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海月
38
ムカム島、グランツ家の屋敷に戻った俺は、島の歪になっている部分の修正に着手していた。
まずは島の警備団の設立。これは現在泥棒や強盗被害にあった時、ギルドに頼らざるを得ない状況を改善するためだ。
勿論島には駐在兵がいるものの、たった二人しかおらず年齢も70と高齢だ。
ヨハンナの海賊たちに装備を新調させ、島全域の警備を任せることにして治安の強化を図ることにした。
これによってお金がなくてギルドに依頼を出せないなど、泣き寝入りするしかなかった事案が減ってくれるだろう。
また現在市場を牛耳っているムカム商会に対して、グランツ商会を設立。上納金なしで加入ができる制度にして、島の自由な場所で商売ができるようにした。
不当に僻地に追いやる行為をすれば、海賊警備団が取り締まる。
またグランツ商会に加入した商人のみ、高速船での物資輸送が行われ、海賊たちが船で護衛する安全高速便のメリットをつけた。
これによって商人たちはムカム商会につくか、リガルド国公認のグランツ商会に入るのかの選択を迫られることになったのだった。
当然それに怒ってやってきたのは、ムカム商会の会長ゼニスキーだった。
怒鳴り込むようにして俺の執務室に入ってきたゼニスキーは、タコみたいに顔を赤くしていた。
「王子、これはどういうことですか!?」
執務デスクに座る俺は、唾を飛ばすゼニスキーに顔をしかめる。
「どういうこととは?」
「いきなり新たな商会を立ち上げたと思ったら、これほどの優遇措置をとるなんて! あなたは歴史あるムカム商会を潰したいのですか!?」
「まさか潰すならもっと徹底的にやる。やろうと思えば商業禁止命令を出すこともできるんだ」
「横暴です!」
「と、言われてもこの島はリガルド国の所有地。そこでお前たちが勝手に商売しているだけだろう。今まで黙認していたが、お前たちの上納金制度などで、弱小商人たちは隅に追いやられている」
「商会運営には資金が必要なのです、新規で加入するにはそれなりの加入料をいただかないといけません」
「にしても取りすぎだ。商会加入料だけでリガルド貨幣で約300万、月の会費が売上金の15%、出店費用が5万、商品輸送費が10万、商品輸送保険5万。計算したが絶対にこんなにかからん。商人に対する負担が大きすぎる」
「もしものことがあったときの為に、少し多めに徴収しているだけです!」
「じゃあそのもしもがあったときとやらの使途不明金、全部帳簿出せるんだろうな?」
「そ、それは……」
「まぁこの島で長年商業を発展させてくれた功績を考えて、そっちはそっちで勝手にやればいい。ウチはあぶれた商人を集めて勝手にやる」
「そんな、リガルドがバックにつけばムカム商会が勝てるわけないでしょう!?」
「ならお前もグランツ商会に入ればいい。それで全て解決だ。ウチは入会金などとらんし、売上が一定以下の商人には会費を免除する措置もある」
ゼニスキーは悔しげに歯噛みする。
そりゃできないよな、上納金、月の会費をお前ら商会のトップがピンハネしてるんだから。
「なぜ今になってこのようなことを……」
「商会の人間が、俺にまずいムカムフルーツを売りつけてきた。がっくりしてると、路地裏に追いやられてる無所属のフルーツ屋がうまいフルーツを売ってくれた。そのことでこの市場は健全じゃないと気づき、立て直すことにした。大体市場を一つの商会が独占していること自体が不健全だ」
「今までそれでやってきたじゃないですか」
「だから俺はムカム商会を潰す気はなく、敵であってほしいと思っている。グランツ商会に負けない、良いアイデアを出して市場を活性化させてくれ。ライバル同士切磋琢磨する、それが商売というものだろう?」
「ぐぐぐ……」
「それとは別件で、海賊のふりをした冒険者がムカム商会の依頼で、輸送船を襲っていたという話がある。商人の不安を煽って保険に加入させていたようだが、このことについては後日騎士団から連絡があるから楽しみにしていろ」
ゼニスキーは肩を落として退出していった。
◇
それから数日後、俺はマーケットを訪れていた。
広場のような円形のマーケットは、若干様変わりしており東側にムカム商会の旗を掲げた屋台が並び、反対側にはリガルド帝国の国旗を掲げた屋台が並ぶ。
商人はそれぞれいがみあうように声を張り上げて客引きをしていた。
俺はその中で、ひときわ大きいフルーツ屋台を見つける。
「こんちは」
「あら、デブちん王子。じゃなかったラウル王子と奥様方」
「痩せるまでデブちんでいいよ。随分おっきな屋台だね」
「ええ、王子のおかげで貯めてた上納金を全部新しい屋台に注ぎ込んだのさ。フルーツ・ザ・ビーナよろしくね」
「商品は安いですね」
並んだ商品は、全てムカム商会の屋台の物より3割ほど安い。
「上納金も会費もない分値段を下げられるのさ。今のところ島民には裏切り者扱いされてるけど、観光客は安いあたしたちの商品を買ってくれる。向こうが音を上げるのは時間の問題さね」
おばさんがチラリと反対側の店を見やると、ゼニスキーがギラギラした目でこっちを見ていた。
「おばさんは俺の推しの店ですから、頑張ってください」
「勿論。悪いね、今まで悪態ばっかついて。あんたがいなかったら、あたしゃ今も路地裏でフルーツ売ってたよ」
「いえ、商売が活性化してくれる方が、リガルドのメリットになるので。今は田舎島ですけど、いずれ世界から人が来るリゾート島にしたいですね」
「さすがだね、あんた王子の器だよ」
「ところでおばちゃん、新しい商売の話があるんだけど乗らない?」
「なんだい、悪い話かい? 言ってみな」
◇
俺はムカム島のビーチで、水着に着替えていた。
爺が用意してくれたビーチパラソル下にあるベンチに横たわって、強い日差しを浴びながら日光浴をする。
砂浜ではキャイキャイと観光客が遊んでおり、楽しそうだ。
爺やがブルーのトロピカルなジュースを持って、俺の元へとやってくる。
「ラウル様、新たな事業は大成功ですな」
「事業っていうか、ただのレンタル水着屋だからね」
このムカム島、海がメインの遊び場のはずなのだが、意外と泳いでいる観光客が少ない。
裸で泳ぐのは恥ずかしいし、水着は高いしで結果海に来ても砂浜を歩くだけで終わってしまう。
そんな中格安で水着をレンタルすることで、水の中に入って遊ぶことができるし、島は水着女性で満たされるしで良いことしかない。
「レンタル価格をお安くしたのが良かったかと思います」
「水着はただの呼び水であって、本命は市場や飲食店でお金を使ってもらうことだからね」
「だから海辺に新たなレストランを開かれたのですね」
「レストランと言うか露店だけど」
砂浜には、グランツ商会の商人達がかき氷や焼きとうもろこしを売っている姿が見られる。
需要のある場所に供給するのが商売の基本だろう。
「しかし、あっついなー」
常夏の島ムカム島の今日の推定気温は約32度。絶好の海水浴日和である。ジリジリと照りつける日差しが俺の肌を焼いて、ワイルドな男にしてくれるだろう。
俺を見たクソガキが「わ~豚が寝転がってる~焼き豚だ~」とか言ってきたが無視である。
「ラウルちゃ~ん」
声が聞こえて振り返ると、ビキニに着替えたナハト、ママ上、ヨハンナの姿があった。
「皆、いいね」
「ありがとうラウルちゃん。ちょっと大胆だったかしら?」
ママ上の水着は紫の三角ビキニなのだが、胸が大きすぎてちゃんと全部を隠しきれていない。普通サイズの水着なのだと思うが、マイクロ水着みたいになっている。
「普段ロングのワンピースドレスが多いから、新鮮でいいと思う」
「そ、そうかしら……」
「ラウルー、僕のはどうなんだーおぉーん?」
ナハトはピンクのヒョウ柄ビキニで、はちきれんばかりの胸の中央部分が紐になっている。つい引っ張ってみたい衝動に駆られてしまう。
「ナハトっぽくていいと思う」
「ほんとぉ~嬉しい~♡」
ナハトはハート型の尻尾を振って喜んで見せる。
「似合ってるって下品って意味じゃねぇのか?」
ヨハンナは赤のチューブトップ型の水着で、まるで胸にベルトを巻いているようだ。胸の中央部が金のリングで止められおり、これを外したら、パチンと弾け飛びそうだ。
当然胸の北半球と南半球が露出していて、ベルトの形に胸がひしゃげている。一番露出度が高いため、飛び跳ねたら大変なことになりそうだ。
「なぁラウル、あたしブラジャー嫌いなんだけどこれは気に入ったぜ。くれ」
「えっ、まぁいいけど」
「ラウル僕にもこれちょうだいよ」
「わかった、全員あげるって」
「ラウル様、爺やもこのトランクス水着というのが、解放感があってよいのですが」
お前もか。
その後ヨハンナの海賊たちも合流し、スイカ割りやバーベキューなどリゾート地を楽しんだのだった。
悪役王子、聖剣を抜く
第一章 了
コメント
1件
おお〜第16話、読み終えたよ〜!!✨ ラウル王子、ついに商会立ち上げて本格的に改革始めたね!🔥 ムカム商会のゼニスキーにズバズバ指摘するところ、めっちゃスカッとしたわ〜😭💕 「敵であってほしい」って言い放つの、かっこよすぎんか?? フルーツばあちゃんの屋台が大きくなってて嬉しかったし、最後のビーチで水着回は癒しだった〜🥺💖 第一章完結おめでとう!続きも楽しみにしてるよ〜!!🌸