【すち視点】
「みほ、書類は?」
みほさんは驚いた手が震え、カッターを落とした。みほさんはドアにいた秘書に合図を送り服を整えてから部屋を出て行った。
「すぐに用意します」
短い沈黙があった。
私は助けを呼ぼうとしたが声が出なかった。ドアにいた秘書が私を監視していた。ドアが閉まっていてみこちゃんが見えなかった。つまりみこちゃんも私が見えない。
なんとかしてみこちゃんに気づいてもらおうと私は椅子を掴み、全力で倒そうとした。
しかし体力がなく、椅子が少し動く程度だった。秘書はドアの外を確認してほっとした表情を見せた。
次の瞬間。カッターが胸から引き抜かれた。
秘書は片手で私の口を塞ぎ、もう片方の手でカッターを手の甲に突き刺し、床に固定した。その叫び声は全て秘書の手に吸い込まれた。そのため一切みこちゃんへは届かない。
ただただひたすら、悲しかった。みこちゃんに、声が届かないことだけでなく、子供が、私の、みこちゃんとの小さな命が踏み躙られて。
「そうや、さっきの人は?」
「あ、ぁ、もう大丈夫ですよ。」
少しだけ、みほさんの焦った声が聞こえた。
「…なぁ、?この弁当なんや?」
「あぁ、それはさっきの女が持ってきたやつですよ。すぐに片付けますね。」
もう周りが何を言っているのかも分からなくなってきてしまった。けれど意識を失ったらなにが起きるかわからないから。怖いから。少しでも、意識を保たなくてはいけなかった。
「…そこにおる秘書さんどいて。」
「ぁ、ッぇ、…はぃ、」
誰かが近づいてきた。コツコツと足音が。目が霞んで見えなかったが、黄色にピンクがかった髪。
「…す、ちッ、?」
私を呼ぶ声が聞こえた。震えた声で。
「早く救急車!」
「みこと社長、?何を慌てているのですか。そいつは、部外者でっ、」
「いいからはよ呼んで!!」
周りがうるさく、なにもわからなかった中、大きくて温かい体で、私を抱きしめてくれた。助けてって言わなきゃ。早く言わなきゃ。その一心でみこちゃんに伝えようとした。
「み、こぉ、ッたすけっ”ぁ、(ポロポロ」
きっと今、私の顔は醜いだろう。ボロボロと泣いて、声もおかしいだろう。きっと初めてみこちゃんにこんな泣き顔を見せただろう。失望させただろう。それでも、今は。もう希望を失ってしまったお腹の子に、まだ、まだ希望を持ちたかった。
さっきよりも抱きしめる力が強くなった。きっと、私の思いが届いたんだろう。それと同時に、意識が消えていった____。
【みこと視点】
真っ赤に染まった床に、顔が腫れ、身体中が傷まみれだったすち。一瞬誰か分からへんかったけど、緑の髪に黒メッシュ、赤い瞳、服装。それですちだと分かった。俺の大好きな、愛している妻。きっと俺が悪かったんや。誰にも結婚したことを伝えとらんかったから。
今は救急車に乗って、すちの無事を祈るしかできんかった。
コメント
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初コメ失礼します! みこちゃんが気づいてくれてよかったぁ あとはすっちゃんの無事を祈るしかないです… 続き楽しみに待ってます!