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瑞浪(みずは)
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第一話:銀の影、クヌギの森にて
ゾルディック家という名は、この世界の裏側を支配する代名詞だ。
パドキア共和国、デントラ地区。標高三千七百メートルを超えるククルーマウンテン。
その門を潜り、毒の庭を抜け、巨大な屋敷の奥深くに彼女はいた。
「……また、これ?」
目の前に差し出されたのは、致死量の毒が盛られた食事。
銀色の長い髪を揺らし、少女——リアは、感情の読めない瞳で皿を見つめた。
彼女はゾルディック家の長女。
そして、あのイルミと魂を分かつ双子の姉である。
「偏食は許されないよ、リア。これは耐性訓練の一環だ」
隣で無機質な声を上げたのは、漆黒の長髪を持つ弟、イルミだ。
瓜二つの顔立ちをしながら、彼が「闇」なら、リアの銀髪はどこか「月光」を思わせる。
「わかってる。イルミ、あんたは相変わらず過保護ね」
リアは淡々とフォークを動かし、猛毒のスープを口に運んだ。
喉を焼くような感覚。普通なら即死する刺激も、彼女にとっては日常のスパイスに過ぎない。
食事を終え、廊下に出ると、一人の少年が待っていた。
「あ、リア姉! イルミ兄も」
逆立った銀髪、生意気そうな猫目。
一家の期待を背負う三男、キルアだ。
「キルア。……また無断で外に出ようとしてたでしょ」
リアが呆れたようにキルアの頭を撫でると、彼はバツが悪そうに視線を逸らした。
キルアにとって、冷徹なイルミは恐怖の対象だが、双子の姉であるリアは、唯一少しだけ甘えられる存在だった。
「だって、退屈なんだもん。……ねぇ、リア姉なら俺のこと見逃してくれるよね?」
キルアの瞳に期待の色が宿る。
リアは一瞬、イルミの冷たい視線が背中に刺さるのを感じた。
「……ダメよ。今のあんたじゃ、すぐパパに見つかるわ」
リアの声は静かだが、そこには確かな拒絶と、それ以上の「愛」が含まれていた。
ゾルディックの血は、自由を愛する者ほど、深い檻に閉じ込める。
「……ケチ。リア姉までイルミ兄みたいなこと言うなよ」
キルアは膨れっ面をして走り去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、リアはふっと自嘲気味に微笑んだ。
「……自由、ね。そんなの、この家には最初から存在しないのに」
彼女の銀髪が、冷たい風にさらわれて揺れる。
双子の弟、イルミの手がリアの肩に置かれた。
「そうだね。僕たちは、家族を愛している。それだけで十分だ」
「……ええ。狂ってるわね、私たち」
暗殺一家の日常は、今日も静かに、そして残酷に幕を開ける。