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僕と心野さんがデートとしてカラオケ屋さんにいた時、隣の部屋でもひとつの『物語』が紡がれていた。
なので、今回は僕――但木勇気が語り部として、彼、そして彼女の物語を語っていこうと思う。人様の物語を語るなんてことに、僕は慣れていない。でも、慣れていないなりに頑張って語っていくとしよう。
「なあ、委員長。さすがに気にしすぎだろ。言われたから仕方なく部活をサボって来てみたけどさ」
「何言ってるのよ友野くん! これは一大事なのよ!? 高校生の男女が密室で二人きりだなんて、何かあったら大変じゃない!」
まあ、これでお気付きの方もいるだろう。これから語るのは、僕の親友である友野と委員長である音有さんの物語だ。
「何かってなんだよ……ふう。委員長は心配しすぎだって。但木に任せればいいじゃん。俺達があまり干渉しすぎるのも良くないと思うぜ? というか、委員長? あんた今何してるのさ」
「不純異性交遊が行われてないか、確認してるの。委員長として当然でしょ?」
「確認って……」
さて、今の状況を端的に説明しよう。友野は頬杖をつきながら委員長――音有さんの様子を見ているところだ。半ば呆れ顔で。
で、その音有さんはというと、壁にピッタリ耳をつけ、聞き耳を立て、僕と心野さんの部屋の状況を把握しようとしているところだ。
なんというか、ものすごい絵面である。
「不純異性交遊なんてあるわけないだろ。但木だぜ? アイツは心野さんとは話ができるようにはなったけどさ、あくまで女性恐怖症だ。あり得ないね」
友野の言葉を聞いて、音有さんはピクリと反応。そして、今からお説教でもするかの如く、ちょっと怖いオーラを出しながら友野に向き合った。
「友野くんは分かってないのよ! 確かに但木くんは女性恐怖症だけど、男はオオカミって言うじゃない! ココちゃんは大人しいから流されて、無理やりあんな事やこんな事を許しちゃうかもしれないでしょ!」
「あんな事やこんな事ねえ」
「そう! あんな事やこんな事! 妊娠でもしちゃったらどうするのよ!」
「に、妊娠って、お前なあ……。あのさ、委員長? ひとつ忘れてないか? 今の状況も含めて」
「今の状況? え? 友野くん、それってどういうこと?」
「俺と委員長も、密室に二人きりなんだぜ? しかも、俺も一応男だからな? 委員長の言うオオカミになっちまうかもしれないぜ?」
「え……」
音有さんの顔は一瞬で真っ赤に変化。今にも火が出るのではと思う程に。
そして 一度、さっきまでピッタリと耳を付けて聞き耳を立てていた壁から離れ、ソファーにちょこんと座って黙り込んでしまった。ちょっとだけ俯き加減で。
「……あのさあ、委員長。最近になって少しずつ分かってきたんだけどさ」
「な、なな、何がでございましょうか」
ガッチガチに緊張しながら、より顔を赤くしながら、音有さんは急に敬語に。まあ、分かる。僕ならね。音有さんは友野に恋をしているんだから。
けど、友野は気付いていないだろうな。アイツって、実は結構鈍いのだ。モテモテ人生を突っ走ってきたくせに。
「委員長ってさ、実はムッツリスケベだろ」
「む、ムッツリ――!!?」
友野は音有さんを見ながらニヤニヤ。コイツ、音有さんの反応を見て、絶対に楽しんでるだろ。
「さすが心野さんと仲が良かっただけあるな。あの娘もそうらしいし」
「な、なな、何言ってるの友野くん! わ、私は決してそんな女では……」
「あっはは! あー、ビンゴだったか。やっぱりな。委員長はムッツリスケベっと。インプットインプット」
「ち、ちが……わ、わわ、私は……」
音有さん、動揺しまくり。その様子を見て、よりニヤケ顔になる友野。
それにしても、すごく楽しそうだな友野の奴。まあ昔から意地悪大好きだったけど。それは今も変わらずということか。
「で、どうする委員長?」
「な、何がでございますでしょうか……」
「いや、せっかくだから俺、今からオオカミになってやろうかなって思って」
「お、おおおお、オオカミでご、ございますか……!!?」
すごい動揺を見せる音有さんである。あ、親友の僕としてちゃんと説明。友野は決してそんなことをするような奴ではない。ただ単に『意地悪スイッチ』が入っただけだ。
しかしスイッチの入った友野は色んな意味で面倒くさい。これは確かだ。
「ははは! 嘘だよ嘘。委員長って面白い奴だな。真面目だけが取り柄な人だと思ってたけど、案外そうでもないんだな」
「わ、私は真面目でございます……」
「まあ、安心しな。天井に黒い何かがあるの分かるだろ? あれ、監視カメラだから」
「……え?」
まだカッチカチに緊張している音有さんだけれど、しかし、何かを思い付いたようだ。急に腕を組み始めて思考モードに入ってしまった。
「ん? どうした委員長?」
「い、いえ……。あ、後で防犯カメラの映像を頂きに行こうかと。記念のために」
「き、記念……」
うん、さすが心野さんの幼馴染だけある。思考が似すぎ。それを聞いてゲラゲラと笑う友野であった。
この前に僕が言ったように、二人共付き合っちゃえばいいのに。結構、お似合いだと思うんだけどね。
「お! 但木と心野さんが部屋から出ていくみたいだぜ。どうする委員長? ついて行くか?」
「いえ……き、今日はもうやめておきましょう。なので、も、もう少しだけ、ここに一緒にいませんか?」
「さ、さっきからさ、なんか敬語が逆に怖えよ……。委員長、俺に何する気だよ?」
「な、な、何もいたしません……わよ……」
――以上、そんな二人の物語でした。うん、やっぱり語り部は僕には合わないな。喋るのは得意ではないし。
もう語り部はしない。だけど、この二人の物語はまだまだ続いていく。そして、ハッピーエンドで幕を閉じるはずだ。
たぶんね。