テラーノベル
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夜の廃ビルは、いつもの任務よりやけに静かだった。
不自然なほど足音がやけに響く。
「……ここか」
依頼書には、“強い地縛霊。早急に除去しろ”
——それだけ。
いつも通りのはずなのに、妙に引っかかる。
中に入った瞬間、空気が変わる。
「あ、やっぱり来た」
背後から声がした。
振り返ると、そこに“人”が立っていた。
「お前が、地縛霊か」
「たぶんね」
軽い調子だった。
怖がるでもなく、敵意もない。ただ、そこにいるだけ。
「祓いに来たん?」
「……そのつもりだ」
「そっか」
あまりにもあっさりしていて、拍子抜けする。
「……なんで消えない」
気づけば、聞いていた。
少しだけ考えて、そいつは笑う。
「消えたくないから」
「理由になってない」
「あるよ」
少しだけ目を逸らして、
「外、ちゃんと知らんまま終わるの、なんか嫌やん」
その一言で、妙に納得してしまった。
それから、何度か通うようになった。
任務の確認——なんて、ただの言い訳だ。
「また来たん?」
「様子見だ」
「はいはい」
ifは、いつも通り軽く笑う。
「なあ、今ってさ」
「ん?」
「外、どうなってるん?」
「どうって?」
「人とか、街とか。変わった?」
少し考える。
「……だいぶ変わったな」
「マジで?」
「ビルも増えたし、夜でも明るいし」
「へぇ……」
ほんの少し、羨ましそうな顔をした。
「空は?」
「空?」
「昔と同じ?」
「……同じだよ」
「そっか」
安心したみたいに笑うその顔に、言葉が詰まる。
数日後。
上からの命令が来た。
“対象を速やかに除去しろ”
短い一文。
それだけで、十分だった。
現場に行くと、ifはいつも通りそこにいた。
「今日、顔怖いで」
「……命令が来た」
「あー」
少しだけ間を置いて、
「そっか」
また、それだけ。
「怖くないの?」
自分でも、何を聞いているのか分からなかった。
「別に」
肩をすくめる。
「霊ってさ、いつか消えるか、理性なくして悪霊になるかやし」
さらっと言う。
「どっちにしても、長くは持たんよ」
妙に現実的なその言葉が、胸に刺さる。
術を組めば、終わる。
それが正しい。
なのに。
「なあ」
「ん?」
「外、見たいんだろ」
一瞬、空気が止まる。
「……見たいよ」
小さく、でもはっきりとした声。
それで、決まった。
「ちょ、何してるん?」
床に陣を展開する。
除霊の術式じゃない。
依代の陣。
「……ルール破る」
「は?」
「これ、ほんまに成功するん?」
「知らない」
「ほんま、霊にこんなことするなんてバカじゃん」
呆れたように笑う。
でも、逃げない。
「でもさ」
まっすぐに見据える。
「お前を祓うくらいなら、こっち選ぶ」
沈黙。
それから、ifは小さく息を吐いた。
「……バカやなあ」
「知ってる」
「……まぁ、ええわ」
ほんの少し、柔らかく笑う。
「乗る」
光が強くなる。
その瞬間、空間に“鎖”が浮かび上がった。
「これ、地縛のやつやね」
「……分かってる」
「俺、これある限り外出れんよ」
「だから切る」
「簡単に言うなあ」
苦笑して、
「……失敗したら?」
「消えるかもな」
「……そっか」
少しの沈黙。
それから——
「まぁ」
顔を上げる。
「お前が言うなら、信じるわ」
その言葉と同時に、
鎖が、音を立てて砕けた。
「……成功?」
そこに、ifがいた。
今度はちゃんと、“そこにいる”。
手を伸ばす。
触れられる。
確かな温度があった。
「……外、出れるん?」
「出れる」
「……そっか」
少しだけ、泣きそうな顔で笑う。
「問題児だな」
後日、そう言われた。
当然だと思う。
祓うべき存在を祓わなかった。
しかも、それを隣に置いている。
「でも」
隣を見る。
「使えるし」
「失礼やな」
ifが笑う。
「よろしく、相棒」
「……ああ」
並んで歩く。
初めて、同じ方向に。
鎖の外へ。
本来祓うべき存在を祓わなかった除霊師と、元地縛霊の除霊師。
その関係は、決して認められるものじゃない。
それでも——
二人の絆は、どんな鎖よりもかたい。
これは……青桃なのか……???
青桃か分からないがコンテスト入賞出来たらいいなぁ、なんてね、
頑張りました
コメント
1件
おぉ…かっけぇ…