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プロローグ(遥 はるか)
夏の匂い
※この物語はフィクションです
言葉には、匂いがある。「ありがとう」は、少しだけ甘くて、
「さようなら」は、ひんやりと土の匂いがする。
誰かの本音も、嘘も、全部鼻を通ってわかってしまう。
小さい頃は楽しかった。でも今は、ちょっと息苦しい。
ここは、俺が生まれて育った町だ。
山と川に囲まれて、時間の流れもゆっくりで。
夏になると、セミと草の匂いがいっせいに満ちる。
それが嫌いだったわけじゃない。けど──
あの日、知らない女の子の声がした。
匂いが、しなかった。
言葉にまとわりつく感情が、どこにもなかった。
気づいたら、そっちを振り返ってた。
この夏が、いつもと違う予感がした。