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※これは明らかにボツなんだけど、これくらい遥(本気)は恋愛わかってませんよってネタ。そして恋愛ものが書けそうにない自分晒し。……ギャグにもならない半端さ……。
昼休みの喧騒のなか、遥は蓮司の机の隣に腰を下ろしていた。
蓮司はスマホをいじっていたが、遥の存在に特に反応しない。
それでも遥は、所在なげに視線を泳がせながら、ぽつりと口を開いた。
「……あのさ。昨日、夢に蓮司が出てきた」
蓮司は顔を上げない。スマホの画面をスクロールしたまま。
「へぇ。俺、夢でもかっこよかった?」
「……電柱になってた」
一瞬、教室の近くにいた女子が「は?」と声を漏らした。
蓮司はようやく顔を上げて、遥を見る。
「電柱?」
「うん。なんか……俺が傘忘れててさ。蓮司が電柱になってて、俺そこに寄りかかって雨宿りしてた」
蓮司はしばらく無言で、口の端だけを持ち上げた。
「……それって、俺が“役に立たないけどいてほしい存在”ってこと?」
「……え?」
遥が戸惑う。たぶん、自分でも意味がわかっていなかった。
女子たちが、呆れたような目を送る。
「また意味不明なこと言ってる」
「てかさ、何あれ? あれが彼氏?」
「蓮司くんほんと、もったいない」
──そう思わせるには十分な奇行。
遥は気づいていないようで、目線を窓の方に向けた。
「今日……空、ちょっと高いよね」
蓮司は吹き出しそうになるのを抑え、スマホを置いた。
「遥、さ。もしかして……俺と、デートしてるつもり?」
遥はほんの一瞬、間を置いたあと──真面目に頷いた。
「……昼休み、いっしょにいるのって、デートみたいなもんじゃないの?」
蓮司は笑いを堪えきれず、喉の奥でくぐもった音を立てた。
「マジかよ。そりゃ初耳」
その声に、周囲の女子の視線がさらに鋭くなる。
それでも遥は、“自分の世界”を壊そうとしない。
「……あのさ、俺、今夜カレー作ろうと思ってて」
「急にどうした?」
「……いや、なんか、食べさせたいなって。昨日スーパーで人参が安くてさ」
それは──まるで、“恋人ごっこ”のテンプレみたいな台詞だった。
けれどその言い方も、表情も、どこかズレている。
“手順だけ覚えた”子どものような、ぎこちない模倣。
教室の中には、もうはっきりした空気が立ち込めていた。
──引いている。
──見下している。
──軽蔑している。
蓮司だけが、その空気を楽しんでいた。
「それ、俺に言ってんの?」
「……うん」
「ふーん。じゃあ、食べたいかも。カレー。辛口で」
遥はふっと顔をほころばせた。
小さく、けれど本気で嬉しそうに。
それがまた、教室中に“ざわり”と波を立てる。
──ほんとにバカなんだ。
──勝手に一人で盛り上がって、気持ち悪い。
──蓮司くんが寛容なだけでしょ。
その視線のすべてが、遥を“吊るして”いた。
それでも、遥は笑ったままだった。
ただ、日下部の方だけを見ていた。
まるで、“おまえだけはわかってるよな”と、訴えるように。
──それが一番、見ていられなかった。
蓮司は静かに、遥の頭に手を置いた。
まるでそれが“愛情表現”であるかのように。
「……じゃ、カレー。楽しみにしてる」
それは──宣告だった。
“おまえが必死になって、下手くそに恋人やってるの、俺はちゃんと見てるよ”
遥は、それを“肯定”と受け取って、また笑った。
その笑顔だけが、教室の空気のなかで、異物のように光っていた。