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「樹・・。もうすぐ会社」
「うん。だったら何?」
「手。そろそろ放さない?」
会社に近づいて手を繋いでるのがやっぱり人に見られたくないらしく、そう言いながら辺りを見回している透子。
「うーん。どうしよっかなー」
「会社行くまでって行ったじゃん」
「確かにそう言ったんだけどさー。なんか気が変わったというか」
「は!? 気が変わるとか何!?」
「だって一回繋いだら放したくなくなった」
「だからー!そういう問題じゃなくてー!」
「あっ、オレの気が変わっただけだから気にしないで」
「気にしないで、って。私が困るんだけど~」
「なんで? オレが嫌?」
「いや、樹が嫌とかじゃなくて、会社の皆に見られるのは恥ずかしいっていうか」
「そっかー。そういう理由ね。わかった」
「わかってくれた? じゃあ・・・」
「うん。そんな可愛い理由なら却下かな。オレは見せつけたいから問題ない」
恥ずかしがりながら動揺してる透子が可愛くて、ついまたいつものようにからかってしまう。
いつもそうやって言いながらもオレのペースに合わせてくれる透子。
無理にオレを拒否したりせず、結局なんだかんだオレを受け入れてくれる。
そんな優しい透子がまた愛しくて、ホントにこのままずっと手を繋いだままいたかったけど。
人が多くなって会社の入口に近づき始めたところで、繋いだ手をそっと放す。
「人増えだしたから。透子からかうのはこれくらいにしとく」
「樹」
「透子嫌がることはしないって」
だけど、透子の会社の立場もわかってるし、さすがに結婚するからとはいえそれ以上すればホントに困ってしまうのもわかっているから。
それにそんな女の顔、他のヤツらに見せてたまるかよ。
そんな顔オレと二人だけの時にしてくれればいい。
会社では凛としたカッコイイ透子でいてもらいたいから。
「じゃあね樹」
そしてそれぞれのフロアの近くまで来て透子が自分のフロアへ行こうとすると。
「いってきますのチューは?」
またちょっとからかってしまいたくなるオレ。
「はっ!?!?」
さすがに手を放してからは、またオレがそんなこと言うとは思ってもいなかったみたいで、普通に驚いてデカい声を出す透子。
「透子。声デカすぎ。そんなビックリしなくても」
「ご、ごめん。だってビックリして」
やべぇ。透子可愛すぎかよ。
「じゃあハイ」
そしてまだもう少しそんな可愛い反応をすると透子が見たくて、今度は大きく両手を広げてハグを迎え入れる仕草をする。
「ちょっと! ここ会社!」
「わかってるよ?オレ的には特に場所とか関係ないし。っていうか、やっぱ皆に見せつけたいっていうか」
「は!? 会社で意味わかんない!」
やべっ。照れながらムキになってる(笑)
「ハハッ。ごめん。嘘嘘。透子の可愛い顔見れたからもう満足」
「ちょっともう!」
怒りながらも顔を真っ赤にして照れる素振りをする透子がまた可愛くて。
「じゃあね。透子。またお昼に屋上で」
「ちょっと!」
そう言って背を向けて掌をヒラヒラと振って自分の部署へと向かう。
会社に来ると、やっぱり透子は透子の立場があって。
実際ずっとオレより先輩で。
振り返って自分の部署へと歩いて行く透子の後ろ姿はやっぱりいつも通りカッコよくて。
いつも見ていた後ろ姿。
その人が今はオレのモノで、オレの隣にいてくれるなんてホント夢みたいで。
こんなにも会社でカッコイイ人なのに、オレと二人でいる時はあんなにも可愛くなってくれる。
それが嬉しくてたまらない。
実際いろんな偶然や奇跡が重なって、透子と今こうやって一緒にいられるワケだけど。
もし、オレが社長の息子じゃなかったら、その時はどうなっていたんだろう。
ただ普通にこの会社に入社して、その時同じように透子がオレを新人研修で指導してくれていたとして。
きっとオレはどんな状況だったとしても、きっと同じように透子を好きになっていたはず。
だけど、オレが今の境遇じゃなく、ただの社員でただの後輩で。
何も出来ない普通の男だったら。
今みたいに透子を手に出来ていたのだろうか。
それでも透子はオレを好きになってくれたんだろうか。
そう考えると一瞬で怖くなる。
もしかしたら、この幸せを手に入れられていなかったのかと思うと恐ろしくなる。
そうだったら、オレはどうなっていたんだろう。
昔はあの親父の息子で、社長の息子で、そんな肩書が嫌でたまらなくて重荷だったこともあったけど。
今はそのことを逆に嬉しく思う。
あの人の息子でここにオレがいれたから透子に出会えて今一緒にいることが出来る。
今はそんなのどっちだっていい。
それで透子が手に入れることが出来たのなら、オレはそれも幸せに思う。
どんなカタチであろうと、どれだけ時間がかかっても、透子を手に入れたかったから。
どんな状況でも、どんな始まりでも、今透子がオレを好きでいてくれて、一緒にいれることが答えだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
今透子と一緒にいれる幸せを手に出来ていることが、オレにとってのすべてだ。