あおいは、音楽の先生になるのが夢だった。
3歳からピアノをはじめ、歌唱やバイオリンやトロンボーンまで演奏できる。また、どの楽器でも賞をとるほどの才能で天才と言われた。
母が音楽の高校の先生。父が数学の高校の先生だった。母は、愛媛でも有名なピアノの先生だった。
厳しい理論的思考の父と、厳しく優しい母のことはどちらも大好きだった。
あおい小さな頃から美しく、モデルなどのスカウトにあうことも多かった。
中学に入って吹奏楽部に入ったあおいは、おなじトロンボーン奏者のよう子と健太郎と仲良くなった。
いつも3人でいたし、いつも3人で笑い合っていた。あるとき、あおいは健太郎から告白された。
3人の仲が壊れてしまうのではないかと、こっそり断った。
またある時、芸能界にスカウトされた。でも、音楽の先生になりたいからと断った。
あおいは、無難な無難な人生を歩みたかった。今のまま何も変わらない無難な人生を。
そして時は経ち、
27歳になったあおいは、夢を達成し、音楽の先生になり父と母と同じように、高校教師として務めた。
よう子と健太郎は元気にしているかな??
高校から連絡をとっていなかったけど、よう子はトロンボーン奏者として認められてオーストラリアへわたったと聞いた。健太郎は、あれからなかなか話すことが難しくて距離をおいていが、東京に住んでいるらしい。
Facebookを開けた。
そこで、驚くべきものが目に飛び込んできた。
よう子と健太郎が結婚していたのである。
しかも、健太郎はよう子を追いかけてオーストラリアへ渡っていた。
その後、二人で東京に戻ってきて音楽家として活動しているそうだ。
子供が、二人。よう子と健太郎にそっくりだ。
わたしは?わたしは、健太郎が嫌いだったのだろうか。いや、よう子と健太郎と自分の3人の仲を壊したくなくて身をひいたのに。
どうして私だけひとりぼっちなのだろう。
隣の部屋でピアノを弾いていた母があおいに話しかけた。
「そういえば、トロンボーン一緒に吹いとったあおいちゃん、こないど音楽家としてテレビでとったよ!うだつの上がらんあんたと違ったようやっとるわな。結婚もして子供もあるとか!あんたと大違いやな。」
かっと頭に血が昇るのがわかった。
無難でいい。無難が幸せ。
挑戦することや幸せになることから逃げた自分にも怒りが止まらなかった。
あおいは、母をにらみつけるとドタドタと走って部屋を出た。私には、何もない。
周りからチヤホヤされ、才能も優秀だといわれきたけど普通の努力しかしてこなかった。
どこで間違えた?
いや、間違えたわけではない。
でも、よう子と決定的に違うのは、素直でなかったということ。
傷つくのが怖かったと言うこと。逃げていたということだ。
よう子は、学生の頃何回も健太郎に告白してふられていたと言っていた。
諦めなかったのだなとよう子の行動を思い出した。