準備を終えたコユキは、例のショッキングピンクのブラと、それに合わせて編み直した同色のパンツに身を包んでいた。
そう、新生勝負下着を装着し、がちバトル上等、どんな美少年の挑戦も受ける! バッチ来~い! 状態であった。
多少出遅れた感じのコユキではあったが、それ位で慌てる様なおっちょこちょいさんではなかった。
通路の入り口付近まで近付いてから、顔だけを出して、そーっと様子を伺ってみた。
「っ!?」
コユキの位置からそう離れていない場所に、二頭の巨大生物は移動もしないで、所在なさげに立ち尽くしていた。
カバを依り代にした事は、その巨体と全体のフォルムから間違い無いだろう。
ただし、雄の方は鮮やかなオレンジ色、雌はコユキの下着よりも淡い、薄ピンク色の体躯(たいく)をしていた。
何故、雌雄の区別が付くのか?
簡単である。
オレンジの方の顔には長い鼻が付いていたが、その形状は男性の生殖器その物であったからだ。
ピンク色の方は鼻は無く、代わりに縦に裂けた口が、女性のソレにそっくりなのだ。
グロと言えば、いや、どういってもグロい事この上なかった。
「恋人、いや夫婦、番(つがい)なのか! リア充なんだね、爆ぜろっ! ……む、何を?」
悪態を吐(つ)いていると、ピンクの方が、やつ等の先で尻餅をついている少年に向かって歩き出して行くでは無いか!
「くっ! 間に合うか? アクセル」
大急ぎで飛び出したコユキが、少年と二頭の間に姿を現すのと、雌が少年に話し掛けたのは殆(ほとん)ど同時だった。
ザザッ! 『ぼく、大丈夫?』
結果、雌はコユキに語り掛けた格好になった。
パクパクと蠢く口は、丁寧に説明すれば、すぐさまノクターンへお引越しを余儀なくさせられる物であった。
「くっ!! 少年! 下がって、目を閉じてなさい!」
こんな物、純真な少年にはトラウマにしかなりえない!
そう直感したコユキは咄嗟に指示を出す。
「う、うん…… 分かった、おじさ、おば、大きな人! がんばって!」
グッ!
少年の声援に大きな人はサムズアップと大きな背中で答えた。
そんなコユキと、彼女が背中で守った少年を前に、ユイは戸惑ったようにジローに話し掛けた。
『ね、ねぇ旦那様、突然現れたこの人間、ニンゲン? かな? なんだろう?』
『むむぅ、そうだな、ニンゲンとは少し形が違うようだが…… はぅっ! ま、まさか! くっ! ユイ、下がっていろ!』
そう言うと、雄の方、ジローは自ら二三歩前に出ると、一回大きく息を吸い込んでから、言葉を紡いだ。
『……間違っていたら、許して欲しい…… お前が、き、貴様が『ガタコロナ』なのか?! 正直に答えろ!』
「えっ? えと、ガタコロ? えっ! って、何?」
突然、外国語っぽい感じで呼ばれてしまったコユキはしどろもどろであった。
それも仕方ない事であっただろう、コユキは標準語も怪しい大茶園の中だけで生まれ育った、所謂(いわゆる)、田舎者である。
そんなガタコロとか言う、ポルトガル語っポイ言葉には馴染みが一ミリもなかったのだから。
しかし、そのコユキの躊躇した一瞬でジローは結論へと結び付けてしまったのである。
故に、大声で宣言したのである。
『ブホォウゥアァッ!! 見つけたぞぉぅ! ガタコロナよぉぅ! 今ここで、貴様を滅す!』
『う、うんぅ! うちも、も、 『滅すっ!』』
「え、ええぇ! なんなの! も、もう!」
こうして、悲しき戦いの火蓋(ひぶた)は切られてしまったのであった。
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