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「単純なやつだな」
僕が、話しに耳を傾ける頃、話題は変わっていた。
「と言っても、ここはもう深さ200m以上なんで、深海領域ではありますよね」
僕らは、太陽光がほとんど届かない深さにいた。牢獄に閉じ込められているようだった。まるで、この海そのものが巨大な監獄だ。
「水圧はまだ耐えられるな?」
「はい、まだ数千メートルは行けますよ」
深海は未知の領域だ。水圧が人類の問題の壁として、立ち塞がっている。だから、人は深海に立ち入れないんだ。
「だが、陽の光はこの程度の深さなら届いている事になってるがな」
「でも、やっぱここも暗いですよ。夜と例えてもおかしくないくらい」
窓の向こうは、水の色が見えなくなっていた。潜水艦の先端についている明かりでさえも、色を判別出来ないくらいだ。
「ここはまだ深海じゃないって事ですか?」
僕は、改めて尋ねてみた。
「深海って言っても、レベルがあるからな。皆が思うような地下世界はもうちょい先の話だ」
こんなに深い海の底に、何しをしに行くのだろう。
「いやー、しかし久しぶりに深海なんて行きますね」
ネイは、僕と同い年ではあるが、船に乗ったのは僕よりも数年先だった。そういえば、僕はなぜこの船に乗ったんだっけ。少し考えて思い出せないのは、本来の目的も忘れているからだろう。
「どうして、深海に行く必要があるの?」
「うーん?」
ネイは、眠気覚ましに伸びをしているようだった。
「だって、こんな海の底に何をしに行くの。出来る事なんて限られているのに 」
今僕らは、人類の壁と戦っているんだから。戦地で、何を成さなければいけないのか。それを、なぜ僕は忘れているのか。
「宝探しに行くんだよ」
目の前の青年が、僕の疑問を一瞬にして打ち消した。
「何しに行くのか聞いたって、ここでは誰も教えてはくれないぞ?」
「どうして?」
ネイは、口をつぐんだ。言葉を続けようとしたのに、無理やり飲み込んだみたいだ。なぜそんな辛い表情をしたのか、僕には分からなかった。
「深海には…宝が眠ってるのさ。だって、未知の領域だからね。掘り出しものが沢山あるんだ」
彼の声色はあまりにも落ち着いていた。そのせいか、今の彼は、僕の知っているネイじゃなくなっていた。
あぁ、ネクトだ。
また、僕の中で思い浮かぶ名前。ネイに対して、ネクトさんだって。僕に流れる言葉は、現実とは異なっているのに。
「今日の任務は、宝石を探すんだ。宝石だって、地下世界にしかないだろ…」
ネイの言葉は、まるで自分に言い聞かせるような言い方だった。
深さ400mに達する頃、潜水艦の船内は沈黙した。