きっと、ネイと同じ、僕が余計な事を言わないための釘さしだろう。
二人には、何か隠し事がある。僕は、そう感じた。
朝食後、本日の任務を海軍長さまから告げられた。
「あれ、そういえばお前、潜水艦乗るの初めてじゃないか?」
「え、あ、うん。そうだね」
船から、潜水艦へ乗り移る。
「なんだか、浮かない顔だな。大丈夫か?」
ネイは、先導しながら僕の顔をじろじろと見てくる。
「何でもないよ。それより、今日の任務ってなんなの?」
僕が潜水艦に乗り込むと、背後にいたネイがハッチを閉める。潜水艦の中は、船の時よりも狭くて圧迫感があった。
「今日の任務は、深海に行くんだよ」
「どういうこと?」
「ちょっとした旅行みたいなもんだよ」
ネイは、軽い身のこなしで操縦席へと向かった。
「揃いも揃って悠長な事、言ってんな」
僕とネイは、声の先をたどって固まってしまった。ネイは、心の声を堪えきれなかったのか、先に言葉を発していた。
「え!なんで海軍長さまが!今日は、俺ら二人だけじゃないんですか?」
僕ら二人は、朝礼後、海軍長さま直々に、
「今日の任務はお前らだけの仕事だ」
と告げられていた。
「予定が変わったんだよ。そんくらい、いくらでもあるだろ。いちいち驚くな」
海軍長さまは呆れたように言った。
「予定変更なら、俺らにも伝えてくださいよ!」
「うるせぇな、時間がなかったんだよ」
ネイとは既に数回程度、任務をこなした事がある。ただ、海軍長さまが同行の任務は、初めてだった。
「深海へ行く任務とはどんなものなんですか?」
思い切って、海軍長さまに聞いてみた。
「知らねぇ」
「え?」
僕は、予想外の答えに唖然とした。
「初めはそうなるよな!」
ネイが愉快そうに笑っている。
「どういうことですか?」
「どうにもこうにも、説明してる暇があったら手を動かせ」
と言うと、海軍長さまは潜水艦の操作を始めた。トンネルのような重い機体の音が、船内に響き渡る。
潜水艦が動き出したのだ。船内についている窓を見ると、既に景色が流れていた。
「すごい」
「と言っても、いつもの船の下を覗いてるだけなんだよな」
ネイにとっては、日常の一部のようだった。
「おい、どこ見てる。船体の周囲の状況を確認しろ」
僕らは、海軍長さまの声かけで、機材と海の景色を交互に見ることになった。
その間、誰も深海への目的を口にするものはいなかった。段々と、景色だけが移り変わり、視界は闇色に染まっていった。
「こんなに下に潜っても、潜水艦なら大丈夫なんですね」
僕がずっと乗ってきた船は、浮力もあるし、潜れないから新鮮だった。
「んなわけねぇだろ。こんなのまだ、深海の深さじゃねぇから大丈夫なだけだ」
「違いますよ、海軍長さま。彼は、潜れている事自体に感動してるんですよ」
「単純なやつだな」
僕が、話に耳を傾ける頃、話題は変わっていた。
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