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死んだ目しとるから柔太朗に言われるがままとりあえず持って帰ったけど…。これ、どないしよ。
「あー…っと、とりあえずお茶でも飲む?」
「…ん。ごめん。ありがとう、太智。」
しおらしい吉田さんとかほんまサブイボ立つねんけど!なんなんほんま。きっっっっしょくわるいわ…。
はよ話聞いてはよシバいてはよ帰らそ!
とはいえ大切なメンバーで、まあ?なんやかんや同期でもあるし?一応ほんまに悩んどるみたいやし。しゃーないからちょっとええお茶入れたろ思て、そういやママから送られてきたなんやええ匂いする良さげなんあったな。と思い出して、これ送られてきたん去年?下手したら一昨年かもしらんけど賞味期限いけるか?まあ吉田さん腹は強そうやしいけるか。知らんけど。しばらく使てへんけど…あ、あったあった。久しぶりに淹れるから上手くできるかな。まあ多少渋なってもええか。飲むん仁人やし。
まあでも一応お客さんやし。話聞くにも手持ち無沙汰なんもあれやし。一緒に送られてきたクッキー出したろ。なんやかんや俺も優しいやつやからな。ちゃんともてなしたるか。
「紅茶淹れたったから。これ飲んでとりあえず落ち着き。ほんでママから送られてきたクッキー、ひとりじゃよう食べへんから消費するん付きおうてな。」
「ん。ありがとう。いただきます。」
両手を合わせて頭を下げる旋毛を眺めて、こいつこういうところしっかりしてんねんな。なんて思考を飛ばす。
はーーーー。ほんまに興味ないねんけどさすがに連れて来てもうたからには聞かな帰らされんし、明日の柔太朗怖いし。
ティーカップに口をつけると檸檬の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。ひとくち口に含むと本来の風味ではない苦味が広がった。ミスったな。やっぱ腕落ちてるわ。
「…で?吉田さんは何に悩んでるん?」
「別に、悩んでるとかじゃないんだけど…。あ、いや。そうよな。普通に空気悪かったよな。ごめん。」
「いやまあ空気は最悪よ、そりゃ。2人してなんやアホみたいに地面ばっかり見て。アリンコでも並んどるんかと思たわ。」
座らせた3人がけのソファの上で普段から丸まっている背中がどんどん内巻きに沈んでいく。
「あー、いや。ちがう。そうやなくて…いや空気はほんまに最悪やからなんとかしたろ思て連れて帰ったわけなんやけど…。じゃなくて…あー…」
あかん。人の相談乗るんてこんな難しいことやっけ?
やばい。吉田さんの背中がこれ以上丸まらんくらい落ちてしもてる。やっぱ俺には無理やて柔太朗!逆の方がまだ良かってんけど!なんで俺が2人っきりで仁人の相談乗らなあかんねん!十数年一緒におるけどふたりで遊んだんも一回しかないねんで!気まずいねん普通に!いや別に嫌いとかではないけど普通に好きは好きなんやけどちゃうやんなんか!ほんで俺もうわかってんねん今何で勇斗と仁人がおかしな空気になってるか!俺知ってんねん!見てたもん!一部始終しっかりがっつり見てたもん!会社の廊下で話す内容とちゃうやろ!思たもん!
あかんあかん!ほぼ兄弟みたいなやつの恋バナ聞くん気まずいわ!!!
「ぶはっ!…ッ太智、お前全部声に出てる。」
「はッ!?え、俺今しゃべっとった…?」
「うん。ガッツリ。マジでお前、俺に独り言デカいとか今後言えねぇよ?」
「なんやねん!じゃあ勢いで言わせてもらうけどなぁ!!ええからお前らはよ付き合えや!!!!」
ダァン!と勢いのまま握り締めた拳をテーブルに叩きつける。衝撃でこぼれた紅茶を見て正気に返ると大きな音に驚いて両手で口元を隠したまま固まる仁人を差し置いて布巾を取りにキッチンへ向かう。
「何をぐだぐだぐだぐだしてんねん。はよ付き合うたらええねん。好きです。僕もです。ほなよろしくお願いします。はい解決!ええやんそれで!何があかんねんな!」
「え、いやまず俺、別に勇斗の事そういう意味で好きじゃないから…」
「はぁ!?なに言うてんねん!あんだけ好き好きラブちゅっちゅっ♡はーとんだーいすちっ♡♡って顔しといてそれは嘘過ぎるやろ!」
「はぁ!?そんな顔してねぇし!お前目ぇ終わってんだろ!男同士だぜ!?普通にねぇだろ!!」
「あーお前そういうの言っちゃうんだ?この時代にそういう思想してんだ?あーあーこれだからおいちゃんは。ついてけてないな時代に。」
「いや、ちが…っ、!お前それはズル…ッ!今のはそういうあれじゃ…いやあの他所様はアレだけど…そういうのって俺らには適応されないじゃん?って話で…」
「へー。そうやって勇斗の気持ちも否定したんや?」
口元で狼狽える両手がピタリと止まって顔とともに緩やかに沈んでいく。あー。なるほど、そっちか。
「……否定、したかった訳じゃない。最初はただ…本当に、ただびっくりして…。」
潤んだ瞳が揺れる。ぱっちりとした特徴的なタレ目が段々と下がっていく。言い合いで上がっていた息を一度大きく吸い込んでゆっくりと吐き出すと、覚悟を決めたように膝の間で手を組むとぽつりぽつりと話し始めた。
「嬉し、かったんだよ。俺だってさ、本当は勇斗の事好きだよ。でももしこれで付き合ってさ、なんか違ったとかやっぱり女の子がいいとか思われたら俺、立ち直れないよ…。付き合うって言っても俺らじゃ普通の男女みたいに表立って手を繋いで歩いたり、お互いに何かあった時に1番に知らされるような法的に認められた関係にはなれない。きっとそんなので悩んで、疲れちゃって、絶対にいつか別れる事になる。それが……怖い…。」
長過ぎて後半ほぼ聞いてへんけどつまりは、
「相変わらずのビビりやな、仁人。捨てられるんが怖くて?嫌われるんが怖くて?こいつと付き合うんもう嫌や〜!言われるんが怖いって事やんな?ダッサー!!」
項垂れた後頭部に向かって指を指してやる。なんや。ほんまにただのビビりなだけやん。
「んなこと自分でも分かってるよ!!…でも、怖いもんは怖い…。好きだから、勇斗だけは失いたくない…。」
勢いが良かったのは最初だけで、ついに頭を抱えて丸まってしまった仁人の興奮で赤くなった項を眺める。
「そんなんなんもしやんかったら勇斗とちゅーもエロい事もしやんと失うだけやで。」
「そッ…んな、あけすけな…」
指の隙間からちらりと睨んでくる仁人に、ふとメンバーの言葉を思い出す。
「やらずに後悔するよりやって後悔する方がええやろ?知らんけど、勇斗が言うてたで。」
「ダメやったらそん時や。らしいっちゃらしいけどらしくないなぁ、吉田さん。案外自信家で楽観的なところがあんたのええとこやろ。なんも考えんととりあえずで付き合うてみたらええやん。後のことは問題起きた時に考えればええ。俺らそうやってきたやろ?ほんで上手くいっとる。これじゃ説得力ないか?」
「お前…ずるいだろ、それは…。何よりも説得力あるだろそんなの。」
M!LKとして、最初は習い事感覚で活動してきてライブもイベントも思った以上に人なんか来んくて。酷い時はほぼ俺の親族しかおらんような時もあったな。メンバーが脱退したりステージ裏でマイク無くなったりコロナでライブ自体できやんくなる事もあった。YouTubeだって思ったより伸びなくて、TikTokで毎日投稿するぞ!なんて意気込んでた割にはこっちも低空飛行。横ばいやったな。あとステージでキメな!ってとこで滑ってコケるような人もおったな。
問題が起こる度にみんなでどうしようか会議開いて話し合って乗り越えてきた。5人でできたんやからふたりでもできるやろ。一緒に苦しい10年走ってきた仲間やで。今更過ぎる事で何悩んでんねん。
「そういえばお前、勇斗に好きや言われた時ありえんくらい目ぇバッシャバッシャ泳いどったな。」
「…お前そこまでしっかり見てたんなら助けろよ。」
「人の告白シーンに首突っ込むほどアホやないねん。」
テーブルに飛び散る乾きかけた檸檬色をさっと拭き取りソーサーの上で未だ波打つ紅茶を布巾に吸わせるとさっき来た道を戻る。
シミできてしもたしもう捨てるか。
布巾をゴミ箱に捨てて手を洗うとしっかりと水気をタオルで拭き取る。ついでにキッチンに置き去りにされていたスマホを手に取り2つに折れ曲がってしまった相棒の隣にどかりと座る。
「ええやん。お似合いやと思うで。」
「投げやりだな。飽きてんだろ。」
「飽きたのはそやけど。…ほんまにそう思ってんで。」
「太智…」
今にもこぼれ落ちそうな大きな瞳が見上げてくる。これは佐野さんが堕ちるのも分かるわ。ま、今更俺はなんの気持ちも湧かんねんけど。この人ほんまめんどくさいし構ってちゃんやし笑い声爆発音やし足開きすぎやしラジオパーソナリティやし、ほんっっっまにめんどくさいやつやけど。
それでも。俺の大事な相棒や。ほんま頼むで、勇斗。
さて、ビビりの相棒のために最後、もう一押ししてやりますか。
「十数年2人を見てきた俺が言うてんねん。間違いなく勇斗と仁人はお似合いの2人や。絶対に上手くいく。」
真っ直ぐに見据えた瞳から堪えきれなかった涙が一粒こぼれ落ちる。
「あとはお前が答えたるだけや、仁人。」
「…ッ!ありがとう太智!俺、勇斗のところ行ってくる!!」
忘れとった。勢いよく立ち上がった仁人に、これだけは言っておかんと。
「おん。はよ行ってき。てかはよ帰ってほんま。俺あんま自分家に人呼びたないねん。まじでもう来んとってな。」
「おッッッ前!!!今めっちゃ良い雰囲気だっただろ!!アツい友情が台無しだよ!!」
「お似合いとは言うたけどな、ほんまにごめんやけどメンバーの恋愛事情とか興味無いねん。」
「今までの励ましなんだったんだよ!?え、怖いよお前!!どんな気持ちで「絶対に上手くいく。」とか言ってたんだよ!!サイコパスかよ!!」
恥ずいねん。俺ら兄弟みたいなもんやろ。真面目な話もするけどそれは仕事に関する事ばっかりで、恋愛話なんて今までそんなんしやんかったやん。ちょけてしもたん、むず痒かったけど我慢して聞いたってんから許してや。
あー、青春やなー。この人らの話しやったらほんまに興味ないけど。
どうでもええねん、2人が幸せなら。
コメント
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こりゃとんでもない神作品と神作者様に出会ってしまった…素晴らしい…最高…フォロー失礼します…🙇✨
結局は興味ない太ちゃん可愛すぎるのでうちで保護していいですか
