警部は余の前まで来ると、世羅をつかむ手を離して余の前で土下座した。 「お嬢ちゃん、理不尽に暴行されて許せない気持ちはよく分かる。こいつは今なぜか頭に血が上って話にならない状態だが、ふだんは警察官として考え方も働きぶりも非の打ち所のない素晴らしい男なんだ。あとで必ず誠心誠意謝らせる。だから今日のことはなかったことにしてもらえないだろうか」
「余はかまわないが、世羅はこれで終わらせる気はないようだぞ」
どういうことだろうと土下座したまま振り向いた警部は、見てはいけないものを見たショックで呆けたようになった。
世羅が余を狙い澄まして拳銃を構えていたのだ。
「おれの件ばかりじゃない。人を虫けらのように殺す暴君は世界平和のために死ぬべきだ」
「世羅! それは洒落にならん!」
警部が世羅の拳銃を奪おうとして、二人のあいだで死闘が始まった。世羅と互角に戦うこの男も只者ではないようだ。
「お嬢ちゃん、危険だから早くここから立ち去るんだ。あとで必ず償いはさせる。お嬢ちゃんがどんな無茶な条件を出しても世羅には必ず従わせるから」
「どんな条件でもいいのか。では、転生前に余が世羅にしたことも全部これでチャラになるということか?」
「なるか!」
つかみかからんばかりに吠えた世羅だが、すぐに警部に口を封じられた。
「よく分からないが、その条件で世羅がお嬢ちゃんにしたことをなかったことにしてもらえるなら万々歳だ。世羅、いいよな?」
世羅の返事は聞こえなかったが、交渉は成立したようだ。取っ組み合う二人を置いて、余は制服の泥を払い悠々と空き地をあとにした。
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