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今日も今日とて気分は埃が舞っているようだった。
インターネットは頭を悪くするだとか、
中毒になりやすいだとか、
トラブルメーカーだからとか、
そんな理由を付けて一部からは「害悪」と呼ばれる存在。
一昔前の自分もそう思っていた。
けど中学受験が終わり、スマホゲームに手を付け始めたころから思想が変わった気がする。
リアルで友達がいなくても、スマホを開けばいつでも話したり時間が合えば遊べる友達が居る。
いつしか、自分にとってインターネットは大切な居場所になっていた。
「今度のシーズン衣装、イケメンだな」
そうSNSに書き込み、
「朝の9時から夜7時まで暇人なんで、 誰か一緒にやりませんか。 タメVC、フレ外おけです」
最後にそう付け足し、青く光る投稿ボタンに触れた。
まだフレから反応が来るはずもないのでしばらくTLを眺めることとした。
ある程度遡っていると、先程高評価を付けたシーズン衣装紹介の投稿が目に留まった。
その衣装は海がモチーフとされており、SSR衣装なのもあってか袖やズボンの裾などの細かい部分にも力が入っていた。
「このキャラ初めてのSSRだからなのか、URと遜色ないよな」
このキャラ衣装待遇なさすぎて運営が炎上したことあったっけ。
脳裏でそんなことを思いつつ、またしばらく遡り続ける。
『年行事だけくる不登校ウザすぎ、
特に体育祭なんか足引っ張るだけなんや。
うちに不登校おって体育祭合唱祭は来たけど
全部ソイツのせいで負けた。もう来んな』
自分も不登校だけれど年行事行く人なんて初めて知った。
なぜなら年行事こそ行くのが最も怖い日だと自分は思っていたから。
皆が和気あいあいとしていて、自分だけ浮いている。
そんな様子を思い浮かべただけで吐き気がする。
沢山鳩がいる中たった一匹でゴミを漁る鴉みたいだ。
『今シーズンの衣装、腹筋垣間見えててエロい。
推しとして絶対手に入れたいし絵を描きたい 』
フォローしている絵師があの投稿を引用してそう呟いていた。
自分はホモではないけれど、確かに腹筋見えはエロいと思う。
もし自分が女だったのなら惚れ込んで天井してでも引き当てたいと願うだろう。
既に付いている200の中に紛れられますように、と祈りながら高評価を押した。
『今日、こんな客に会ったんだけど、
客「ねぇちょっと」
私「はい、いかがなさいましたか?」
客「これ探してるんだけどどこにある?」
↓以下ツリーに続く』
こういう投稿は続きが気になってよく返信欄を覗いてしまう。
高評価を押し、返信欄に触れる。
続きを読む 。
戻ろうと思ったけれど他の人の反応が気になったので返信欄を下ることにした。
『これ、雪さんのパクリですね? 元の投稿者さん→@yuuuuuuuuki』
パクリなんだ、と思いつつ青く表示された部分をタップした。
フォロワーも認知もそこそこのインフルエンサーが表示された。
定期的なバズを起こしているから、フォローはしていないけれども知っている。
確かに、バズってはいないけれどこちらの方が投稿された日付が早かった。
(…なんだ、つまらない)
偽の投稿に付けた高評価を消し、TLに戻った。
先にゲームでも開こうかとスマホの下部分に目をやった時、通知が来ていることに気が付いた。
通知ボタンをタップすると、自分の投稿への高評価と一件のDMだった。
同一人物で、フォロワーではなかった。
『ff外から失礼します。
募集の投稿を見て来ました。
是非良かったら遊びませんか』
猫好きなのかは知らないが三毛猫の顔がアップされたアイコン、プロフを開いてみたがゲーム専用垢みたいで日常垢は鍵が掛かっているみたいだ。
特に怪しい者ではなさそうだ。
『DMありがとうございます。
ユーザー名はこのアカウントと同じ名前なのでフレ申お願いします』
即座に、というか少しの間があったが
『分かりました。
VCはどうしますか?』
と返信が来た。
『初めての人とはゲーム内使ってます。
ハジさんが使うなら僕もそれに合わせます』
ハジというのはこのDMを送ってきた人の垢名だ。
投稿を見て性別は判断出来ないが、VCの有無を聞くあたり女性なのだろうか。
『了解です、じゃあ今からログインしてフレ申しますね』
コメントにグッドマークを付け、自分もゲームを開く。
(友達以外の人とやるのは久しぶりだな……緊張する)
いや、平日の朝からゲームやっている自分が
緊張するだとかしないだとか、
そんな感情持ち合わせちゃ駄目だ……とか、
変なことを考えてモヤモヤになりながらゲーム画面が表示されるのを待っていた。
「あ、もうフレ申来てる……」
承認し、招待を送る。
一瞬画面が固まり、もう1人のアバターが表示された。
左上にあるVCボタンを押して
「あ、こんにちは」
と話し掛けた。
相手はまだ準備中なのか反応がない。
「…ハジ、さんでしたっけ?」
束の間、相手のアバターが少し動き、頭上にマイクのマークが小さく出た。
『すみません、世界に入ったばかりは重くなりがちでして反応出来ませんでした。
今日はよろしくお願いします!』
一人称が私なあたり、女性は確定かと思っていたが声を聞くあたり男性ぽかった。
年上だろうか。
多分、大学は行っていると思う。
「こちらこそよろしくお願いします、ハジさん」
『あ、意外にアオネさんって女性の方…ですか?
えっと、なんて呼べばいいかな』
「僕全然男です、呼び方はなんでもいいですよ」
中学の時、友達だった子からは『お前の声って、なんか中性的だよね』と言われたことがあるからそう思われるのも仕方が ない。
『へぇー、じゃあアオネって呼ぶね』
…自発的な人間で有り難い。
フレ募は勿論するが、根暗だから自分から話し掛けに行くことはない。
そのため多々相手と気まずくなって、フレ解するのが幾度あったか。
「じゃあ僕はハジって呼んでも?」
『勿論』
『アオネって女の子と付き合ったことある?』
「ないよ。ハジは?」
『あるわけないじゃん』
「それもそっか」
『なんか安心したかも。俺の周り、皆付き合ってる』
ハジは大学2年生らしい。
話を聞く感じ、ザ・陽キャって感じだ。
ハジの声は世間ではイケボというのかは分からないが自分ではそう感じる。
(女の子、1人や2人居てもおかしくないと思うけどな)
イケボならイケメン、イケメンならイケボ。
これは女の子にも言えることだ。
カワボなら美少女、美少女ならカワボ。
以上2つのことは世界の鉄則だと思っている。
「ハジってさ、イケボとか言われたことないの」
『んー……』
「ね、教えてよ」
『ヒ・ ミ・ ツ♡』
イタズラそうに笑う声が聞こえる。
「…僕はイケボだと思うけどなぁ 」
「この敵強いな、背後からキャリーくれない?」
そう伝えたがハジのアバターが見当たらない。
沈黙が流れる。
(なんか、言った?
…重いのかな)
「ハジ?」
脳内で混乱しながら戦っていたからキャリーに来てくれたハジが突然現れたように見えて吃驚した。
『ごめんごめん、ぼーっとしてた』
「いや、全然。大丈夫?」
『うん、大丈夫、ありがとう』
VCを繋いでから初めて長い沈黙が流れ始める。
聞こえるのはゲームの音だけだった。
気が付いたらもう夕方の5時だった。
『あ、もうこんな時間。
夕飯作らなきゃ』
「分かった。今日はありがとう」
『ううん、こちらこそ。
あと、連絡先とか、ゲーム外VC交換しない?』
「いいよ、 DMで送っとくね。
暇人だからいつでも大丈夫だよ……深夜も、多分」
『ありがとう、じゃあおやすみ』
「うん、おやすみ」
一瞬画面が固まり、『Haziが退出しました。』というメッセージが表示された。
(…なんだか、疲れたな)
キャリーを初めてお願いした時から沈黙が続いていた。
勿論途中で『これくれない?』みたいな会話はしたが繋げたばかりの時のようには話さなかった。
(僕……悪いところ……あったかな………)
考えてももう分からない。
過ぎ去ったことなのだから。
切る前にハジに話していたこと思い出し、自分のIDをコピペしてDMに送る。
眠いな、と思って寝転んでいたらいつの間にか瞼がシャットダウンしていた。
深夜2時に目が覚めた。
お腹が空いているから夜ご飯は食べていない。
いつもなら母さんが夕飯起こすのに。
疑問に思いながら一階へ向かう。
机の上には置き手紙があった。
『今日お母さん用事あって明後日の朝まで帰ってこないからその間は自分でご飯作って食べてね』
またか、と心の中で思った。
父さんはとうの昔に離婚をして遠くに住んでいる。
つまり母子家庭ってやつだ。
母さんは昔ずっと1人で自分をここまで育ててくれたから感謝を籠めてお返しをしなきゃと思っている。
思っているのに学校に行くのが億劫になった。
今ではぱったり行かなくなって、定期試験は勿論受けるけれど赤点スレスレだ。
母さんにも『もっと、さ……頑張ってくれないの? 私は頑張ってるのに』と言われた。
別にいじめがあって行かなくなったとかそういう訳ではない。
特別な理由もなく行かなくなったから休むのにも抵抗がなくなった。
(…ヤだな、自分)
腹の空きを我慢しながら机に置いている充電中のスマホを手に取った。
スマホのロック画面には通知が1つ来ていた。
『アオネで合ってるよね?
よろしく』
と、ハジからメッセージが来ていた。
送られたのは20分くらい前だ。
『しにたい』
何を思ったのか、気が付いたら自分はそんなメッセージを送っていた。
(自業自得なのに、慰めてもらいたい……自分が嫌い……… )
床に寝転がり、1人暗い部屋でスマホを眺めていた。
『どうしてそう思うの?』
3分くらいした後、そんなメッセージが届いた。
『ここじゃ、上手く言葉に出来ないけど……
自分が嫌い』
すぐにそのメッセージに反応した。
やっぱり自分が嫌いだ。
『そう思う時あるよね。俺もアオネと同い年くらいの時よく病んでたし、今でもたまに思ったりする 』
『そうなんだ……』
『俺で相談相手になるかは分からないけど、いつでも相談乗るから。
東京都○○✕△○←ここ俺の住所で、404号室だから連絡くれたら迎えに行くよ』
僕は目から水が出ているのに気が付いた。
それを涙と理解するのにはそんなに時間を使わなかった。
どうして名前も顔も知らない人にそんなことが出来るんだろう?
加え知り合ってからそんなに日が経っている訳でもないのに。
『どうしてこんなに気を遣ってくれるの?』
『…俺の大切な友達だから、だと思う 』
そっと、涙を拭いた。
『ありがと』
フッと瞼を閉じ、心の奥底で思った。
(自分はホントは最低なヤツなんだ。
なんで、こんないい人を心配にさせてるわけ…? 自分なんか、どうでもいい人間なのに )
黒い霧が心を覆い、その夜は眠れなかった。
カーテンの隙間から差し込む太陽の光で目が覚める。
ふと下の方に違和感を感じそっと触れた。
…なんだかさっきまで夢を見ていた気がする。
自分の額を撫でる蒼白い指。
降り掛かる甘い声。
(…このままずっと、殻に籠もっていたい……)
でも1日引き籠もっていると体力が落ちてしまうから外に出なければいけない。
乗り気ではないけれど左斜め上に置いてあるスマホを手に取る。
(返事が来るかは分からないけど……)
『今日、いまからハジの家に行ってもいい?』
布団から這いずり出、カップラーメンを用意するために湯を沸かす。
もし、いいよと言われたらどんな服装で行こうか。
来てもいいなら多分大学は休みなのだろう。
勉強は教えてくれるだろうか。
多分、きっと優しいから……。
(……)
(…何、期待してるんだろ。
自分は、クズ。だから自分なんて1人でいいのに………)
「んっ……はぁっ…、ぁあ………」
チラリとスマホを見た時に通知が来ていることに気が付いた。
台所でサッと手を洗ってアプリを開く。
『勿論。今日は休日だから俺は何もないよ』
ハジの優しさに漬け込みすぎないように自分を戒めながらも
『ありがとう』
と返信した。
姿鏡の前に立ち、自分の輪郭をそっと撫でた。
「…来たんだね、いらっしゃい」
初めてリアルのハジに会った。
髪は銀色なのか、白なのかは分からなかったけれど染められていた。
遠目で見たら女性と勘違いしそうな見た目で、髪が肩に掛かっていた。
…ボサボサだ。
「…ありがとう。ハジって1人暮らしなんだね」
中に入るように促されて玄関で靴を脱いだ。
「そうだね、だから部屋汚くてごめん」
「そうかな……。僕の部屋より綺麗だよ」
「あはは、そういうこと言われるのは初めてだから嬉しいな」
部屋は花の匂いが微かにした。
(なんだか、夢の中で嗅いだ匂いみたいだな……)
「ハジは……なんか香水とか付けてるの?」
「ううん、どうして?」
水の入ったコップを僕に差し出し、顔を覗き込んでくる。
スッとした顔立ちと、美しさを持ち合わせる瞳はどこかで感じたことのある雰囲気だった。
「いい匂いだな、って思ったから」
「…そっか」
ハジと目を合わせるのが気恥ずかしくて窓に目をやった。
「…アオネはさ、後ろめたいこと、嫌なこと、忘れたいことがあってここに来たんだよね」
静かで、重い空気が流れているように感じる。
「うん」
「こんなこと聞いちゃ無礼ってもんだよね……」
「…?」
「嫌な奴って思ったのなら強く殴っていい。
…1つ、聞いてもいい?」
ハジは蒼白い手と指を伸ばしてそっと僕の輪郭を撫でた。
「俺は……君のことが、好きだ」
僕は初めてリアルのハジの瞳をよく見た。
瞳には光が差し込み、僕が嫌いな自分の顔が映り込んでいた。
ハジみたいな奴にこんなゴミが瞳に映ってるなんて……と思って頭がクラクラしたりもする。
「あ……っ………」
息が苦しくなる。
何かを言おうと思ったのに、苦しくなって忘れてしまう。
「どうしたの…?
ごめんね、急に」
ハジは僕の肩を撫でた。
「っ………僕も……すき、」
ハジは僕が言い終えるよりも前に僕の肩をギュッと抱き締めて唇を重ねる。
ハジの唇は少し湿っていて、蜜みたいな感触がした。
それでも、好きだ。
「んっ………はぁ……」
強めに唇を押してきて息が苦しくなってきたと思えばすぐにハジは離してしまった。
(…苦しいくらいが丁度、いいのに)
ハジは頬を薔薇色に染めてその美しい瞳で見つめてくる。
僕の肩、髪に唇を落とし、愛おしそうに撫でた。
「…ねぇ」
「…うん」
瞳に映る自分を嫌に思いながら、「なぁに」と囁きハジの首に腕を絡める。
「俺たち、心中しようよ」
窓からは電車が見えた。
僕のところからは電車なんて見えないから 羨ましい。
ハジにそのことを話したら「夜中なんてうるさいだけだよ、エモいけどね 」と言われた。
「窓閉めて、カーテンも閉めてくれる?」
と後ろから声が聞こえて振り向いた。
「分かったよ」
ここから見える全ての景色にそっと別れを告げる。
部屋はなんとか肉眼でも見えるくらいの明るさになった。
「準備は……?」
「出来たよ、うん。もう、大丈夫だよ」
ハジは小柄な僕を抱き上げる。
「どうする? ここにする? それともお風呂場のほうにする?」
「ハジがやりやすい方で、いいよ」
「じゃあ、ここにしよう」
ハジはことあるごとに僕はキスをしてくれる。
気を遣ってくれる。
そんな彼にいつの間にか魅了されていた。
(あぁ、もう、解放されるんだ。
繰り返し、繰り返し、積み上げても壊されることはもうないんだ。
1人じゃなくて……誰かと、一緒に死ねるんだ)
「最初はゆっくり慣らしてこうね」
「ぁ……ぅ、ん………」
彼の細い指が僕の中に入り込む。
見てるだけだったけど、僕の中と溶け合ってるから形、体温さえも分かってしまう。
そのことを考える度に
(あぁ僕、今、好きな人とヤッてるんだ。
それで、一緒に死ぬんだ)
と考えて強く締め付けてしまう。
一緒に溶け合ってる彼も僕の中をよく味わっている。
さっきまでの宝石みたいな瞳の輝きは熱さに奪われてしまったようだ。
「あっ……そこ…きもち、いい………」
「あはは、ここ、好きなの」
優しく笑うとまた唇を落とす。
「でも、きっと次目が覚めた時はここにはいないよ……」
「うん……先に、……行かないでよ………」
「大丈夫、俺は待つから」
自分の汗と、
ハジの汗と、
少し手足の痺れを感じた。