テラーノベル
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僕にはこれといった目立つ個性がない。
愛されるおバカキャラの学級長タキト。
弟や妹想いかつ女心にまで詳しいユウ。
ナルシストだけど実は寂しがり屋のリオ。
声がやたらデカくて熱血漢のトオル。
流行りに敏感で可愛い後輩のヒロキくん。
そしてなんでもできちゃう双子の妹みさき。
そんな個性豊かな面々に囲まれている僕、幸島サクヤは唯一どこにでもいるようなごく普通の男子中学生だった。一応ありとあらゆる小説を読むのは好きだけど、みんなにはことあるごとに「地味」とか「つまんない奴」とか言われている。
家までの道を一人で歩きながら大きなため息。足取りは結構重い。
「僕にしかない個性が欲しいなぁ……」
せめてみさきよりも優れている部分が一つでもあったなら、まだ救いがあっただろうに。親戚はみさきにしか期待していないし、父さんと母さんもあまり僕と話そうとしなくなった。今の僕にできるのは家でも学校でも問題児にならないことだけ。優秀じゃないけど、不良になるよりはマシ。なんとか自分にそう言い聞かせて毎日を過ごしている。
でも、やっぱり個性は欲しい。そしてできることなら長所がいい。
どうして神様はみさきに全部の才能を与えちゃったんだろう。僕にも何かしらくれたって良かっただろうに。
「あーあ。誰か僕に個性くれないかなぁ!」
なんとなく大声で言ってみる。けれどもそう言ったからといって目の前に神様が現れるようなことはない。むしろ近所の人に「騒ぐんじゃない」って注意されてしまうのがオチだろう。
そう思っていたのに。
あろうことか結構な大声を出したはずなのに、誰も注意しに来る気配はなかった。それどころか今日は変なくらいに静かだ。何気なく視線を左右に動かしてみて、違和感に気づく。
「……あれ?」
右も左も、なんなら前も後ろも、いつもの通学路とは全然違う景色が広がっている。ここはどこだ。いったい何が起きている?
焦りつつも普段から持ち歩いているスマホを取り出す。とりあえず現在地を調べないと。
「――って、圏外!?」
あろうことかスマホは全く役に立たない状態となっていた。これじゃあ現在地を知るどころか他の家族に連絡することもできない。完全に詰んでいる。
ひとまず来た道を引き返そうと画面から顔を上げた時、コンクリート製の塀の上にいた黒猫と目が合った。
「うわっ!」
驚きのあまり思わず後ずさる。
いつからいたんだろう、この猫。しかもよく見るとその猫の尻尾には赤いリボンが結ばれている。その特徴に僕は覚えがあった。
「君、もしかしてカラス?」
カラスというのは僕の友達の一人であるトオルの飼い猫だ。他の黒猫と見分けをつけるために尻尾に赤いリボンを結んだと、僕らにカラスを紹介してくれた時にトオルは言っていた。その際僕は「普通は首だろ」っていうツッコミをしたからよく覚えている。まあトオル達からは「それだとせっかくの個性がなくなるだろ!」って一蹴されちゃったけど。
まあそんな話は置いておいて、僕は黒猫にもう一度尋ねた。
「ねぇ、カラスだよね?」
すると黒猫は塀から飛び降り、僕から逃げるように駆け出した。
「あっ!ちょっと待って!」
慌てて後を追いかける。このまま行かせてしまってはいけない気がした。
「ねぇ待ってよ!カラスなんでしょ!?」
僕の声に止まる素振りもなく軽やかに逃げる黒猫。その足は想像以上に早くて距離はどんどん開いていった。しかも僕に追いかけられているのをきちんとわかっているようで、わざとらしく曲がり角などを駆使している。まずいな。このままだと見失っちゃう。
けれどもそんな焦りは杞憂に終わった。黒猫は次の角を曲がった先で立ち止まっていたからだ。
「やっと追いついた……」
黒猫は僕が近づいても逃げなかった。いや、正確には僕に気づいていなかったのかもしれない。黒猫はさっきから何かを睨みつけ、威嚇していた。
いったい何を威嚇しているんだろう。そう思って黒猫の視線を追ってみる。するとそこには大人くらいの人影があった。
けれども見た瞬間に僕はその影が人間でないことに気づいた。本やテレビでしか見たことがないようなやばいやつかもしれない。そうだとすればやることは一つだ。僕は咄嗟に足下にいた黒猫を抱えてその場から逃走した。
謎の人影から必死に逃げ回る。しかもカラスによく似た黒猫を抱えながら。こんなことが起きるなんて思ってもみなかった。どう考えたって普通じゃないよね。無事に帰れたらみさきに話してみるのもいいかも。
「この愚か者!何故逃げるんだ!!」
「えっ?」
今喋ったのって誰だろう。思わず足を止める。
「こら!立ち止まるな!!」
すると再び怒られてしまった。明らかに僕に対して言っている。もしかして喋っているのって――
「君喋れるの!?」
「そんなのどうだっていいから!今すぐ僕を下ろしてくれ、幸島サクヤ!!」
「僕の名前知ってるの?」
ってことはこの黒猫はやっぱりカラス?
「いいから早く下ろしてくれって!」
「あ、ごめん」
僕は慌てて黒猫を地面に下ろした。
「僕に着いて来るといい」
地面に下りた黒猫は僕に向かってそう言うと駆け出した。
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