入る。雑貨屋だった。海人になんか買ってあげたい……よく考えたら、あんなリヤ充のそうくつ、嫌になってるからかもしれない。
俺もすぐそっちに戻ろうと思ってる。いい加減、ストレスが溜まって、疲れちゃった。
たくさんの雑貨の中から俺はピアスのコーナーと文房具のコーナーを見てまわる。ピアスは海人、いっぱい持っていそうだからペンとかの方がいいのかな。替え芯があるタイプのやつ。そう思ったが、ネックレスコーナーにとっておきのものがあった。小さい黄色のストーンがついたやつと赤いストーンがついたやつ。お揃いもいいかもしれない。海人が黄色い方。そこに姫花がやってきた。
「誰に買うの?」
海人になんて言ったら姫花は怒るだろう。そもそも女子だけではなく男子ともあまり話すなと言われているのだ。会う約束すらできない。
俺は少し考えて「自分用」と答えた。海人の分はバイト帰り、姫花がいない時に買おう。そう思ったけど、無意識に両方持ってレジに向かっていた。
「二個も同じの要らなくないー?」
姫花に言われたけど気分転換と適当に答えた。ラッピングは百円均一でいいものを買ってあげよう。姫花がいる中ではラッピングを注文できない。
いい加減、この束縛から抜け出したい。
数週間後のクリスマスイブ。俺はついに姫花にメールで別れたいと言った。姫花はもちろん怒ったが、メールを無視し、LINEもブロックした。一気に肩の荷が降りた気がする。もう少し噂のことも考えておけば良かった。
俺は久しぶりにみんなのグループLINEを開いた。そして『久しぶり』とメールを送った。
海人『え、紫耀!?』
驚く理由もわかる。
紫耀『姫花さんと別れた。だからもう俺は誰のものでもないよ。』
今までたくさん辛かった。みんなと話せないのがどれぐらい辛いことなのか、ようやくわかった気がする。姫花さんは多分、他の誰よりも束縛が強い人だった。
海人『紫耀…』
紫耀『海人、迷惑かけてごめんな。こんなリヤ充のそうくつ、嫌だったでしょ?』
廉 『リヤ充ってなんや!リヤ充て!』
優太『まあ、まあ、付き合ってる時点でリヤ充だよー』
海人『みんな気を使ってくれて…あんまり居心地は良くはなかったけど、みんないい人なんだなっては思った!』
廉 『え、海人どした?舞台挨拶?』
優太『廉、職業病だー』
多分今二人とも家にいるはずだから岸くんは廉に色々言われてるかもしれない。
久しぶりだなぁ。男子と話すの。メールが進む進む。
勇太『俺の予想通り、クリスマスにフるとはー!!!!』
玄樹『ジン、うるさいよーw』
どうやらいつのまにか玄樹も入っていたよう。付き合っているって言う話は海人から聞いていたけど今でも少し驚いている。すると海人から個別の方にメールが来た。
海人『明日、会えない?』
紫耀『いいけど…なんで?』
海人『久しぶりに紫耀の顔、見たいから!』
可愛い理由だなぁ。
紫耀『いいよ、何時にどこ集合?』
海人『じゃあ、午後五時に公園集合!』
めっちゃ近場じゃん!
紫耀『オッケー!』
明日かぁ。楽しみだなぁ!!
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