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「それでは冒険者の皆、安全第一で頑張ってね! 今週もアリアと」
「エリナがお伝えしましたっ! それじゃ、またね!」
レナードが右手を上げて終了の合図を出した。
録音完了だ。
アリアがふっと息をつく。
「原稿を読むの、結構疲れるよね。迷宮第10階層と同じくらいの緊張感があるから」
確かにアリアの言う通りだ。
しかし私は思う。
「それでも討伐だけしていた頃は、生活かつかつだったしさ。あの頃の事を考えたら天国だよ、今の生活。あのままじゃ、今みたいに3人でお家を借りるなんて絶対無理だったろうし。それにこのお仕事のおかげで、迷宮内での死亡者や負傷者が減ったみたいだしさ。私達にとっては迷宮内の魔物討伐以上に意義がある仕事だと思う」
「確かにそうだよね。その辺はやっぱりレナードに感謝しないとなあ。今だってレナードがいないと魔石に録音なんて出来ないからね」
「問題無い。あと編集完了。録音の確認する?」
「ありがとう」
私とアリアは、レナードから録音・編集済みの魔石を受け取る。
魔石を握って意識を集中させると、先程私とアリアが録音したものが頭の中に流れてきた。
『こんにちは! 週刊アドストリジェン迷宮情報、9月11日号だよ。今回も私、アリアと』
『エリナがお届けするねっ! まずは……』
声はやっぱり、いつも聞いている自分の声と違う。
アリアの声は録音されたものといつもと、同じように聞こえるけれど。
以前アリアも、似たような事を言っていた。
『この録音された声、いつもの私と違うよね。台詞や口調が違うせいだけじゃないと思うんだけれどなあ。エリナの声は同じように聞こえるけれどね』
しかしレナードに言わせれば、それは当たり前らしい。
『自分が聞こえる声と、外に発している声は、違うように聞こえるのが普通。理由は音声の伝わる経路が違うから。だからそう感じて当然』
確認が終わると、レナードが複写魔道具を使って、魔石300個に編集・録音された内容を複写する。
こんな感じで、魔石に録音した音声形式の情報を作って売ること。
それが私達青い薔薇パーティの、魔物討伐と並ぶ収入源。
この収入でのおかげで、今の家を借りることが出来た。
それぞれの個室があり、作業場もあり、この国では貴族邸くらいしかないお風呂もあるお家を。
お風呂はまあ、レナードが作業場を改装して作ったものだけれど。
半年ちょっと前、パーティを組んだばかりの頃と比べると、夢のようだと言っていい。
あの頃は安宿の3人部屋に泊まりつつ、明日の宿代を稼げるか不安におびえていたから。
◇◇◇
冒険者のランクとして冒険者ギルドが規定しているのは、特級、A級、B級、C級、D級の5ランク。
これは、
○ 肉体的な強さ
○ 格闘戦の実力
○ 魔法の実力
○ 今までの実績
などを鑑みて、格付けした結果だ。
特級やA級は、国で数える程しかいない連中。
だから一般的に一流とされるのは、B級の冒険者だ。
C級はまあ中堅クラスで、D級は駆け出しの半人前。
しかし一流である筈のB級冒険者でも、その日暮らしで宿代にも困るなんて人は結構いる。
つまりギルド規定の冒険者ランクとは別に、生活力的な冒険者ランクがあると思うのだ。
仮に上流、中流、下流、底辺とすると、私のイメージによる分類はこんな感じ。
○ 最上:功績をあげた事により国から騎士候位等を授けられ、働かなくても定収入が有り、家屋敷を持っている冒険者
○ 上流:指名依頼と気に入った依頼だけをやっても充分以上の収入が得られる、家屋敷持ちの冒険者
○ 中流:定期的に依頼をこなさなければならないけれど、それなりの貯金があって、定宿か自分の家がある冒険者
○ 下流:基本的には毎日依頼や討伐をやるけれど、ある程度定期的に休みをとれて、住む場所にも困っていない冒険者
○ 底辺:住む場所の確保すら危うい冒険者
家にこだわっているような気がするけれど、衣食住はやっぱり大事。
なお宿に泊まる事すら出来ない最底辺以下や、盗賊・強盗なんてやっている犯罪者は論外とする。
そして駆け出しの頃の私達は、まさに底辺冒険者。
明日の宿賃を稼げるかどうかに怯えつつ、毎日朝から夕方までダンジョンで魔物を追いかけていた。
理由は簡単。冒険者としての実力が今ひとつで、効率がいい稼ぎ方も知らなかったから。
私達『青い薔薇』は冒険者学校で同期だった、
○ 槍と火属性魔法、防御魔法が使える魔法戦士の私
○ 治療回復魔法と聖魔法が得意で殴り攻撃も出来る治療士のアリア
○ 攻撃魔法専門の魔法士レナード
の女子3人で結成した冒険者パーティ。
冒険者ランクはレナードがC級で、私とアリアがD級。
アドストリジェン迷宮が主な活動場所だ。
女子3人パーティになったのは、一言で言えば売れ残ったから。
少なくとも私とアリアはそうだ。
戦士等の前衛系職業は、男性限定の募集がほとんど。
身体の大きさと頑丈さ、力の強さが違うから、ある意味当然。
だからこそ私は攻撃魔法や防御魔法、身体強化魔法を使えるように鍛えたつもりだった。
それでも身体的なハンデを覆すには至らなかった。
『どうせなら中途半端に魔法を使えるより、基本となる腕力や戦闘力が高い方がいい』という事で。
アリアが売れ残ったのは、もっと簡単な理由。
ここアドストリジェン迷宮では、治療士の需要が少ないから。
アドストリジェン迷宮は古くからあって、冒険者多数が毎日出入りしている巨大迷宮。
だから冒険者をサポートする、転送ポイントやセーフティポイントが充実している。
第30階層といった奥地であろうと、半スルザンもあれば迷宮出口まで戻ってくる事が可能だ。
つまり怪我をしても毒や麻痺なんて事になっても、よっぽどの事が無い限り戻ってくる事が可能な訳だ。
そして出口には、冒険者ギルド直営の治療回復室も完備。
わざわざ治療士《ヒーラー》を雇う必要性は薄い。
勿論深層の強力な魔物を相手にするなら、戦闘中でも回復する必要があるだろう。
しかしそういったパーティが必要とするのは、熟練の治療師《ヒーラー》。
学校出たての治療士《ヒーラー》なんてお呼びではない。
アリアもそれはわかっている。
だから学校では治療回復のほか、退魔魔法等の聖魔法、更には前衛もこなせるように杖術も習得した。
アンデット対応殴り治療士《ヒーラー》というスタイルだ。
それでも巷に蔓延る治療士《ヒーラー》不要論には勝てなかった。
勿論女性大歓迎なんてパーティもあるにはある。
しかしそういったパーティはえてして嫁募集とか、性処理希望とかが目的。
しかもその大半がレベルが低い、喧嘩自慢が生き残っただけという感じのパーティ。
冒険者学校を出たのに、そこまで落ちぶれたくはない。
男子連中は、そこそこの冒険者パーティだの商会の護衛輸送隊だのに就職を決めている。
同期女子5人のうち2人は、実家のコネで就職決定。
卒業を間近に控えた3月頭、就職先が決まっていないのは少数派だ。
私もアリアも、頼れるような実家や知り合いはいない。
自分達だけで、卒業後の生活をなんとかするしかないのだ。
今は無料で住む事が出来る冒険者学校の寮も、3月一杯で追い出されてしまう。
それまでには住む場所だけは確保しないとならない。
「こうなったら当分の間、迷宮の浅い階層に2人で入って鍛えるしかないかなあ」
「でもそれだけじゃ食べていくのは無理。まずはアルバイトを探さないとさ」
「いいバイトあるかなあ」
レナードに声をかけられたのは、そんな話をしている時だった。
「もし良かったらだけど、私とパーティ、組んで欲しい」
私にとっては、正直意外だった。
アリアにとってもそうだった模様。
2人で顔を見合わせた後、質問してみる。
「レナードなら、商家でも研究職でも問題無く就職出来るじゃない?」
「冒険者になる為、この学校に入った。冒険者ではない仕事はやりたくない。でも魔法使いとは言え、新人女子を正当な理由で採用してくれるまともなパーティは無かった」