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三日後。豊洲の地下スタジオに新たなセットが設置されていた。カメラ10台以上が中心のテーブルを狙っている。ライトの光量は過剰で、視界が霞むほどだった。
観客席はない。すべて動画を撮影し、インターネット生放送で配信する形式だ。リアルタイムのコメント欄を見る限りすでに数千人が視聴しているらしい。
テーブルに着いた智司の正面に立つMC役の男──八木だった。
「皆さんこんにちは!『黒煙エンタテインメント』プレゼンツ『サイコロ・エッジ』第参十七回!今夜は特別ゲストとして我が社で最も危険な借金王をお迎えしております!」
盛大な拍手効果音が流れる。
「智司!4億円超の借金を背負った若者です!しかも今日から彼は我らがチームの『スター候補生』となります!皆さま是非応援してください!」
カメラがアップになっていく。マイクを持っている八木の口元が見える位置で止められた。
「それではさっそくですが一回戦へ!今日は特別ルールでお送りします」
八木が箱から別の賽を取り出した。立方体だが表面に数字はない。代わりに漢字一文字ずつ書かれている。
「今日のお題はこちら──」
箱の中身がオープンされた。『幸・不幸・罰・赦・滅・狂』の六種類。
「おっとこれは新しいパターンですねぇ」
八木の声がわざとらしく高くなる。
「今回は智司さんが自らの将来を占う形になります!ただし一つ注意があります。もし『滅』が出た場合──」
八木の唇が歪む。
「借金が十倍になります」
智司は思わず唾を飲み込んだ。
「また『狂』が出ると……爪剥がしなどを自らしてもらいます」
観客からのコメントが画面に次々と流れる。
『怖すぎる……』
『マジかよ!』
『最高w』
『自傷プレイktkr』
『これ絶対盛り上がるだろ』
「さあ智司くん」
八木がマイクを渡す。
「自己紹介を兼ねて意気込みをどうぞ」
震える手でマイクを持つ。喉が乾ききっていて言葉にならない。
「僕……は…智司です……借金を……返したい……だけです……」
かろうじて搾り出した言葉に観客からのリアクションが殺到する。
『声ちっちゃ!』
『もっと元気出して!』
『頑張れ負け犬!』
「ありがとうみなさん!智司くんの健闘を祈りつつ最初の一投を始めましょう!」
八木が立方体を掲げる。
「準備はいいかい?」
小さく頷く智司。
「では何円賭けるかい?」
八木の瞳がギラつく。
「最大1000万円まで認められているよ」
答えに詰まる。1000万なんて到底用意できる額ではない。だが借金減らすためには高額ベットが必要だと知っている。
「……100万円」
消え入りそうな声で告げる。
「よろしい!では、振るといい」
賽を掴んで振ると、奇妙な音と共に「カシャン」と六つの面が固定される。そこに現れた文字は……『罰』だった。
観客から悲鳴のような歓声があがる。
「おぉぉ!!罰!!!」
八木の声も上擦っている。
「これは厄介ですねぇ。罰ってことは身体的ペナルティか精神的苦痛か……両方あり得ますねぇ」
「具体的には?」
智司の問いに八木がニヤリとする。
「簡単さ。爪を二枚剥いでいただく。右手人差し指と左手中指だ」
智司の顔色が青ざめる。
「道具はこちらを使おうか」
助手が持ってきたのは、黒塗りの小さな鑿とハンマーだった。
「麻酔なしです」
八木が囁く。
「生中継だからな。臨場感が大切なんだ」
恐怖で全身が硬直する。スタッフが強引に椅子へ押し付けようとすると反射的に抵抗した。
「やめてくれ!まだ他に方法が──」
「あるわけないだろ!」
突然八木の声が荒々しく変わる。
「これが現実だよ?お前みたいなカス債務者が生き残る唯一の方法なのさ」
観客コメントも加速していく。
『早く剥げよw』
『マジかよ痛そうだな……』
『興奮してきたww』
『早く見せてくれ〜!』
「智司君。選択肢はないんだよ」
八木が鑿を手にする。
「さぁ。始めるぞ」
智司は恐怖のあまり失禁しかけていた。涙が溢れ頬を伝う。鑿を振り下ろし、爪を剥ぐ。
「グァァァァァァ!!」
獣のような悲鳴と共に右手人差し指の爪が飛び散る。続いて中指にも同じ作業が行われた。
出血多量で意識朦朧とする智司に八木が囁いた。
「まだまだ始まったばかりさ……」
観客数は十万を超えていた。
そして二回戦が始まろうとしている───。