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ホン・キオーテで安いカップ麺を買い漁って公園に寄る。余命宣告。悪魔。
そんなあまりにも現実味のないことを考え、ボーっとしていると
「あれ?市野様?」
と苗字を呼ばれる。
「え?」
と思い声の方を見ると黒髪、尖った耳の男が立っていた。あの悪魔だ。
しかし朝の喪服のようなスーツと違い、パーカーにジーンズというラフな服装だった。
「あぁ、どうも」
「なにしてるんですか」
と言った後視線が僕の横を向いて
「あぁ!市野様もホンキで買い物してたんですね」
と恐らく黄色のレジ袋を見て言った。
「あ、はい」
「お隣いいですか?」
「あ、どうぞ」
黄色のレジ袋を退ける。
「あ、ありがとうございます。失礼します」
その悪魔が座る。しばし沈黙。
「あ、そうだ。これからお昼ですか?」
沈黙を破ったのはその悪魔だった。
「あ、はい。家帰ってカップ麺を」
「なるほど。ホンキ安いですもんねぇ〜カップ麺」
「はい」
「あ!そうだ!」
その悪魔は手をあて、パンッ!っと綺麗な音を出す。
「うち来ません?私もこれからお昼なんですよ。ま、仲間も一緒でよければどうですか?」
とお昼ご飯に誘ってもらった。正直この悪魔に寿命を吸われるのではないか?とか
人見知りとまではいかないと思うけど
自分自身あまり他人と関わるのが得意なほうではないしで断ろうとも考えたが
断ったら断ったで怖いと思ったのでそのお誘いを受けることにした。
「じゃちょっと1本電話入れますね。待っててください。あ、荷物見といてもらえます?」
「あ、わかりました」
荷物はちゃんと見つつも怖かったので
少し離れて電話をかける悪魔の会話内容を耳をそばだてて聞くことにした。
「あ!もしもしぃ〜?あ、買った買った。今帰るとこ。んでさ、昼1人増えてもへーき?
あ、違う違う。あの朝言ったじゃん。そうそうその人。いやたまたま会ってさ。うん。
寂しくて死にそうだったから。うん。まあね?いや笑い事じゃねーよ。うん。オッケー。
じゃすぐ帰るわ。うん。サンクスー。へーい」
拍子抜けするほど普通の会話だった。
背を向けたままスマホをパーカーのポケットに入れて、こちらを向いて歩いてくる。
「オッケーでしたー」
「はあ」
「じゃ行きましょうか!」
「はい」
こんなことならもっとちゃんとした服を着てくれば良かったと思った。
マンション前に着くとさらに自分の服装が恥ずかしくなった。
私の住むこの一帯では一番の高層マンション。20階建て。そこに入っていく悪魔。
黒ではないが黒に近い灰色がベースで黒や白も入っているシックで落ち着き、オシャレなエントランス。
間接照明に観葉植物やソファーなども置いてある。
ひょこっっと出ている部屋番号を押す機械にカードをかざす悪魔。
静かなモーター音がして、エントランスのガラスのドアがゆっくりとスライドして開く。
「どぞぉ〜」
高級そうな雰囲気のエントランスを進み、高級そうな雰囲気のエレベーターに乗る。
悪魔が階数のボタンを押す。20階。どうやら最上階に住んでいるようだ。
ゆっくりと静かにエレベーターが上がる。
階数のボタンの一番上のパネルの数字がどんどん増えていく。17、18、19、20。
上からの圧迫感というか、下に引っ張られる感がなくなる。
ゆっくりとエレベーターの扉が開く。すると驚いた。
内廊下は短く狭く、扉は1つしか見当たらなかった。もちろん非常階段の扉を除いて。
私も社会に出てはいないが社会人で成人の端くれ。
しかも小説を書くために家の間取りなどはちょくちょく見ている。
ミステリーを書くなら、なおさら部屋の造りなどは気にしなければならい。
なのでマンションの最上階は他の階よりも部屋数は少なく、1部屋が広いというのは知っていた。
ここが建設されるときも建設された後も資料を貰って眺めたりもした。たしか各階4部屋ほどはあったはずだ。
しかし最上階の20階が1フロア丸々1部屋だなんて考えもしていなかった。
驚いているとその悪魔がドアノブの上にカードをかざす。カチャッっという音がして
「どぞどぞぉ〜」
とドアを開いてくれる。ペコペコ頭を下げながら玄関へお邪魔する。とてつもなく広い玄関。
そこにサンダル。恥ずかしくなってくる。
「すいません裸足で」
「あ!全然全然!あ、よかったらスリッパ使います?」
と言って靴を脱いでシューズクローゼットを開ける悪魔。
チラッっと覗くと靴がたくさんあった。中には女性ものもあり
あ、女性と住んでいるんだ。さっきの電話の相手はその女性か
と思った。
「えぇ〜っと…スリッパスリッパ…。あっ!あった」
ビニールのカシャカシャ音が聞こえる。
「どうぞ」
スリッパを出してくれた。
「あ、すいません。ありがとうございます」
スリッパを履くなどいつ振りだろうか。普通に歩くとパカンパカン音がするのですり足にしたほうがいいのか。
でもすって歩くと床に傷がついてしまうかもしれない。
悩んだ挙げ句、その間をとって、少し足を浮かして少しすって歩いた。
悪魔が廊下の突き当たりのドアを開いてくれる。
するとその扉の先にはとてつもなく広いリビングが広がっていた。そのリビングの奥にはベランダがあり
ベランダの柵の先には高層マンション、最上階からの景色が広がっていた。
「ひろっ…」
思わず声が漏れ出た。
「広いですよねぇ〜」
パッっと左側を見るとアイランドキッチンなるものがあり
そこにオレンジ髪の男の人がスマホをいじりながら立っていた。
「おすー!ただいまー!」
「んー。おかえりー。あ、いらっしゃいです」
と言われた。少し目が鋭く、黒髪の悪魔より怖そうだと思った。
彼も耳が尖っており、黒目が縦長の楕円形だった。もしかして…。
「あぁ、紹介します!こいつも悪魔で」
やっぱり。
「ちょっとクールですけど、実は火のやつ。うん。火。名前は」
「イビ・オーデル・アファノホです。よろしくお願いします」
「あ、お願いします。市野星縁陣(せえじ)です」
「どもです」
「うちの料理担当でーす!火加減うまいんですよ!」
「味もな」
「んんー。まあ?及第点。あ、これ頼まれてた胡麻っ…と、刻み海苔ね」
「ん。さんきゅ」
「あ、どぞどぞ。座ってください」
と黒髪悪魔に促され、これまたどデカいソファーに腰を下ろす。
周りを見渡す。壁掛けのどデカいテレビ。そのテレビがかかっている壁にドアが1つ。
左側、ベランダ側は全面ガラスのスライドドア。どこからでもベランダに出られるらしい。
これは最上階、そして高層マンションの特権だろう。周りに同じくらい高いマンションがないため
別に覗かれることもないだろうから全面ガラスドアでも問題ないのだろう。
覗かれる心配がないからか、カーテンもしていない。
そしてベランダと反対側はドアが1つ。そして廊下があった。きっと部屋があるのだろう。
それかお風呂。聞くとトイレは2つあるらしい。お風呂も2つ。とんでもない。
「でーきまーしたー!ざる蕎麦です」
「あ、すいません。ありがとうございます」
「いえいえ。料理担当で火加減最高!とか言ってたのに火加減関係ない料理でウケますね」
なんて返したらいいかわからなかった。
「いいから呼んでこい」
「へーいへい。あ、ちょっと待っててくださいね!」
と言って廊下へ小走りで行った。コンコン!
「お昼ー!でけたよー!」
コンコン!
「お昼だよー!」
と各部屋へノックして呼びかけていた。数えていたら4回。
黒髪悪魔とオレンジ髪悪魔の他に4人いるらしい。緊張してくる。カチャッ。扉の開く音が聞こえる。
「ふぁ〜…お昼ぅ〜?」
ピンク髪のダルダルの服を着た女の子?と思うほど可愛い顔の恐らく男の子が
目を擦りながら部屋から出てきた。
「起きー!」
と言いながら黒髪悪魔がそのピンク髪の子の髪をわしゃわしゃする。
「わぁー!やめー!」
「顔洗って歯磨いてきて」
「はーいよ」
ピンク髪の子がダルダルの服の袖を捲りながら歩く。
足元も足が見えないほどダルダルのパンツを履いている。そしてなにより、耳が尖っていた。
恐らくこの子も悪魔。なんて思っていると次々と尖った耳の子が現れた。お次は黄色の髪の女の子。
「今日静電気すごくない?」
「お前だけな?」
「そお?わ!誰」
「あ、すいません。お邪魔してます。市野星縁陣(せえじ)です」
「あ、ども。で、誰」
「んー。オレの友達?」
「へぇ〜。よろしく!」
黄色の髪の女の子が手を出す。握手を求めているようだ。
「あ、よろしくお願いします」
私も手を出し、黄色の髪の女の子の手を握ろうとした。パチンッ!
「痛っ!…」
静電気だ。しかし黄色の髪の女の子は平然とし、なんなら笑っていた。
「ごめんごめん!これが私が仲良くするために最初にすることなんだ!」
「紹介しますね。こちら電気の子です。ビ・サルダー・デトンルボ。悪魔です」
来た。はい悪魔。
「どもぉ〜悪魔でぇ〜す」
「電気だから静電気ごとき屁でもないんですよ」
「そそ。なんなら私から出てるから」
「なんか賑わってますね」
今度は青色より水色よりの髪の女の子が現れた。
「あ、紹介するー」
「聞こえてたよ。市野星縁陣さん。人間さんですね。
あ、私はジェターズ・エン・ミウォールです。よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
「彼女は天使です」
ほらまた来た天…天使?
「天使!?」
「はい。天使です」
悪魔に慣れている自分にも驚いたが、まさか天使もいるとは。しかしもはや疑うことすらしなかった。
「水の天使です。水の大切さ、尊さを伝えるのが使命です」
「堅苦しい堅苦しい!ミウォールは堅苦しいよ」
「デトンルボが崩れすぎなんですよ」
「未だに私に敬語だし」
「ゴージェは?」
オレンジ髪の悪魔がざる蕎麦を運んできて言う。
「呼んだんだけどー」
「行ってくるか」
オレンジ髪の悪魔が腰巻きのエプロンを取って、イスの背もたれにかけ、廊下へ行った。
コンコン!
「おーい。ゴージェー。昼ー」
コンコン!
「入んぞー。…おい、昼だって」
「わ!びっくりした。ちょっと!入ってこないでよ!」
「んだ。ゲームやってたのか。はい。あとあと。お昼食べるよー」
「待って!今マッチ中!仲間に迷惑かけるし!てか今配信中なんだけど!」
「あ?また配信してんのかよ。そのマッチ終わるまで待っててやるから、はやく終わらせろ」
「全く。あ、ごめんなさいね皆さん」
「コメント…あ、これか。またイケボ乱入。また彼氏きた。皆さーん。また来ましたー」
「は!?彼氏じゃないし!待って撃たれた。敵おるて!集中できないマジ!」
どうやらゲームをしているようだ。めちゃくちゃ盛り上がっている声が漏れてくる。
そんな声を聞いていると先程扉に入って行ったピンク髪の子が扉から出てきた。
相変わらず寝癖でダルダルの服。僕を見るなりその可愛い顔の丸く大きな目をさらに大きくし、驚いていた。
「お客さん?」
「あ、そそ。オレの友達?」
「へぇ〜。こんにちは」
「あ、こんにちは。お邪魔させてもらってます」
「この可愛いのがですね、恋愛の天使」
「恋愛の」
「そうなんです。だからこんな顔してダラシないけど、恋愛のエキスパートですね」
「えへへ〜」
ダルダルの袖でまるでマンガやアニメのように、照れながら後頭部を掻いていた。
「よく人間が言う「恋のキューピット」は、この種族の天使が元ネタなんじゃないかって言われてますね」
「あぁ、たしかに言いますね。恋のキューピット」
「星縁陣(せえじ)!見て見て!」
「はい?」
急に名前で呼ばれてビックリするも呼ばれたほうを見る。
そちらを見ると黄色髪の悪魔が自分の席のテーブルの上に置かれた
恐らく水の入ったグラスの水面に人差し指を近づけていた。
「見ててよぉ〜?」
言われるがまま見る。黄色髪の悪魔が静かに、ゆっくりと人差し指の先を水面に触れさせる。
するとそのグラスの中の水に雷のような光が
まるで生き物のように光りながら螺旋状に回っているのが見れた。
「え、すご」
「んふふ〜。すごいでしょ〜?信じた?うちが雷の悪魔だって」
「あ、まあ、はい。最初から疑っては…まあ多少は夢見心地だったかもですけど」
「硬いなぁ〜!」
「いや、まあ…。雷?あれ?さっき電気って」
「んま似たようなもんでしょ」
「雷は積乱雲の中に電荷がたまることで発生する自然現象で
電気は「電子」と呼ばれる小さな粒子が物質内を移動することで生じるものの総称です」
水の天使が入ってくる。
「細かー!覚えてなーそんなの」
「魔界で勉強したのでは?」
「した。てかさせられた?ま、思い出そうとすれば全然思い出せるけど
それより楽しいこといっぱいあるしー!とりあえず可愛いを目指す!」
充分可愛いと思うが。
「よっし。これで全員揃ったなー」
「もうちょっとやればもうちょっとお金稼げたのにー」
「悪かったよ。でもお昼食べてからでもいいだろ」
「まあぁ〜…だいぶ軌道に乗ってきたからね。ってお客さん?」
「お前聞こえてなかったの?」
「こいつヘッドフォンでゲームしてたから」
「なるほど」
「市野さん。オレの友達?」
「あ、お邪魔させていただいてます。市野星縁陣(せえじ)です」
「あ、どうも。ゴージェです」
金髪のその女の子も耳が尖っていた。漏れなく悪魔か天使。ここに住む住人は全員天使か悪魔のようだ。
「彼女はお金の天使。フルネーム、エルマ・ネードル・ゴージェです」
「ゴージェでいいですよ」
「あ、どうも。ゴージェさん」
「今さらですけどタメ口でいいですよ」
「あ、はあ」
「じゃ、まあ食べますか」
「冷めないうちにー」
「冷めないよ。元々あったかくないし」
「じゃ、いただきまーす」
「「いただきまーす!」」
全員がそれぞれの言い方、テンションで言う。小、中学校のときの給食を思い出した。私も
「いただきます」
と言ってざる蕎麦に手をつける。もちろん美味しかった。
美味しかったが、なんてことない至って普通のざる蕎麦だった。
「おかわりー!」
電気の悪魔が最初に食べ終えた。
「おかわりね。今日は少ないけどな」
オレンジ髪の悪魔が電気の悪魔のお皿を手に席を立ってキッチンへ向かった。
「いっつも言ってますけど、太りますよ?」
「天使は太るんだろーね?悪魔は太らないのだよ」
「天使だって太りません。というか太りたければ太れますし、痩せたければ痩せられます」
「同じじゃん」
「まあ美味しそうに食べる女の子は可愛いよね」
「だよねぇ〜ジェイバーズたんはわかってるぅ〜」
電気の悪魔が恋愛の天使を愛でている。悪魔と天使が仲良くしている。思いもよらなかった。
というか冷静に考えると朝悪魔に出会って、昼に再会して、家にお呼ばれすると
そこには悪魔が3人、天使が3人いるというこの状況も思いもよらないものだった。
「はい。おかわり」
「おぉ!さんくす!」
尖った耳でカラフルな髪の天使と悪魔が一堂に会し
昼食と摂るという異様な光景を見ながら、私もざる蕎麦を食べ終えた。
各々が各々のお皿をキッチンのシンクへと運んだ。
恋愛の天使のお皿はオレンジ髪の悪魔がキッチンへと持っていった。
お皿を洗う係は水の天使らしい。電気の悪魔に
「おもしろいから見に行ってみ?」
と言われ、見てみることにした。水の天使が水道の取手を上に上げる。すると水が出る。めちゃくちゃ普通だ。
正直水道の水など使わずに手からどこからともなく水を生み出して洗うのかと思っていた。
あの電気の悪魔に揶揄われたか?と思っていると
洗うはずなのに少し水を出したら、もう取手を下げて水を止めてしまった。
え?と思って見ていると少し出した水がその水の天使の手にまるでスライムのように張り付いていた。
そしてその水をお皿に溜めたかと思うと、その溜まった水がまるで蛇のような生き物のように動き始めた。
まあざる蕎麦だったので汚れは少ないが、まるで人間食器洗い機。いや、人間ではないので天使食器洗い機だ。
「すごいね。なんかバトルもののマンガとかアニメみたいだね」
「そうですか?あっちのほうが全然すごいと思いますけど」
「まあ、オレからしたら、こんなのが目の前で起こってること自体すごいんだけどね」
「まあ、たしかにですね」
「相手を拘束できたりしないの?水で、こう」
「無理ですね。私の肌のどこかに触れていないと操れないので」
「あ、そうなんだね。なんか非現実的なのに現実的なんだね」
「まあ、なので、プールとか海では無敵ですよね」
「たしかに。喧嘩売ったら終わりだね」
「ふふふ。終わりですね」
初めて笑顔を見た。可愛らしい笑顔だったが、会話内容が会話内容だけに少し恐怖を感じた。
お昼ご飯を食べたテーブルに戻り、イスに座る。
ソファーに座って、ジャガイモのチップス「ポテイトチップス」通称「ポテイチ」を食べながら
テレビを見て笑っている電気の悪魔が振り返り
「ど?おもしろかった?」
と聞いてきた。
「あ、うん。すごかった」
「人間が見るとねぇ〜、魔法に見えるよね」
「たしかに」
「でも魔法みたいにはいかないのよなぁ〜」
「あ、やっぱ…。なんて呼んだらいい?」
「うち?なんでもいいよー。サルダーでもデトンルボでもビでもいいよ」
と言ってニコッっと笑う。八重歯が光る。
「ビはないでしょ。ビは。じゃあぁ〜…ルボちゃんは?」
「おぉ。呼ばれたことない」
「ダメ?」
「いや?全然?なんか可愛い響きだしオッケー!」
笑顔で腕で「丸」を作るルボちゃん。片手にはポテイトの袋があった。
「届かん。下せ」
オレンジ髪の悪魔がルボちゃんの腕を引っ張る。
「おうっ、ごめんごめん」
「オレはアファノホでいいよ。よろしく」
「あ、よろしく」
「僕はジェイバーズたんってよく呼ばれる〜」
「んん〜可愛いジェイバーズたん!」
「主にこれにな」
「よろしくねぇ〜」
「うん。よろしく」
「私はミウォールで。この中では比較的呼びやすい名前かと」
後ろから声がし、振り返る。水の天使がお皿を洗い終え戻ってきていた。1席空けて、私の隣に座った。
「あ、うん。よろしく」
「よろしくお願いします」
「あれ?ゴージェは?」
「あぁ、あいつはすぐ部屋帰ったよ。配信配信って言いながら」
「好きだねぇ〜」
「ま、うちの大黒柱だから文句は言えないけど」
「あの金髪はゴージェって呼んでくださいね」
ミウォールに言われる。
「あ、はい。ゴージェ…さんは大黒柱って」
「あぁ、ここの部屋買えたのもあいつのお陰だし
そもそも食費とか光熱費とか諸々のお金もあいつの稼ぎのお陰なので」
「あ、そうなんだ」
「そそ。あいつはお金に関してすごいから」
「すごい?」
「それこそ今配信してるやつも、このタイミングでこのゲーム配信したらはねるとか
そーゆーお金の匂いがわかるんだよあいつ。だから配信始めた初日で登録者ドーン!って増えたもん」
「すごいね」
「なんでだっけ?」
「たしか生配信でプロ選手が同じときに生配信してて、同じ時間に同じ神プレイをたまたまやったんよ。
んで「マジ奇跡!」「この配信者激ウマじゃね?」「いや遡って見てみたけど全然上手くないwただの奇跡w」
「ただ楽しんでるだけw」「でもこの人見てるこっちも楽しくなる」ってコメント欄で賑わって
みるみるうちに稼げるようになったんだよ」
「すごいね。大金持ちになれるじゃん」
「まあ、ね。でもあくまでも「天使」だから
人を幸せにするお金、人のためのお金じゃないとダメらしい」
「へぇ〜。じゃあ宝くじとかもダメなのかな?」
「当たるんじゃない?たぶん」
「すごっ」
「でも配信のときの話でわかったと思いますけど「どういう理由で稼げるようになるか」はわからないので
宝くじ買うにしても「この売り場からお金の匂いがする」ってだけで
「いくら分買えばいくら当たる」とか「当たりの番号は何番」とかまではわからないと思います」
「へぇ〜…。なんかさっきのミウォールちゃんの話もそうだけど、非現実的なのに現実的なんだね」
「なになに?どゆこと?」
ルボちゃんがこちらを向いて興味津々に聞いてくる。
「あ、えっとミウォールちゃんの水を操るのって、バトルマンガとかアニメみたいで
相手拘束できたりするの?って聞いたら、自分と触れてないと操れないっていうから」
「なるほどね。そーゆーことか」
「ルボちゃんもそうなの?」
「そーだねー。そうだね。私も鉄パイプを相手が持ってて、私もその鉄パイプ持ったら電気通して相手倒せる」
「めっちゃ特殊な状況だね」
「こいつも火操れるし。ね?」
と言いながらアファノホの頭に手を置く。
「ん?あぁ」
「一応みんな体内から生み出せるんだよ。あ、お金以外はね」
「あ、じゃあミウォールちゃんも水出せるには出せるんだ?」
「はい。出せますけど」
そう言ってミウォールちゃんは掌から水を生み出して見せた。
「おぉ~。ほんとだ、すご。へぇ~、あ、そうなんだ」
「なんで?」
「いや、ふつーに水出して洗うもんだから
水を生成して洗って水道代節約ーとかではないんだーって思ったから」
「一応体内で生成してるんですよ?言っちゃえば汗とか涙みたいなもんですよ?
一応綺麗な水ではありますけど、嫌でしょ。そんなんで洗われるの」
「なるほど。たしかに」
その後も慣れというものは本当に怖いもので
悪魔、天使と呼ばれる人たちと楽しい時間を共に過ごし、あっという間に時間が過ぎ去っていった。