約束していた昼休み。
今日は朝からそのことが楽しみすぎて、ずっとそれを楽しみに午前中は仕事をしていたようなモノで。
屋上で先に待ち構えようと少し早めに部署を出ようとしたら、なぜかそのタイミングで確認したいことがあると部署の人間に呼び止められる。
さっきまで聞いて来なかったくせに、なんでこのタイミング。
でもまぁまだ少し時間あるからと思って話を聞いていたら。
話が終わって時計を見ると、とっくに時間が過ぎていた。
やべっ。マジか。もう時間過ぎてんじゃん。
「早瀬~。今日昼飯どうすんのー?」
話が終わると、同じ部署の高杉が声をかけてきた。
「あぁ。今日、オレ、これあるから」
そう言って透子に作ってもらった弁当を取り出して自慢げに高杉に見せつける。
「えっ?弁当? あっ、もしかしてそれ望月さん作ってくれた弁当!?」
「そう。愛・妻・弁当」
「うわーマジかー! 望月さんそんなことまでしてくれるのかよー」
「マジであの人料理上手くてさ。この弁当もオレが作ってほしいって言ったら作ってくれた」
「羨ましい~。てか、お前そんなタイプだったんだ」
「何が?」
「そんなんで喜ぶタイプだと思ってなかったから」
確かに。今までのオレならそんなことで喜ぶタイプじゃなかったよな。
まして手作り弁当自慢したくなるとか、今までのオレならあり得ないことだけど。
でも。
「あの人だから。あの人はオレにとってすべてなんだよね」
今はこの気持ちも、透子への想いももう隠したくない。
「もうその顔見てたらわかるよ」
「ん?」
「お前すげ~幸せって顔してるから。あーうらやま~!」
高杉に言われて初めてそんな自分が出ているのだと気付く。
でもそれがなんか嬉しくて。
「高杉も早く幸せ見つけろよ~!」
「うるせーよ(笑)」
「ってことで一緒に弁当食って来るから、またなー」
「マジか! ごちそーさーん!」
高杉に笑って応えながら、透子が作ってくれた弁当が入った袋を持って急いで屋上へと移動する。
正直今までは高杉とも仕事での話はし合って来たけど、オレの異性の話をすることはなくて。
それは当然今までは特定の相手がいなくて話す必要がなかったからだけれど。
でも今は、こうやって隠すことなく愛する人を堂々と想えて、それを口に出来るということが、こんなに幸せだと思えるのも初めて知った。
ずっと隠して来た透子への想い。
それを今は言葉に出来る。
そんな嬉しさを思わず隠し切れなくなりそうになって、だけどやっぱりニヤけつつ屋上へ急いで足を進める。
そして屋上に到着して辺りを見回すと・・・。
やっぱ透子先だったか。
オレが待ち構える予定だったのに、透子待たせることになるとは。
でも透子は屋上のフェンス越しから景色を見ているのか、こっちに背中を向けたままでオレが来たことにはまだ気付いていない様子。
この屋上に透子がいるとか、なんか変な感じだな。
透子と会えない時、ずっとここで透子のことを一人想っていた。
きっといつか戻れると信じて、ここで一人気持ちを何度も奮い立たせていた。
だけど、今はそこに透子がいてくれている。
何度もあの背中は見つめ続けていたけれど、今はこの場所でオレだけを待ってくれている。
オレの為に、この場所で、オレを待ってくれているという今のこの状況が、また嬉しくて。
そしてまったくオレの存在に気付かない透子に、静かにそっと近づいていく。
背中越しからでも少し見える透子の横顔も、長い髪が風に揺れているのも、遠くからでも相変わらず綺麗で。
オレはそのまま吸い寄せられるように透子のすぐ背後に近づいて、そっと後ろから抱き締めた。
「お待たせ」
その瞬間、ようやくオレに気付いて顔を少し後ろに向ける透子。
「透子。何考えてたの?」
「ん? こんな広い世界の中でよく樹が私を見つけてくれたなぁって考えてた」
「は? 何それ(笑)」
「この景色見てたらそう思うよ樹も」
「オレはそうは思わない」
「え?」
「だってオレはどんな場所でどんなにたくさんの人がいても、きっと透子を見つけだしたから」
「そっか」
「きっとオレたちはどんなことがあってもお互い引き寄せられるから」
「うん。そだね」
そう。こんなにも広い世界の中、オレは透子だからきっと見つけられたんだ。
きっとどこにいても、オレは透子に引き寄せられて、透子を見つける。
どんなに状況が変わっても、年月が経っても、きっとオレ達はお互いに引き寄せられて、きっとまたこんな風に抱き合っているはずだから。
「何? どしたの? 透子。急に。朝はなんともなかったのに」
「ん? なんともないよ。たまたまそんな風に思っただけ」
「そっ・・? ならいいけど」
「さっ、お昼食べよっか? ちゃんとお弁当持って来た?」
「もちろん。めちゃ周りのヤツに自慢しながら持って来た」
「やだ~そんなことしなくていいよ~」
「愛妻弁当だって見せつけてきた」
「・・・まだ妻じゃないよ・・・」
「あーそっか。まぁもうすぐそうなるワケだし。同じでしょ」
透子は知らないでしょ?
周りに自慢することで、また幸せもこの想いも倍増するってこと。
あー早くそうなってほしいけど、でももう気持ちはすでにそうなってるし。
てか、早くその言葉実感してー。
そして屋上の中に作られているテーブルとイスがある場所へ二人で移動し、早速透子が作ってくれた弁当を開ける。
「うわっ!ウマそ~! やべーホントに手作り弁当で感動」
なんだ、これ。
マジすげー。
あー何このレベル高い弁当。
「いただきます!」
「ハイ。召し上がれ」
あー何この幸せ。
透子がこんなすげー弁当作ってくれて、その上隣でその透子が微笑んでくれて。
しかも弁当もマジで美味すぎるんだけど。
見た目通り、いや見た目以上。
「やっぱウマい。オレの為だけに作ってくれたんだと思ったら尚更。これで俄然また午後からの仕事やる気出そう」
「よかった。樹が会社いる時はお弁当作るね」
「今週こっちいる」
「うん。なら今週ちゃんと毎日作る」
「透子毎日大変じゃない? こうやって同じように仕事出て来てんのに」
「うーん。そだね。ちょっと手抜きするかもしれないけど(笑)簡単でもよかったら」
「なんでもいいよ。透子がオレの為に作ってくれるだけで嬉しいし。そしてこうやって二人きりで昼過ごせるから、オレとしては嬉しい」
「了解。なら頑張るね」
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