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#廃校past complex
ユメミリ@夏の絶不調祭り
315
るる
74
#闇
ruruha
1,447
イリアは小さくため息をつきながら、ポケットからメモ帳を取り出した。
『ヴェルクさんの作業メモ 回収』
その文字を指先でなぞり、苦笑する。
「さて、と……。」
メモ帳を閉じる。
「そろそろヴェルクさんの作業メモ、探さないと……。」
ミシェルの顔を思い浮かべる。
「ミシェルさんのことだし……中庭かな。」
◇
中庭には、穏やかな風が吹いていた。
色とりどりの花々が咲き、噴水の水音が静かに響く。
西棟の住人たちが思い思いにくつろぐ、屋敷の中でも特に人気の場所だった。
「ミシェルさーん? いますー?」
イリアが辺りを見回していると、テラス席から誰かがひらひらと手を振る。
「……?」
「イリアさん。おはようございまーす。」
柔らかな笑みを浮かべる白髪の少女、ラグドールだった。
向かいには、ティーカップを両手で包み込むように持った銀髪にうさぎの耳が生えたの少女、ララビットが座っている。
「あ、おはようございます!」
イリアも笑顔で会釈を返した。
「お二人でお茶会ですか?」
「そうだよ。」
ララビットはティーカップを持ち上げる。
「今日は天気もいいし。」
一口紅茶を飲んでから、呆れたように笑った。
「……またミシェル探してんの?」
「そうなんです。」
イリアは困ったように笑う。
「中庭にいるかなって思ったんですけど……。」
「ミシェルならいますよ。」
ラグドールが突然そう言って、人差し指をイリアの後ろへ向けた。
「ほら、後ろ。」
「えっ?」
イリアは勢いよく振り返る。
しかし。
そこには風に揺れる花壇しかなかった。
「……。」
ゆっくりと振り返るイリア。
ラグドールは口元を押さえながら笑っている。
「……なーんて、冗談…」
「ラグドール。」
ララビットが静かに名前を呼ぶ。
「はいすみません。」
真顔で即謝罪をするラグドール。
そのやり取りに、イリアは思わず苦笑した。
「…もう……びっくりしましたよ。」
「…でも。」
ララビットは空を見上げながら思い出すように言う。
「ミシェルなら、さっき見かけたよ。」
「二階の窓から、暇そうな顔してぼーっとしてた。」
ラグドールも頷く。
「やっぱり構ってくれる人がいないと、退屈なんでしょうね。」
「な、なるほど……。」
イリアは小さく頷く。
「じゃあ二階へ行けば……。」
踵を返そうとした、その時。
「……あ。」
ラグドールがまたイリアを呼び止める。
「イリアさん、後ろ。」
「はい?」
さっきと同じ言葉。
イリアは「また冗談でしょう?」という顔で苦笑しながら、ゆっくりと振り返る。
「やっほー。」
突然、すぐ後ろから声がした。
「ひゃあっ!?」
イリアは肩を大きく震わせ、慌てて振り返る。
そこには、いたずらが成功した子どものような笑みを浮かべる白髪の少年、ミシェルが立っていた。
「そんな驚く?」
「み、ミシェルさん……!」
イリアは胸を押さえながら小さく息を整える。
「…ヴェルクさんのメモ、持ってますよね? 返してください。」
「やだ。」
即答だった。
「えっ。」
その一秒後。
「じゃあねー。」
ミシェルは軽やかに踵を返し、一目散に走り出す。
「あっ、ちょっと!」
イリアも慌てて追いかける。
逃げる途中、ミシェルはテーブルの上に積まれていた一冊の小説をひょいと持ち上げた。
「あ、それ貰ってくね。」
「ちょっ!? 私の小説!!」
ラグドールが思わず立ち上がる。
「あとで返すってー!」
「あとでって絶対信用できないんだけど!?」
ララビットは額に手を当て、大きくため息をつく。
「……まーた始まった。」
その拍子に、ラグドールの腕がティーカップへ当たる。
「あっ。」
カラン。
ティーカップは床へ落ち、紅茶がぱしゃりと飛び散った。
「……。」
ララビットは目を丸くしてその光景を見つめる。
「……え?」
数秒の沈黙。
「これ、私が掃除するの?」
ラグドールは目を逸らした。
「……お願いします。」
「は?」
◇
「待ってくださいミシェルさんー!」
屋敷中にイリアの声が響く。
「メモ渡してください! ラグドールさんの小説も!」
「無理〜。」
ミシェルは振り返りながら笑う。
その余裕そうな表情に、イリアは少しだけ悔しそうに頬を膨らませた。
廊下の途中では、ローラが優雅に紅茶を飲んでいる。
「また始まったわね。」
その隣では、ナターシャが首を傾げていた。猫耳がピクリと動いた。
「……なんの騒ぎ……? イリア……?」
「いつもの追いかけっこよ。」
「……。」
ナターシャは走っていくイリアをじっと見つめる。
「……イリア。」
小さく拳を握る。
「……頑張って…。」
応援だけだった。運動は苦手なのだ。
「あ、ありがとうございまーす!」
走りながらイリアが返事をする。なかなかシュールな光景である。
その直後。
ミシェルは開いていた窓枠へ軽く足をかけた。
「じゃ、近道〜。」
「えっ。」
「ミシェルさん!?」
ひらり。
まるで猫のように軽やかに飛び降りる。
「だから危ないですってー!」
イリアの叫びが屋敷に響いた。
◇
「こら。」
着地したミシェルの前に、一人の影が立っていた。
「私の小説。」
ラグドールだった。
「返してください。」
「えぇ〜。」
ミシェルは少しだけ口を尖らせる。
「先回りズルくない?」
「私は賢いので。」
「まぁ、いいや。」
ミシェルは素直に小説を差し出す。
「はい。」
「こういうところは素直なんですよね……。」
ラグドールは苦笑しながら受け取った。
「メモも早めに返すんですよ?」
「はーい。」
「ではー。」
そう言ってラグドールはのんびりと歩いていく。
数十秒後。
「はぁ……はぁ……。」
息を切らしたイリアがようやく追いついた。
「ちょっとミシェルさん……!」
「うわ、早っ。」
「窓から飛び降りるなんて危ないでしょう!」
「え〜……でも。」
「でも、じゃありません。」
イリアは両手を腰に当てる。
「窓から飛び降りるの、禁止です。」
「ふん。」
ミシェルは突然真顔になる。
「つまんな。」
「急に真顔になるのやめてください……。」
イリアは疲れたように肩を落とした。
「……とりあえず、メモ。」
ようやく息を整え、手を差し出す。
「追いついたので返してください。」
「もう返したよ?」
「……え?」
「つまんなくなったから。」
ミシェルはあっけらかんと言う。
「だいぶ前に返しといた。」
「……。」
イリアの思考が止まる。
「じゃあ私、今まで何を……。」
ミシェルはにっこり笑った。
「遊び。」
「遊びじゃありません!!」
そのツッコミは、西棟中に響き渡った。
コメント
2件
作者コメント┊︎ イリアパイセン、ミシェルの処理お疲れ様です。
第三話、めっちゃ好きだわ…!ミシェルの自由奔放さが最高で、追いかけっこしながら「遊び」って言い放つとこ、思わず笑ったわ。イリアの真面目なツッコミと息の合った掛け合いがテンポよくて、読んでてすごく楽しかった。ラグドールとララビットの小話もいいスパイスになってるし、キャラの魅力がしっかり出てる回だったな。次も楽しみにしてる🔥