コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
和室に散らばる仲間たちの遺体。
鳴海による記録が終わり、遺体はどれもキレイに整えられていた。
だがこのままここへ放置しておくわけにはいかない。
総隊長である花魁坂は、皆に次なる指示を出した。
「仲間たちの遺体を処理してやらないとな。四季君は芽衣ちゃんを頼むよ。皇后崎君、遺体を運ぶ場所案内するから一緒に行こう。なるちゃんも行くよ」
「はぁい。」
「ありがと。他の人は遺体を一か所に集めておいてちょうだい。」
援護部隊全体にそう言うと、花魁坂は鳴海と皇后崎を連れて和室を後にした。
3人が向かう先は、遺体を処理する火葬場だ。
「君らが通った通路の途中に火葬場があるのよ。つーか彼女とかいんの?」
「…」
「京夜くん、それセクハラ。」
「え、嘘!ダメなの!?」
そんな何気ない会話をしながら歩くこと数分、3人は1つの扉の前に到着する。
そこで花魁坂から遺体処理のやり方を聞き、鳴海たちは今一度和室へ戻ろうとしていた。
真ん中に立った鳴海が書類の最終チェックをしている中、花魁坂はふと自分の左側から嫌な気配を感じ取る。
バッと振り返った瞬間、彼の脇腹にはナイフが…と思ったがそのナイフは鳴海の手の平に突き刺さっていた。
無表情でナイフを振るったのは、先刻まで無陀野と相対していた唾切だった。
「!?」
「あれ、反応速度速いね」
「あ、誰かと思えば唾切ちゃんか。」
「おい!(そこそこ場数を踏んでるからわかる…こいつはヤバい…!だから瞬間的に殺すべきだ…!)」
花魁坂を背に隠すように立つ鳴海と、すぐさま血触解放をし攻撃態勢に入る皇后崎。
だがそんな彼の背後にも、別の桃太郎が迫る。副隊長の蓬が、自身の能力で皇后崎の頭を箱で囲おうとしていたのだ。
彼の反対側にいた花魁坂が瞬時に片方で皇后崎の手を引く。
頭への攻撃は間一髪避けられたものの、皇后崎はそのまま右腕を箱で覆われてしまう。
そして次の瞬間…ボキョっという嫌な音を立てて彼の腕はあり得ない方向に曲がった。
「ぐっ…!」
「ち!ズレた…」
「迅ちゃん」
「心配いらねぇよ!少ししたら治る!」
「治す…」
「ダメ!使ったらダメ!」
「(へぇ~この子が…行方不明だった割にはピンピンしてるな~)」
皇后崎の折れた腕を治そうと、鳴海が自分の力を使い始めた途端、それを花魁坂が全力で止めた。
鳴海自身、いつかはこうなることが目に見えていた。
鬼と桃、両方の能力を使える異端者…それだけの理由で桃太郎に狙われ続けてきた。
「唾切ちゃんとは初めてか。勝てなくはないけど狭いしなぁ…」
「君…無陀野君の奥さんだよね?」
「えっ…!」
「手出さないからさ、そのまま能力使ってみてよ。」
「皇后崎君。」
「!」
「なるちゃん連れて、隊員や四季君たちに唾切が来たと伝えてきてくれない?患者含め全員逃げるように先導してちょうだいな。」
「何言って…」
「……あんたは…?」
「…まぁなんとかなるっしょ。なるちゃん上の人達のこと任せたよ」
「…分かった。応援も呼んでくる。」
「ダメ!京夜くんだけ残すなんて…!」
「大丈夫大丈夫、そんな泣きそうな顔しないの。また後でね。」
皇后崎と共に来た道を引き返していく鳴海の背中を見て鳴海は安心した
「2人とも優しいねー。あーぁ。君のせいで彼の能力見れなかったじゃん。…まぁいいや、また後にしよう。蓬くーん」
「うっす。」
「(なにこれ…?細菌で壁を造ってる…?あいつらも内側にいるってことは…逃げ場を潰されたってことか…)」
「清水寺地下はほぼ囲ったっす。文字通り、袋の鼠っすね。」
「本当…美女って手強いよね…」
花魁坂を残し、来た道を戻る鳴海と皇后崎。
しばらく走り続け、桃が後を追って来ないことを確認すると、皇后崎は一旦足を止めた。
「これからどうすんだ?」
「京夜くんの指示通りに動く。死にたくなかったら俺の指示に従って。」
「あぁ」
「の前に腕。大丈夫?」
「もう殆ど治ってる」
「でも確認ね」
鳴海は落ち着いた表情で治療を始める。
何度見ても不思議な能力だと思いながら、皇后崎は先程の花魁坂の発言について尋ねた。
「さっき何であいつはお前の治療を止めたんだ?」
「…俺、子供のときからずーっと狙われてんの」
「何でだよ。」
「俺がいるだけで鬼と桃の均衡が崩れるレベルで危険だから」
「!」
「すぐに治してあげられなくてごめんね。…よし、OK!違和感とかある?」
「…いや、ない。」
「じゃあ行こ!」
そう言って少し笑みを向けると、鳴海は前を走り出す。
その背中を追いかけながら、”あの能力が何故桃に狙われるのか…”と、皇后崎は不思議に思うのだった。
数分後、鳴海と皇后崎は和室へと到着した。
だが2人がまず感じたのは、室内に漂う謎の違和感だった。
「おい!ここに桃太郎が…」
「ちょいまち。何か変だよ」
「あぁ、人の気配が薄い…」
「戦えるようにして」
「おい。」
「「!」」
「…なんだよ、お前かよ。」
「悪かったな俺で」
「四季ちゃん…!皆も、無事で良かった…!」
「鳴海!大丈夫か?ケガしてねぇか?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「これだけか?どーゆうことだ?」
「実は…」
そうして聞かされたのは、鳴海たちが出て行った後の出来事だった。
遊摺部の能力で桃太郎が近づいてきているのを察知し、患者を地上へと逃がしたこと。
だがその途中、黒い靄で道を塞がれてしまったこと。
結果、一ノ瀬たちを含めた一部の隊員が逃げ遅れてしまったこと…
「黒い靄って、あの女性の桃太郎の能力か…?」
「たぶんね。従児ちゃんは?」
「あいつは立ってた場所がよかったから地上に逃げられたよ。」
「手分けして出られる所探すしか…」
「ないよ。さっき外に繋がる所は全部見たけど、黒い奴で塞がれてる。逃げ場はないよ。外とはスマホで連絡が取れるから通信障害とかは無いね」
「なぁ、あのチャラ先どーした?」
「あいつは…!」
皇后崎が話し始めようとした時、突然室内に気味の悪い生物が入って来た。
それは先刻無陀野の前にも現れた、犬・猿・雉が合わさったアグリと呼ばれるものだった。
アグリは目の前にいた隊員をいとも簡単に食いちぎると、むしゃむしゃと食べ始める。
その光景に他の隊員たちはパニックになり、三々五々辺りに散って行った。
「くそ!バラけちまったぞ!」
「俺らもいったんバラけるぞ!固まってたら一網打尽にされる!」
「(あの医者…どーなったんだ…?…ん?そういやあいつは?)」
皇后崎が気にするもう1人の人物。
へらへらでぺらぺらのくせに桃太郎に狙われる能力を持った危なっかしい人物。
「(京夜くん生きてるかな…?)」
鳴海は皆が散り散りになったタイミングで、再び火葬場へと続く道に向かった。