テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『白霞に溶ける声 ― 執着の印 ―』「ねえ……他の誰かと喋ってたの、何?」
それは、任務の帰り道。
ほんの少し話していただけの同期の隊士の名前を出して、無一郎は言った。
声の調子は普段と変わらない。けれど――その瞳が静かに怒っていた。
「俺以外の名前、あんまり口に出さないで」
それだけで、空気がぴたりと凍りつく。
わたしが答える前に、無一郎はするりと距離を詰めた。
軽い身体が羽のように動き、気づけばわたしは壁に追い詰められていた。
「……や、無一郎く――」
言葉が途切れる。
彼の唇が、わたしの首筋へと触れたから。
「少し黙ってて。……印、つけるから」
その囁きと同時に、ひんやりとした唇が肌に触れる。
そこから舌がゆっくりと這い、ぴたりと一点を吸い上げる。
「やっ……だ、めっ……」
びくりと身体が跳ねるけれど、逃げられない。
彼の腕がしっかりと腰を抱きしめ、もう片方の手はわたしの髪をすくい上げている。
「……誰にも見せないでね。ここ、僕だけの場所だから」
ちゅ、と湿った音を立てて、唇が離れる。
見なくてもわかる。首筋には紅い痕――無一郎がつけた“証”が、くっきりと残っていた。
「……他の人と笑ってると、ムカつく」
呟きながら、今度はそっと額にキスを落とす。
そして、頬、唇へと――ためらいもなく辿っていく。
「君のこと、いじめたくなる。でも……独り占めしたくなる方が、もっと強い」
抱きしめられたまま、わたしはその体温と冷たさに、逃げ場を失っていくのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!