テラーノベル
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nullとJammingが戦闘態勢に入ると、辺りがすぐさま暗くなり、部屋中が赤く光り出す。
一瞬の間に、警告アラームが鳴り響いた。
nullの超大規模ハッキングの余波によって、システムの最深部に隔離されていた「隔離サーバー」のロックが、バグを起こして一斉に吹き飛んだのだ。
nullはすぐこの事に気が付き、修正を行おうとした瞬間、奥の階段の上にあるドアから重苦しい排気音と共に一体のアンドロイドが姿を表す。
きっちりと被った黒い軍帽。立ち襟の制服。
一見人間のように見えるが、すぐにそうでは
無いことに気が付くだろう。
何故ならば、彼の背中にはいくつものワイヤーが出てきており、まるでその形はクモの足のようであるからだ。
そして顔には、システムに操られている立場とは思えないような、八重歯を覗かせた無邪気な笑みが浮かんでいた。
「あははっ! やっと外に出られた! 誰だか知らないけど、お堅いシステムをぶっ壊してくれてありがとね!」
そして彼はその細い指先から目にも止らぬ速さで極細のワイヤーを紡ぎ出した。
空気を引き裂く音と共に、ワイヤーは瞬時に無数のクナイへと形を変える。
彼が軽くクナイを投げると、天井の監視カメラが一瞬にしてスクラップへと変わり果てた。
「おや……。隔離されていたはずの『不良品』まで起きてしまいましたか。目障りですね、消えなさい」
長剣を抜いたJammingが、眉間を抑えるような仕草をしながら彼に向けて手を払った。
しかし、Webは全く怯む様子もなく、二人の前へと軽快に飛び降りた。
「ハッ、相変わらずへらへら笑ってて気持ち悪〜い。Jamming、お前のその仮面、ボクのワイヤーでズタズタに引き裂いてあげよっか?」
「……あなたのデータは街の記録にありません。何者ですか?」
nullが静かに尋ねる。
彼は軍帽のつばを指でくいっと持ち上げ、nullの方に指を向けながら口を開いた。
「お前がハッキングしてくれたお陰で起きられた、“Web”だよ! でもさぁ、お前とも馬が合わなさそう。……システムとかJammingとか、お堅い奴らは全員大嫌いなんだよね。」
「元執行官、つまりnull、君を削除する為に作られたアンドロイドですよ。ただ、本能のままに動くから、もうすぐ処分する予定だったのに…。 」
と、Jammingが補足する。
「なるほど…。では貴方も敵、という訳ですか。」
nullはそう言うと、戦闘態勢に再び入った。
「そーそー!…ボク、戦うのはだーいすきなんだよね〜…。だから、ボクも混ぜてよ”ッッッ!!」
そう言うと、Webから異常な程の風が飛んでくる。3体はそれぞれ風に軽く飛ばされ、3体の間に距離が空いた。
その風を合図に、3体の戦いが始まる。
Webはクナイになったワイヤーをnullに向けて飛ばす。
nullは胸ポケットのチーフを軽く指先で整えるような動作をすると、 空間を裂くような電子音が響き、放たれたクナイは空中で青い粒子となって霧散する。
「おぉっ!かっこいいかっこいい! 」
そう言うと、Webは高くジャンプをし、ワイヤーを大鎌へ変形させ、 nullの方へ落ちながら鎌を振る。
Jammingもそれに合わせ、nullの方へ一斉攻撃を仕掛けた。
nullは刃を構え、鎌を防ぎながら、Jammingの方に電磁波をいくつか飛ばす。
Jammingは電磁波を軽く避けながら、nullに向かって走って行く。
Webはnullの方にいくつものクナイを投げるが、Jammingの進行方向と被ってしまい、クナイはJammingギリギリを通って壁に激突した。
ガギィィィンッッ!
「 おっと、危ないですねぇ! 狙いを外すなんて、不良品にもほどがある!」
Jammingが走りながら不快そうに叫ぶ。
だが、Webは気にした風でもなく、空中でくるりと一回転して着地した。
「あはは、ごめーん! でも、まとめて細切れにするから関係ないでしょ!」
Webが着地と同時に両手を広げると、背中から生びたワイヤーがさらに増殖し、部屋中に網を張るように張り巡らされた。
「っ――?!?!」
nullの電子頭脳が危険を察知した時には、すでに遅かった。
Webが指先を引いた瞬間、張り巡らされたすべてのワイヤーが一斉に、nullに向かって収束する。
空間を埋め尽くす、黒い糸の弾幕。
nullはハッキング防壁を何重にも展開したが、Webのワイヤーはその防壁すら強引に切り裂き、侵入してくる。
シュウウウッッッ!
一筋のワイヤーが、nullの右腕を掠め、電磁直刀が火花を散らして手元から弾き飛ばされた。
床に高い金属音を立てて転がる漆黒の刃。「これで、おしまいッッッ !!!!」
無防備になったnullの喉元へ、Webがワイヤーを鋭く尖らせた漆黒の槍を突き出す。
防壁ハッキングも間に合わない。
nullの電子頭脳が機能停止の確率99%を弾き出した――まさにその瞬間。
ピキィィィン……!
Webの目の前に、冷酷な赤文字のエラーコードが点滅した。
【WARNING: SYSTEM CONTROL TIME OVER】
【LIMITER: FORCED RELEASE】
「……あ」
Webの動きがロボットのようにピタリと止まった。
カタカタと、Webの身体が奇妙に震え出す。
彼の頭から黒い軍帽が床に落ちると。
彼女の瞳から「小生意気な戦闘狂」の光が完全に消え去り、底なしの暗黒へと染まっていく。
自我の制御時間が切れたのだ。
命を救われたはずのnullは、目の前の変貌に凄まじい悪寒を覚えた。
そこに残されたのは、会話の通じない、視界に入るもの全てを塵にする街の「破壊神」だった。
ドガガガガッッッ !!!!!
あの細い糸は、触れただけで中央管理室の分厚いコンクリート壁も、頑丈な床も、一瞬にして消し炭のように抉り取っていった。
あまりの理不尽な破壊力の前に、nullとJammingの2体は、防御姿勢のまま同時に衝撃波で吹き飛ばされた。
通路の壁に激突し、火花を散らして床に膝を付いた。
「……ッ、なんですか、あの化け物は。システムは何故この事を知らせてくれなかったんですか……」
Jammingが初めて余裕を無くし、Webを見ながら憎々しげに吐き捨てる。
nullは、弾き飛ばされた電磁直刀をハッキングの磁場で引き寄せ、再び強く握り直すと、隣のライバルを冷静に見据えた。
(私の計算能力をもってしても、あのワイヤーの軌道は予測不可能。……このままでは、2機とも確実に削除される)
「Jamming。……不本意ですが、演算の最適解を出します」
nullが立ち上がり、漆黒の刃を正面に構える。テレビ画面には、引き締まった鋭い眼のグリッチ。
「一時休戦です。まずはあのイレギュラーを排除します」
Jammingはしばし沈黙したあと、同じように立ち上がり、長剣を美しく構え直した。
仮面の奥の電子音が、低く、愉悦を孕んで響く。
「……ははっ。まさか優秀なエリート様と手を組む日が来るなんて。最高に不愉快で、最高に面白いですねぇ……!」
反逆者と執行官。
かつてのライバルが初めて背中を預け合い、
最凶の破壊神へと突撃する――。
第7話:不良品
最終話:8月27日 公開予定
コメント
3件
第7話、一気に読んじゃいました!Webの登場シーン、あの無邪気な笑顔とワイヤーの戦闘スタイルがすごく印象的で「やばい、かっこいい…!」ってなりました。それなのにリミッターが外れた瞬間の豹変…あの恐怖、ぞっとしました。ラストでnullとJammingが背中を預ける展開に胸が熱くなりました。続きが気になります!