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「何を仰りたいのですか?」
ここで彼が「弱音を言っていい」と許可し、慰めてくれたら、弱くなってしまう気がする。
こんな私に求婚してくれたアルフォンス様に、必死に隠してきた弱さを見せ、縋ってしまったら、もう〝一人で頑張っていたフェリ〟には戻れないと直感で分かった。
(……そんなの、怖くてできない)
私は己の分をわきまえ、聖女より一歩退いた場所にいて「それでいい」と思われている。
出来損ないの〝ハズレ姫〟が自分の権利を主張し、「幸せになりたい」なんて言えば、「何を図々しい事を言っているんだ」と白い目で見られるに決まっている。
逡巡している私を見て、アルフォンス様はすべてを見透かした目で微笑みかけてきた。
「幸せになるのが怖いか?」
確信を突かれ、私はハッと息を呑む。
「君は誰かの代わりじゃないし、一人の人間として幸福を求める権利がある。レティシアに遠慮する必要も、周囲の者の顔色を窺う事もない」
彼は青い目を細めて笑い、ポケットから大粒のダイヤモンドがついた指輪を出すと、私の手をとった。
「もう一度プロポーズさせてもらう。俺の妻になってほしい」
その言葉を聞いた瞬間、ドキンッと胸が鳴り、トクントクンと鼓動が速まっていく。
「……周りの人が許しません。聖女が皇帝陛下の妻になるならともかく……」
自分は〝じゃないほう〟の出来損ないなのだという呪いが、こんな時まで私を縛る。
アルフォンス様だって意を決して求婚してくださっているのに、どうしてすんなり答える事ができないんだろう。
今までずっと、事あるごとに感じていた。
――お前は出来損ないだ。
――お前は聖女様より劣っている存在で、お情けで王宮においてもらい、王族扱いされている。それを忘れるな。
――何を図々しく、聖女様の隣で同じように笑っている? 一歩退いて控えめに微笑むべきじゃないのか?
――聖女様と同じ顔をしているのも図々しい。
――まるで出来損ないの劣化品みたい。
そんな陰口を聞いたし、貴族たちがそういう目で見ているのも分かっていた。
出来損ないなりに楽しく生きようと試みたけれど、結局は見かけ倒しの空元気だ。
彼が私を求めてくれるのは嬉しい。
でも、本当にいいんだろうか?
あとになってから「やっぱり聖女と結婚すれば良かった」と思われたら、私は……。
「いまは俺が君に求婚しているんだ。なぜレティシアが出てくる?」
アルフォンス様は私の迷いを絶つように、強い目で見つめてくる。
瞳孔が際立つ薄青の目は、まるで心の底まで見透かすようだ。
「フェリ、『幸せになりたい』と言うんだ」
「う……っ」
目の奥が熱くなり、眦からポロッと涙が零れた。
――この方は、どうしていつもまっすぐ私の心にぶつかってくるんだろう。
――私は誰もが避け、価値なんてないと見捨てる〝ハズレ姫〟なのに、どうして。
「……幸せに、……なっていいんですか……?」
私は頬に涙を伝わせ、縋るようにアルフォンス様に問いかける。
「君は自身の幸せを他者に左右されても構わないのか? 一生虐げられ、不名誉な呼び名をされ、日陰者として扱われても『これでいいんです』と笑えるのか? それが君の望む人生か?」
容赦のない言葉が私の胸にザクザクと突き刺さる。
けれど彼が心から私を想っての言葉だと分かっている。
「…………っ、いや、……です……っ」
私は涙を流し、首を左右に振る。
「なら俺の手を取れ。俺を選ぶんだ。そして『幸せになりたい』と強く願え」
強く言われ、私は震える手でアルフォンス様の手に己のそれを重ねた。
「~~~~っ、幸せに……っ、なり、――――たい……っ」
その声は涙でグシャグシャになっていたけれど、私は生まれて初めて、心からの願いを口にできた。
「――――幸せに…………っ、なりたい……っ!」
私はもう一度同じ言葉を繰り返し、嗚咽しながら彼の手を額に押し当てて打ち震える。
「……っく、……ひっく……っ」
私は嗚咽しながら、長い間こうして泣いていなかった事を思いだした。
どんなにつらい目に遭っても、『大丈夫』『傷付いていない』と自分に言い聞かせ、平気なふりをしてきた。
それが癖になり、『泣くのは傷付いた証拠』と思って泣く事を封じてしまったのだ。
アルフォンス様は私を抱き締めると私を膝の上にのせ、優しく背中をさすって慰めてくれた。
「つらかったな」
たった一言が、何よりも強く胸の奥に響く。
「うぅ……っ、う……っ、うぅーっ」
滂沱の涙を流した私は、アルフォンス様に縋り付いてしゃくりあげる。
「沢山泣くといい。今まで『つらい、苦しい』と口に出せなかった分、俺の前では本音をぶちまけていいんだ」
彼の優しい声が耳朶を打ち、傷付いた心を慈雨のように癒していく。
逞しい体に抱きついた私は、声を上げ、まるで幼子のように全身で泣いた。
まるでそれは、新しい生き方をすると決意し、生まれ変わった合図のようだった。