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蓮の背中が闇に溶けて見えなくなった瞬間、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感覚が走った。足は鉛のように重く、少ししか動かせなかった。追いかければ、また言い合いになる――そんな予感が、冷たい空気より先に体を凍らせた。
(俺……なんであんな言い方をしちゃったんだろ)
立ち尽くしたまま、吐く息が白く広がって消えていくのを見つめる。指先がかじかむ感覚と一緒に、さっきの会話が胸に逆流してきた。
蓮はただ、心配していたのかもしれない。でもあの瞬間、俺には「他人と関わるな」と鎖をかけられたみたいに感じられた。
その感覚が怖かった。――仲の良かった友達に捨てられたあの日も、最初は「大事に思ってるから」という言葉で囲い込まれた。気づけば笑顔も自由も、少しずつ削られていった中学時代。
(蓮は、あの友達とは違う……そう信じたい)
だけど加藤くんのことを話したときの、あの冷たく硬い視線。頭で考える前に、体が勝手に防御に入った。過去の過ちを繰り返さないように。
ポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。入力欄に「ごめん」とだけ打ち込むが、親指はそこで止まった。
送れば少しは楽になるかもしれない。でも、それで蓮の苛立ちが消えるわけじゃない。むしろ「やっぱり悪いのは奏だ」と思わせるだけになるかもしれない。
操作せずに画面を閉じると、真っ暗な反射面に自分の顔がぼんやりと浮かんだ。指先の温もりが消え、未送信の光だけが胸の奥でチカチカと残る。
顔を上げると、駅前の街灯が冬の空気を鋭く切り裂いていた。冷たい匂いと一緒に、小さな不安がゆっくりと体の中に広がっていったのだった。