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「あ。でも、どうやって夢の世界から戻れるのかしら。ご主人様と真理ちゃんはゴルフ場からどうやって、私たちを救って下さったの?」
「ああ。あの時は砂地に埋まってあった。赤い古風な目覚まし時計を止めたんだ。今度は携帯と違って、別々じゃなくてもいいのかも。みんな助かったようだし」
安浦は歓喜して、
「やっぱり。あたしのご主人様です」
…………
外で工事の騒音がした。今は午後の7時だ。私は迷惑を顔に出して、ベランダに出て外を覗いた。
すると、何と、ほんのり薄暗くなった7月の空の下、道路で雨水管工事をしていた。確か工事は午前9時から午後5時のはずだ。
2階の私と工事現場にいる作業員とが、目が合ったように思えた。作業員は目の辺りが真っ暗で見えない。正確にはそれ以外は薄暗いが見えるのに、目の辺りだけが、まるで日陰になっているみたいに、全く見えなかった。
目の合った作業員がツルハシを持って、アパートの玄関に向かって走りだす。
私は言い知れぬ恐怖を覚えた。
「安浦! 俺の傍に来い!」
安浦は不思議そうな顔をしているが、従順に私の傍にやってきた。
遠くのスチール製の階段を猛スピードで走る音が、ドアの開いたこの部屋に響く。
私は意を決して傍に来た安浦を押しのけ、ドアへと走る。
私は向こう側へと、開け放たれたドアを閉めようとした。目の辺りが黒い作業員が目の前に迫っていた。
ツルハシが私がドアを閉めようとした手に振り下ろされる。
それは、少し抉るように掠った様だが、皮が剥けて出血し、信じられない激痛が手から脳に走った。
私はドアを閉められず、片方の手で傘置きから傘を持ち出し応戦する。
安浦は悲鳴を上げる。
高校の時に塙先生から嫌々勧められた剣道が、こんな時に必死に思い出された。
私は剣道のように集中して血が滴る手で傘を真っ直ぐに持った。ドア付近で正中線を傘で構えて……相手がツルハシを振り上げる。
部屋の奥には震えている安浦がいる。
私は咄嗟に相手の喉笛に突きを放った。
グサッという音が耳に入る。
その傘は399円で買える先端が針のように尖っているタイプだった。相手は喉を押さえて倒れ込んだ。血が喉の辺りに映画の様にドバッと出た。
「ご主人様!」
安浦は信じられない。と、いった顔で倒れた作業員のところに行った。