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視界がボヤける中、誰かの声が聞こえる。
「起きてください……起きてください……」
起きろ……?
僕に言ってるのか……?
あ、そうか。僕は寝てしまっていたのか……。
「あ、やっと起きましたね」
「えっと……君は……?」
目の前には、辺り一面が真っ白な空間に覆われ、大翼を背から生やした少年が立っていた。
「僕の名前は大天使ミカエル。天が生み出した、宇宙の欠片です」
「宇宙の……欠片……?」
そして、大天使ミカエルは背を向けた。
「貴方の住んでいた惑星、地球は、太陽が突然にして爆発し、消滅しました。助かったのは貴方一人です」
「えぇ……!? 地球が……消滅……?」
「落ち着いてください。戸惑うことも仕方ありませんが、過ぎたことを悔やんでも仕方ありません」
一理ある……が、やはり記憶が散漫としている。
驚き切れない……夢の可能性もある……。
「記憶が散漫としていて……自分の名前も思い出せないんだけど……僕の名前を知っていますか……?」
「貴方の名は、“バベル”」
「バベル……?」
そう呟いた瞬間、全身に力が溢れるのを感じた。
「!!?」
「感じたみたいですね。今、貴方が “バベル” と詠唱したことで、貴方には森羅万象の魔法が与えられました」
「森羅万象の魔法……どうして僕に……?」
「地球を取り戻したくはないですか?」
「地球を……家族を取り戻せるんですか……?」
「死者を蘇らせることは出来ません。ただ、貴方は偶然にもこの僕に助けられた。再び世界を構築し、家族を築き上げることだって出来ます」
「世界を再構築……家族を……」
「はい。貴方は世界の創造主。本当の意味で神となる、選ばれた人間なのです」
そう言うと、ミカエルは僕に手を差し伸べた。
僕は、まだ朦朧とする意識の中でその手を握った。
「大丈夫です。貴方を一人にはしません。きっと、素敵な方達と共に、素敵な生活を過ごせます」
その言葉を幕切れに、視界が薄れて行った。
そして、僕はハッと現実世界に戻る。
今のは……バベルの記憶……?
いや、ミカエルの記憶なのか……?
どうして……突然……。
地球が消滅とか言ってたけど、バベルは未来人ってことなのか……?
いや、戦国時代の九条さんたちも居たわけだし、時系列はバラバラと思っていいだろう……。
僕はルインにホクトを連れ去られた後、その場で項垂れることしか出来ず、呆然と空を眺めていた。
「お、ヤマトが起きたぞ!」
「え……?」
僕の目の前には、ルインに捕えられていたはずの、カナン、セーカ、アズマ、ホクトがいた。
「どう……して……?」
僕は助けられなかった。
仲間のことを、守れなかったのに……。
「俺たちにも分からないんだ。冥界の国に飛ばされたかと思えば、白髪の悪魔? に捕まって、気が付いたらヤマトの前にいたんだよな」
困惑しながらもいつものように笑うアズマ。
「ホント、急に悪魔が出てくるから驚いたわよ!」
いつものようにプンスカ怒っているセーカ。
「ヤマト、具合悪い? 大丈夫?」
こちらは珍しい。
いや、いつも通りだ。
いつものように優しく寄り添ってくれるカナン。
「多分、これはミカエルの召喚魔法。ギリギリで私たちのことだけを助けたんだと思う」
そして、虎視眈々と無表情に状況把握を行うホクト。
「やっぱり、アゲルが助けてくれたんだ……!」
自然と、笑みと涙が零れ落ちる。
「ヤマト」
みんなが一斉に、僕に振り向く。
「ああ、僕たちの仲間、アゲルを助けに行こう!」
「おうよ!」
「そうこなくっちゃね!」
「しゅつどー!」
「ヤマトがそう言うなら」
そして、僕たちは天使の国を突き進んだ。
――
一方、ミカエルに気絶させられたヤマトをホクトに託した龍族の一味、カエン、ルーク、フーリン、冥界の国からの協力者、アゲル、グレイス、そして、万が一の為の仙人ガロウの大所帯で、ルシフェルに対抗する為、天使の国の奥深く、光龍の元まで歩いていた。
「光龍に会うの、久しぶりっすね、カエンさん」
「そうですね。彼ならば、きっと力になってくれます」
そうして、天使族の小さな村へと辿り着いた。
ルークの故郷の村だった。
「ライトー! いるかー!」
光龍は、天使族の小さな村の湖に住んでいる。
ルークは気さくに声を掛けた。
「その声は……ルークか……?」
「おうー! ライト! 久しぶりー!」
光龍ライトが現れ、ルークは満面の笑みを向ける。
「あの子供が大きくなったな」
「ライトの加護のお陰で無事にな。ありがとな!」
「それで、今回は何用だ?」
そして、粗方のことを光龍ライトに話した。
光龍も、地上界と隔たれた天使の国に住んでいる為、地上で何が起こっているか知ることが出来なかった。
また、光龍は地上界に降りることも出来ない。
「そうか……そんなことが……。遂に七神も、暴発し、この世界も終焉に向かおうとしているのだな……」
「お、おい……! 諦めたこと言うなよ! 俺たちはそれを止める為に力を貰って、今も抗ってるんだ!」
暫く目を瞑ると、光龍はその場の全員を見遣った。
「リューダが来ているな。久しいな」
すると、グレイスは操られたかのように声色が変わる。
「ライト……会いたかったぞ……」
「お前は昔から、寂しがり屋は直っていないな」
一頻り、風龍と光龍の会話が済むと、光龍ライトは改めて、ルークとカエンに向き合った。
「リューダに免じて、もう一度力を貸そう。我々、七龍は確かにバベルよりこの世界の災いを守る為に生み出された。しかし、私は力の行使で世を変えるのは間違っていると思っている。バベルが創ったこの世界が、終焉を辿るのならば、それもまた、運命なのだと思うのだ」
光龍の話に、誰も反論せず、聞き入れた。
「ライトさん、貴方の言うことはごもっともでしょう。しかし、これで世界がまだ終焉を迎えないのなら、それもまた運命なのだと私は思いたいのです。この哀れな龍長に、もう一度だけチャンスをください」
そして、カエンは丁寧に頭を下げた。
「ふむ。ならば全霊で運命と向き合ってみよ。して、龍長の望みはなんだ?」
カエンは、鋭い目を光龍に向けた。
「光龍である貴方にしか出来ない力……。この世界の、全ての龍の力を集結させて欲しいのです……」
「七神の暴発の対抗手段……と言うわけだな……?」
「その通り……七神の暴発は最早止められないでしょう。しかし、終焉だけは防いでみせる……その為に……」
「ふふふ……やはりエンに認められただけはある。いいだろう。その力を使おう。しかし、封印されていてその力を今は出すことは出来ない」
「どうすれば可能なんですか……?」
「唯一神バベルを蘇らせろ……。バベルにしかこの私の封印は解くことはできない」
カエンは少しだけ目を丸くした後、すぐに目を細める。
「行きましょう。場所は、分かっています」
ハットを被り、他のみんなを先導した。