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小鳥遊
シオンは暗い部屋の中で、ノートパソコンの青白い光にだけ照らされていた。
───カタカタ……カチッ
指がキーボードを叩く音が、静寂を切り裂く。
休日だというのに彼女は休むことなく画面を睨み続けていた。
『カロス地方の有名なIC企業の令嬢……年齢はカラスバさんの1個上……それにサビ組を立ち上げる際に支援してる……ここで知り合ったのかな……それで……』
〖チャモ……〗
アチャモが心配そうにシオンの横顔を見つめている。
シオンは気づかず、画面に映るツバキの写真を、食い入るように見つめ続けている。
大学を首席で卒業したツバキの笑顔
後ろの方に、うっすらと映る黒いスーツの男──カラスバだった
『……やっぱ、付き合ってたのかな』
小さく呟いた声は、部屋の空気に溶けて消えた。
シオンはノートパソコンをゆっくり閉じる。 蓋が閉まる音が、妙に大きく響く。
『私もアザミくらいに頭が良ければなあ……』
アザミなら、カラスバのパソコンをハッキングして、真実を暴けるかもしれない。
でも、自分は違う。
アザミのように 頭が良くない。
器用じゃない。 できるのは──
『…殺すこと……』
〖ンヂャッ!?〗
アチャモが驚いて飛び上がる。
シオンは小さく笑った。 笑顔なのに、瞳は虚ろだ。
『ふふっ、しないよ。そんな馬鹿なこと。それに……前あんなにキスしてくれたし……
だから大丈夫、私のこと好きに決まってる……大丈夫、大丈夫……』
何度も、何度も自分に言い聞かせる。
『……私じゃダメなのかな』
短い髪をそっと触る。
ツバキとは違う、跳ねた紫髪。
そして瞳はあのの男──父と同じ色。
父の冷たい瞳。
母を愛さず、ただの道具としてしか見なかった男。
そんな男と同じ気味の悪い瞳。
『本当にバケモノみたい』
シオンはフラフラと立ち上がり、クローゼットを開けた。
昨日買ったばかりのマーメイドスカートと肩出しのトップス。
いつもより大人びた服。
ツバキのような、知的な女性に近づける服。
鏡の前に立ち、髪をそっと梳く。
『……黒髪、好きかな』
〖チャモモッ!〗
『似合うって?ふふっ、ありがとう』
笑顔を浮かべる。
でも、その笑顔はどこか歪んでいる。
シオンはアチャモを肩に乗せ、部屋を出た。
美容室のカランカランというベルが鳴る。
「ありがとうございました〜!!」
シオンは出てすぐに髪を触った。
可愛らしく巻いていた髪を、真っ直ぐに伸ばし、黒く染め直した。
知的な雰囲気でまるでツバキのような、落ち着いた大人の女性らしいスタイル
『……これなら、もっと見てくれるはず……』
〖チャモ……〗
アチャモの心配そうな声に、シオンは優しく微笑んだ。
でも、心の奥底では、別の記憶が疼いていた。
〖6番には、もっと強めのを入れろ。6番は耐性が付きやすい〗
〖ゲホッ!ヴッ……ゴホッ!ゴホッ……!!たす、け……お父さ……っ〗
〖…6番は感情が消しにくいのが難点か。地下室に入れておけ〗
〖!ま、ご、ごめんなさ…っ!!地下室はいや!ごめんなさい!!ごめんなさ─── 〗
あの男の黒い髪。
サラサラストレートの黒い髪。
きっと今の私はあの男と瓜二つだろう
私はお母さん似じゃないから
その事実が気持ち悪い。あの男と同じ髪に瞳
憎い。憎い、憎い。汚い。でも────
『でも、この髪色なら……もっとカラスバさんは…見てくれる……あの女じゃなくて私を………』
そんな事を思いながら歩いていた時だった
瞬きをした次の瞬間、見たことのない空間が目の前に広がっていた。
見慣れたミアレの街並み……だが、色褪せていて、人の気配もポケモンの気配もない。
『まさか……異次元ミアレ……?』
〖チャモ?〗
直感的に異次元ミアレと感じ、辺りを見渡しながら散策する。
ふと屋上へ行くハシゴが目に入り、『上からなら誰かいるか見えるだろう』と思い、ハシゴを登る。
それから少し歩いていると、見覚えのある姿が見えた。
『グリさん?』
「お久しぶりです、シオンさん」
『お久しぶりです!もしかしてグリさんも迷われたんですか?』
「ええ、仕込みをしていたらここに……それより──」
グリはシオンをちらっと見たあと、黒色の髪を一束手に取る。
「黒髪にしたんですね。いつもより更に綺麗です」
『えへへっ……ありがとうございます!』
そう笑いつつも、少しグリとの距離を取るシオン。
グリが嫌い、なんてことは無いが、グリがシオンの事を諦めていないのは知っていた。
だからこそ、距離を考えないと……
「…彼とは最近どうですか?」
『うーん、実は最近忙しくて会えてないんです』
そう言って笑うシオンにグリは眉を下げ、唇を小さく噛む。
ニコニコ笑っているが、目は少し疲れきっていて、カラスバと上手くいっていないことはすぐわかった。
「(ずっと貴方の事を見ていましたから)」
元々お茶目で恋する乙女という言葉を具現化したような存在だった。
太陽のようにキラキラしていたのに、今となってはその欠片もない。
「シオンさん」
『はい?』
「…ヌーヴォカフェにまたいらしてくださいね」
『えへへっ、ありがとうございます!』
自分にはこれくらいの事しかできない。
欲望のまま行くなら今すぐ彼女の手を引いて、自分にして欲しい、と告げて抱きしめただろう。
だけどそんな事をしても彼女に迷惑をかけるだけだ。
けど……もし、彼が彼女を手放した時には今度こそ彼女を手に入れる。
そんなことを思いながら少し話していると、ぱっと辺りが明るくなり、次瞬きをした時には元の場所に戻っていた。
『戻った……』
一時的に異次元ミアレに強制的に入れられてしまったのだろう。
それほど、異次元ミアレの力は強くなっている。
『これじゃ当分会えないな……』
小さく呟いたあと、スマホを開きカラスバへメッセージを送った。
〖しばらくホテルZで泊まることにしました!! もし帰ってくる日あったら言ってくださいね!!〗
『……あの広い家に1人は拷問みたいだもん』
シオンはスマホを握りしめ、ゆっくりと歩き出した。
コメント
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そろそろカラスバグーパンかますぞ?