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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第33話 〚近づいてしまった距離〛(澪視点)
黒板に書かれた班の名前を、
もう一度だけ見た。
1班。
そこに、
真壁恒一の名前がある。
(……同じ班)
頭では、
もう分かっている。
仕方なかった。
大人が決めた。
誰も一人にしないため。
全部、
正しい理由だ。
なのに——
胸の奥が、
ひやっとした。
「修学旅行の話しよー!」
えまの声で、
現実に引き戻される。
みんなが集まって、
自然に円になる。
その円が、
前より少しだけ、
大きい。
(……距離、近い)
真壁恒一は、
輪の外じゃない。
ちゃんと、
中にいる。
それが、
こんなに怖いなんて思わなかった。
話題は、
持ち物とか、部屋割りとか。
当たり前の話。
でも、
ふとした瞬間に視線を感じる。
——真壁恒一。
前みたいに、
あからさまじゃない。
でも、
“いる”。
近い。
(……逃げられない)
同じ班。
移動も、
食事も、
写真も。
全部、
同じ。
前なら、
距離を取れた。
話さなくても、
自然だった。
でも今は——
“無視できない距離”。
誰かが冗談を言って、
笑いが起きる。
その流れで、
視線が私に向く。
「澪は?」
そう聞かれて、
喉が詰まる。
「……どっちでもいい」
そう答えると、
また話が進む。
問題は、
何も起きていないこと。
嫌なことは、
されていない。
優しい言葉も、
多分、悪気はない。
それなのに。
(……苦しい)
心臓が、
小さく鳴る。
——これは、違う。
——安心じゃない。
助けを求めるほどじゃない。
でも、
一人で耐えるには近すぎる。
ふと、
海翔の背中が視界に入る。
少しだけ、
私の前に立つ位置。
何も言わない。
でも——
そこにいてくれる。
(……ありがとう)
言葉にはしない。
言えない。
でも、
心臓の音が、
少しだけ落ち着いた。
私は、
分かった。
怖いのは、
真壁恒一そのものじゃない。
“拒否できない状況”が、
怖い。
選べない距離。
断れない近さ。
それが、
私を息苦しくさせる。
修学旅行は、
まだ先。
でも——
この班で過ごす時間は、
もう始まっている。
私は、
小さく息を吸った。
(……どうするか)
まだ、
答えは出ない。
ただ一つだけ、
はっきりしている。
この距離を、
“当たり前”にしちゃいけない。
心臓が、
そう言っていた。