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出水視点あの男と別れて、ナマエが一人になった。
(……あれ?)
「バイト行ってくるね」と笑って手を振ったあの男に、ナマエは『うん、またね』と返していた。
(そういえば……兄貴か? 彼氏じゃない?)
ちょっとホッとしたけど、だからって油断はできない。
このまま気付かれないように……なんて考えてたら――
『――出水先輩、そこで何してんの?』
ピシィッ!
木の影に隠れてた出水の背中が固まる。
じりじりと影から出て、振り返ると、ナマエが腕を組んでにやにやしていた。
「な、なんでバレた?」
『いや、なんでバレないと思った?』
ナマエの指が、彼のサングラスと帽子をぴらっと引っ張った。
『てかその格好、マジで逆に怪しいし。尾行する気ゼロでしょ、笑』
「尾行じゃねーし。ちょっと、偶然通りかかって……」
『先輩の家、あっちだよね?』
「……偶然通りかかって!!」
『無理あるってそれは、笑』
ナマエ視点
それでも、ちょっとだけ嬉しかった。
見られてたってことは、それだけ気にしてくれてたってことで――
『さっきの人、前言ってたお兄ちゃんだよ。実の』
「……あ、やややっぱり!?」
『うん。“彼氏じゃないのか”って思ったでしょ?』
「……ちょっと思った」
ポツリと出た本音に、ナマエの胸がどきっとした。
『そっか……なんだ、嫉妬?』
「ちが……くない、かも」
素直に答える彼の言葉が、妙に胸に残る。
でもすぐにふざけた調子に戻る彼。
「てか、ナマエの兄貴イケメンだったなー。俺よりちょっとだけ」
『ちょっとだけ、じゃないと思うよ?』
「いや、そこは“出水先輩のがかっこいいよ”って言っとけよー」
『ふふ、じゃあまた今度気が向いたら言ってあげる』
そんなやりとりが、心地よかった。
少しだけ素直になれたような気がして――
でも、まだ「好き」の二文字は、胸の奥にしまったまま。