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猫塚ルイ

きらびやかなイルミネーションが街を彩る十二月二十五日。
カーテンを閉め切って何度も愛し合い、心も肉体も完全に結ばれたあの情熱的な日から少しの時が流れ、二人は特別なクリスマスの夜を迎えていた。
「アンタ、本当にその格好で行くの? クリスマスなんだから、もっと今風の可愛いドレス、たくさんあるのに」
リビングの鏡の前で、ナオミが困ったように眉を下げて溜息を吐く。
今夜のために用意された華やかなドレスたちがクローゼットに並ぶ中、穂乃果が頑なに選んで身に纏ったのは、あの少し懐かしい、ライトブルーのシャツワンピースだった。
「この服がいいんです。……だってこれ、ナオミさんが初めて、私のために準備してくれた服だから」
ふんわりと光沢のあるスカートの裾を揺らしながら、穂乃果は少し頬を染めてはにかんだ。
まだ自分に自信がなくて、直樹たちの呪縛にボロボロだったあの十一月の日。ナオミがバックヤードにそっと用意してくれていた大切なワンピース。
大好きなナオミさんと過ごす特別なクリスマスの夜だからこそ、他のどんな高級なドレスよりも、思い出の詰まったこの一着を着ていきたかったのだ。
自分を心から信じ、愛おしそうに見つめてくる穂乃果の姿に、ナオミの切れ長の瞳がふわりと熱く和らぐ。
「……それに、ナオミさんこそ、いいんですか? その格好で」
「なに? どこかおかしいかしら?」
そう言ってナオミが自身の服の襟元を正す。
今夜のナオミは、いつもの艶やかなドレス姿ではなかった。白シャツに黒のベスト、丁寧に結ばれたネクタイ――それは、一流の男性バーテンダーが身に纏うような、洗練されたシックな正装だった。
高身長でモデルのように引き締まったナオミのスタイルに、その男らしい格好は恐ろしいほどに似合っている。完璧に整えられた髪の隙間から覗く、端正で凛々しい『男』の顔立ち。
「い、いえ……っ。すっごく、カッコいいです……っ」
至近距離でその姿を見上げ、穂乃果の心臓はうるさいほどにバックバクと跳ね上がった。格好良すぎて、直視しているだけで目眩がしそうだ。
「んもー、本当に可愛いんだから……っ♡」
限界を迎えた穂乃果の反応に、ナオミは耐えかねたようにぎゅっと彼女を腕の中に抱きしめた。逞しい胸板の厚みと、心地よいシトラスの香りが穂乃果を包み込む。
ナオミは抱きしめたまま、穂乃果の耳元で悪戯っぽく囁いた。
腕を緩め、悪戯っぽくパチンとウィンクしてみせるナオミ。
男の格好をしていても、中身はどこまでも優しくて情熱的な、大好きなナオミそのものだ。
「……はい。そうですね」
穂乃果は幸せを噛みしめるように微笑むと、しっかりとナオミの手を握りしめた。
「今夜は楽しい夜にしましょ」
そう言って市ヶ谷の自宅を出てから、タクシーに揺られて数十分。
クリスマスの華やぎに沸く新宿二丁目の路地裏にひっそりと佇む『BLACK CAT』の重い扉を押し開けると、カランカランと小気味よいベルの音が店内に響いた。
コメント
1件
96話、拝読しました。クリスマスの夜に“あの日”のライトブルーのワンピースを選んだ穂乃果の気持ち、すごく沁みました。ナオミが男装で応えるのも、お互いが初めての自分をくれた相手だからこそ、という感じがして素敵です。新宿二丁目の路地へと続くラストシーン、この後どんな夜が待っているのか、続きが気になります。お疲れ様でした!