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猫塚ルイ

「あ、ナオミさん、穂乃果さん。お疲れさまでーす」
暖房の効いた店内で、脚立に上って天井に華やかなリースの飾り付けをしていた湊が、振り返って声を上げて――そして、二人がしっかりと繋いでいる手に視線を落とした。
端正な顔立ちに、じわじわと意地悪で、けれど心から嬉しそうな笑みが浮かんでいく。
「おやおやぁ? 随分と仲がよろしいことで。もしかして、行きがけのタクシーの中でもずっとそんな感じだったんですか?」
「っ……!」
湊のニヤニヤとした視線に気づいた瞬間、穂乃果は顔から火が出そうなほど真っ赤になり、慌てて繋いだ手を離そうとした。けれど、ナオミはその小さな手をさらに強く握り締め、フイッとそっぽを向く。
「やぁねぇ、湊。突っ立ってないで手を動かしなさいよ。今夜は貸し切りなんだから、時間がいくらあっても足りないんだから」
「あはは、照れちゃって。……あーぁ。いいなぁ、ナオミさんは……。僕だって、穂乃果さんの事好きだったのになぁ……」
脚立からひらりと軽やかに下りながら、湊は少し大袈裟に肩をすくめて、陽だまりのような微笑みのまま、サラリとそんな爆弾を口にした。
「へっ!? み、湊さん……っ?」
突然の告白(?)に、言い訳の言葉すら忘れて目を丸くする穂乃果。そんな初心な反応を湊が楽しそうに見つめたのも束の間、ナオミの鋭い視線と、ドスの利いたアルトの声がすかさず飛んでくる。
「あげないわよ」
「わっ、怖い怖い。即答ですか。やだなぁ、冗談に決まってるじゃないですか」
湊はお手上げとばかりに両手を挙げて笑う。ナオミはフンと鼻を鳴らすと、ようやく穂乃果の手を離し、カウンターの奥へと滑り込んだ。
「ほら、穂乃果。アンタもぼさっとしてないで、着替えて手伝って。今夜は戦場になるんだからね」
「は、はいっ!」
ナオミの独占欲が嬉しくて、けれど湊の手前恥ずかしくて、穂乃果は俯いたままバックヤードへと駆け込んだ。
エプロンを締め、使い慣れたグラスを手にホールへ戻ると、店内はすでに賑やかな活気に満ちていた。
ナオミがカウンターの中で手際よくボトルの配置を整え、お酒のチェックをする横で、湊が軽快な手足の動きで残りの飾り付けを仕上げていく。
「ナオミさん、こっちのキャンドルはどこに置きます?」
「そこじゃなくて、カウンターの端よ。雰囲気を考えなさい、雰囲気を」
「はーい。あ、穂乃果さん、そのグラス終わったらこっちのクロス手伝ってもらえます?」
男装正装を完璧に着こなした二人の美青年の間で、穂乃果も忙しく動き回る。
かつて病院の澱んだ空気の中で息を殺していた自分が、今、こんなにも温かくて、嘘のない人たちに囲まれている。その事実だけで、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「よし、これで準備万端ね」
クリスマスカラーに彩られた装飾と、軽快なクリスマスソング。ちょうど開店前の準備を終えた頃。今夜の『一番最初の客』として、ドアのベルがカランカランと小気味よく鳴った。
コメント
1件
ああ、もう、今回も最高でした……! クリスマスシーズンのバーの温かい雰囲気と、ナオミさんの「あげないわよ」があまりにも完璧で、声出して笑ってしまいました。湊さんの冗談めかした告白にも一瞬ドキっとしたけど、やっぱり二人の信頼関係がしっかりしてるから、ああいう軽口が楽しく響くんですね。病院の静けしか知らなかった穂乃果が、今ではこんな賑やかな場所で笑ってる。その対比がじんわり心に沁みました。開店を待つ最初のお客さん、誰なんだろう。続きが気になります!