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巡る時間、繋がる想い-奏太とあかり-

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巡る時間、繋がる想い-奏太とあかり-

4 - 第四章:友情の芽生え―友との再会

2025年02月24日

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1.駅前の再会、懐かしい声

午後三時、奏太は駅前のカフェに向かって歩いていた。

目的地は、あかりと約束した場所。

だが、店の入口に向かおうとしたその時、背後から突然、力強い声が響いた。

「おい、奏太!」

驚いて振り返ると、目の前には懐かしい顔があった。

短く刈り込まれた髪、精悍な顔つき。筋肉質な体を包むパーカー姿。

大学の映画ゼミで一緒だった親友、**友(とも)**だった。

「なんだよ、久しぶりじゃねぇか!」

友は親しげに笑いながら、迷いなく奏太の肩を叩いた。

その手の温もりが、ほんの少し心に沁みる。

「……久しぶり。」

奏太は、少し遅れて口を開いた。

友の明るさは昔と変わらない。だが、自分は変わってしまった。

「何してんだよ、こんなとこで。」

「……ちょっと、知り合いと会う約束があって。」

言葉を選びながら答えた。

「病院帰りだ」とは言えなかった。

「余命が一年だ」とも言えなかった。

だが、友はそんな奏太の心情など気にせず、笑いながら続ける。

「なんだよ、それよりさ、お前、ゼミに全然顔出さねえじゃん。みんな心配してたぞ。」

……ゼミ。

映画研究の仲間たち。

みんなで脚本を書き、カメラを回し、編集し、何度も作品を作り直した。

それが、彼の生きがいだった。

だが、病気を理由に参加をやめた。

理由を話せなかった。

「……悪い。」

たったそれだけの言葉しか出なかった。


2.「お前の夢、どうなったんだ?」

友は、目を細めて奏太を見つめた。

「お前、映画監督になりたいって、ずっと言ってたよな?」

奏太は無意識に唇を噛んだ。

「夢、諦めたのか?」

——諦めたくない。

でも、未来がない人間に、何ができる?

「……考えてるところ。」

それが精一杯だった。

友は少しの間、奏太の顔をじっと見つめていた。

何かを見透かそうとするような視線だった。

そして、少し間を置いてから、静かに言った。

「……俺はさ、お前の映画が好きだった。」

「……え?」

「一緒に撮った短編、覚えてるか?主人公が、死んだ友達の夢を叶えようとする話。」

奏太は一瞬、記憶を遡った。

大学二年の時に撮った作品。仲間たちと熱くなりながら、夜通し編集した映像。

映画祭ではそこそこの評価を得たが、賞には届かなかった。

「お前は、あの時も諦めなかった。納得いくまで編集し続けた。……あれが、お前の映画作りだろ?」

友の言葉が、胸に突き刺さる。

あの頃の自分は、限界なんて考えなかった。

ただ「最高の作品を作る」と、それだけを信じていた。

——今の俺は?

病気を理由に、全てを投げ出そうとしている。

「……俺は、もう……。」

言葉が詰まった。

夢の話をするには、あまりにも時間が足りなすぎた。

死を待つだけの人間に、未来はあるのか?

友は、奏太の沈黙を見つめたあと、口を開いた。

「なあ、もしさ……時間がないなら、今できることをやれよ。」

——今できること。

「俺たち、また映画作ろうぜ。」

奏太の心臓が、大きく跳ねた。


3.「俺たち、まだ終わってねぇだろ?」

「……俺が?」

声が震えた。

余命一年の人間が、新しい映画を作る?

そんなこと、できるはずがない。

「病気なんだよ、俺。」

ついに、口にしてしまった。

言いたくなかった。

でも、言わなければ、友はこのまま誘い続ける。

友の表情が一瞬、固まる。

次の言葉を考えるように、口を閉じた。

「……そうか。」

彼は、それ以上何も聞かなかった。

「でもさ。」

友は、少し笑った。

「だからって、何もせずに死ぬわけじゃないだろ?」

「……」

「お前が、最後に撮りたい映画を撮ろうぜ。」

——最後に撮りたい映画。

そんなもの、考えたこともなかった。

でも、もし本当に最後なら。

もし、自分が何かを残せるなら——。

「……俺に、撮れるかな。」

声は小さかったが、友には届いた。

「撮れるよ。」

力強い言葉だった。

奏太は、しばらく沈黙したあと、小さく頷いた。

「……やってみるか。」

友は、ニッと笑った。

「よし、決まり!」

「お前の映画、また観たかったんだよ。」

それは、嘘偽りのない、真っ直ぐな言葉だった。


4.カフェの扉の向こうで

「それで?お前、これから誰かと会うんじゃねぇの?」

友が時計を見て言う。

「ああ、あかりって子。」

「へぇ、どんな子?」

「……よく分かんない。でも、人を助けるのが好きらしい。」

「お前、ずいぶん変わったな。誰かとそういう話するなんて。」

「……そうかもな。」

奏太は、ふとカフェの扉を見る。

友と再会し、映画を作ることを決めた。

そして今、あかりとの時間が始まろうとしている。

彼の人生が、少しずつ変わり始めていた。


第四章・終

巡る時間、繋がる想い-奏太とあかり-

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