テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「うあああああああああ!」
啓次郎は通勤途中、電車ごととある黒いホールに入った。まさかと疑ったがそうだった。
「はあ〜……」
ハッピーランドだ。宇宙のような星空が広がり、周りの建物は浮かんでいる。そしてそれは薄い水色。まるで結晶かと思わせる道は永遠と続いている。
啓次郎は周りを見渡す。どうやら落ちた場所は北東センターという小さなビルの目の前。姿を見ると今朝のまま通勤のスーツを着ていた。
「大丈夫ですか?」
啓次郎がそのまま寝転がっていると顔を覗き込んできた人がいた。
「あっ…ああ平気平気!ほら!」
啓次郎はその場で立ち上がりその人にジャンプをしてみせた。
「はは。ですね」
その人はそう言い苦笑いをした。
「そういえば服は…?」
「あ〜着替えってできますかね?」
啓次郎はその人にそう言われたため前回来たときに着た服に着替えられないか質問をした。
「ああいいですよ。じゃあこちらへ」
そう勧められ啓次郎は北東センターの中へと入る。するとその人は「スタッフオンリー」とかかれた右側の扉から他の人を呼び出した。その人は若く、18、9歳ほどの男で髪は宍色(ししいろ)。着ている服は汚れていてところどころ土の茶色が付いていたり破れていたりしていた。そして右腕。右腕が少しやけどを負っているように見えた。
「どうぞこちらへ」
その男性は啓次郎をエントランスから少し離れたところへと案内した。そこは暑くエアコンがついていないようだった。そこにはハンガーで色とりどりのユニフォームが並べられていた。それを見て彼はハンガーをポンと叩いた。
「これは廃棄物です。今のトップは国の方針が違うので」そう呟いた。
「廃棄物?トップって…」啓次郎は言った。
「トップはこの国を治める大統領みたいな人です。前のトップは競争を急かす人物でまあ金も多く手に入った。だがその分、人は減りました。100人弱。全てはそのトップの責任であると国民は言いトップはその後行方不明になっています。その後トップとなったのが美南海勘介(みなうみかんすけ)平成の人だそうで24歳…これが永島さんのお洋服です。その他はブティックなどで購入してください」
そう言い男性は上下の服を啓次郎に渡した。
「ありがとうございます」
「では私は外で待っているので終わったらその服を回収させていただきます」
そう言って男性はこの部屋を出た。手渡された服は半袖の水色のパーカーに黒地のズボン。スーツからその服に着替え啓次郎は部屋のドアを開けた。
「こちらは回収します」
宍色の髪の男性はそう言って着ていたスーツを回収した。その後はエントランスに戻った。
啓次郎は別れ際男性にとある質問をした。
「その右腕の火傷って…失礼でしたらすいません」ダメ元で聞いたので答えはそこまで気にならなかった。だがなぜか見覚えがあったのだ。
「あとで時間もらえませんか?近くのお店で少し話しましょう」
意外な答えに驚きながらも啓次郎は「はい」と返事をした。
数分後、格好は変わらずのあの宍色の髪を持った男性が現れた。
「じゃあ行きましょうか」
男性は自身が先頭に立ち啓次郎を先導した。そしてたどり着いたところは喫茶店。
カランコロン
男性は水色の壁色をした喫茶店の扉を開けると右の方へ進み、隅の席に座った。
「はあ〜どうぞ選んでください。俺はコーヒーでいいので」と男性は啓次郎にメニュー表を渡した。
ドリンクのメニュー表にはコーヒー、紅茶、コーラ、メロンソーダなど定番なものからコスモドリンク、コスモサイダーなど聞いたことのないものなどがあった。啓次郎はそこからロイヤルミルクティーを選んだ。その後、店員に2つを頼むと数分でドリンクが届くと男性が口を開いた。
「俺は橋岡雪彦(はしおかゆきひこ)です。18歳。元戦争孤児」そうぶっきらぼうに言った。
「俺は永島啓次郎です」
「この火傷ですよね」雪彦はそう言い右腕を見せる。そこにあるのは確かに火傷だった。
「第二次世界大戦。永島さんでも知ってますよね?」
「はい。それはもちろん」
「その時に東京大空襲ってやつに俺は襲われました。父さんは出征してていなかったので俺が家を守ってたもんなんです。母さんは親戚のかっこいい男子が死んでからまるで木のように動かなくなりました。その男子は結構かっこよくて俺も一回は惚れました。顔とか性格とか筋肉も結構あって役に立ってたんです。橋岡家では。いつも家の仕事をやりまわって、うちに来たときはいつもヘトヘトでした。その時に母さんは毎回のように肩をもんで…そいつに尽くしてたもんです。そいつ俺の5個ぐらい上で父さんよりも早く出征して出ていったんです。それからは母さんはさっき言ったように動かなくなりました。いっつも「仏さん。仏さん。裕幸(ひろゆき)を。裕幸をどうか…」って言ってました。そいつ裕幸っていいます」
「その裕幸さんはその後どうなったんですか?」
「戦争が終わって父さんが帰ってきたときはちょっと期待しました。でもいつまで経っても彼は来ないんです。そうして一週間くらい経ったとき、彼の両親から「裕幸が戦死しました」って言いに来たんです。母さんはじめ多くの人はそこでは「立派ですね」って言ってたけど彼らが帰ってから母さんは仏壇の前で大泣きしてました。「裕幸を返して!私をそっちにやって」ずーっと喚(わめ)いてました。もしかしたら俺なんかよりもあいつのほうが母さんに愛されてたかも知れないって思ってなんか悔しかったです。きっと俺があいつの代わりに戦争行ったほうが良かったんだろうなって」雪彦は声色一つ変えず淡々と話す。
「雪彦さんは無事だったんですか?」
「俺はご覧の通り右腕から上半身ほぼ全体を火傷しました。大空襲のときにやられました。まあ俺よりも弟のほうが酷かったんですけどね」
「弟さん?」
「ええ。陽彦(はるひこ)っていいます。左足を切断と左半身が麻痺になったんです。弟は当日、夜遅くまで出かけてたんです。そしたら上からミサイルがどんどん落とされて走っていくとすでにそこは焼け野原になってて引き返そうとしたら電柱が倒れてきたらしいです。俺と母さんは家にいてなんとかだったんですけど」
啓次郎は掛ける言葉が見つからなかった。戦争を経験していない人がグチグチ言っていいのかと思ってしまう。
「終戦後、俺はここへ来ました。8月でしたよまだ。いや〜最初は帰るために必死になって駆け回りましたけど今はこのまんまでいいかなって思います。もし今の日本が平和であってもきっかけをきっとつくるんじゃないかって怖いんです。だったら平和なこの世界で永遠と生きていたほうが楽しいって思って」
「……」
「思いませんか?俺は一生平和のここで」
「まあ一理あります。でも俺には妻も子もいます。彼女たちがこちらへ来てくれるのであれば考えますが、今は思いませんね」
「まあそうかも知れませんね」
「ええ」
その時だった。この店の店主が厨房から飛び出してきて真っ先に店の出入り口から出ていった。その様子を見た客は皆驚いていた。
「雪彦さん…今の見ました?」
啓次郎はそう雪彦に問いかけてみた。
「…っ!」
すると雪彦は表情を強張らせポケットからスマホを取り出した。そして雪彦は啓次郎に伝えた。
「侵略者がトップを襲った――」
コメント
5件
つ