テラーノベル
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常連さんが顔を出し始め、新規さんもちらほらと来店してきて
カウンター席、テーブル席もだいぶ埋まってきた。基本的に新人である夏芽にオーダーを取ってもらい
それを名論永(めろな)が見守り、ヘルプが必要そうだったら助けに行くという流れだった。
店長である神羽(じんう)はカウンター席のお客さんと話したり
オーダーを取ったり、ビールを入れたり、お酒を作ったりしていた。
「んじゃ。そろそろ私は」
とビールを飲んだ後に鳥希(とき)が言う。
「え。もう帰るん?」
「うん。混んできたし、そろそろお父さん来そうだし」
「そっかー。あ、じゃあ」
ちょうどオーダーを取ってカウンターに帰ってきてキッチンに注文を伝え終えた夏芽を捕まえて
「金城崩(かなしろほう)さん、ビール飲める?」
と聞く神羽。
「あ、はい。一応飲めます」
「別のお酒がいい?あ、でもビール飲めるならビールでいい?」
「?」という顔でゆっくり頷く夏芽。
「鳥希ちゃん。オレの奢りでビールもう1杯飲まない?」
「ん?いいの?奢りなら全然ありがたく飲ませてもらうけど」
神羽はお冷を出すときの小さめのコップにビールを5杯注いで
鳥希に出し、夏芽に渡し、名論永に渡し、キッチンの雪姫(ゆき)もカウンターに呼び
「じゃ、金城崩さん、ようこそ天神鳥の羽へ。ということで」
と神羽が言う。
「なるほどね。それで奢り」
「しょうゆーこと」
「私ビール苦手なんだけど」
と小さなコップに注がれた泡の比率が綺麗なビールを眺めながら雪姫が言う。
「そんくらい飲めよ」
「うわ。アルハラだ」
「良くないよーアルハラは。あ、雪姫ちゃん。ひさしぶり」
「あ、鳥希さん。おひさしぶりです」
「んじゃ、とりあえず。乾杯!」
「「「「かんぱーい」」」」
全員でビールを飲む。
「うまっ」
「苦っ」
「雪姫ちゃん、よかったら飲んであげるよ」
「ありがとうございます。助かります」
と雪姫はビールを鳥希に渡して暖簾を潜ってキッチンへ帰っていった。
「金城崩さんはお酒好き?」
「んん〜。どうなんでしょう?まだそんな飲んでないですから」
「お酒は強い?…ってそうか。わからんか」
「そうですねー。あ、でも成人して実家に帰って
はたちの集いの後に親戚とか集まって飲んだんですけど、割とすぐ酔っ払った気がします」
「ま、お酒飲み始めてすぐだもんね」
「でも沖縄ってお酒強いイメージだけど」
鳥希が1つのコップのビールを飲み終え、神羽にコップを渡す。
「あぁ〜。ハブ酒ね」
と言いながら受け取る。
「そうそう」
「あとは泡盛が有名ですね」
「あぁ!泡盛!あれ?泡盛って青森じゃなかったっけ?」
「青森はー…田酒とか八仙とか青森じゃなかったっけな」
「おぉ。さすが居酒屋店主」
と鳥希に言われてわざとらしく鼻の下を人差し指でサスサスする神羽。
「泡盛はお祝いの席で出ましたよ」
「お。飲んだ?」
「飲みました飲みました」
「どうだった?」
「…強いですね」
「アルコールが?」
頷く夏芽。
「何度だっけ?」
神羽がスマホを取り出す。
「ま、話の区切りがいいということで私はここで帰りますわ」
と鳥希がもう1つのコップを神羽に差し出す。
「おぉ。おっけ?」
スマホを後ろポケットにしまいコップを受け取る。お会計を済ませて鳥希が立ち上がる。
「こっからでごめんよー」
カウンターから手を振る神羽。
「いいよいいよ。また来るぅ〜」
「うい。待ってるぅ〜」
「夏芽ちゃんも頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
「めろさんもまた」
「はい。ありがとうございました」
「あ、雪姫ちゃんにもよろしく言っといて」
と言うと聞こえていたのか、キッチンの暖簾から顔をひょこっと出し
「鳥希さん、また」
と言った。
「おぉビックリしたぁ〜」
と驚く神羽。
「じゃ、またねぇ〜」
鳥希が出ていく。しばらく名論永が夏芽を見守る。しかしやはり初バイトでホール。テンパることもある。
テンパるのも仕方ない。そういうときは名論永が側にいってサポートする。しばらくすると
「いらっしゃいま…お!奥樽家(オタルゲ)さん!」
鳥希の父が来店した。
「おぉ!ほんとにいる。夏芽ちゃん」
夏芽に手を振る奥樽家父。
「あ、奥樽家さん」
ペコッっと頭を下げる夏芽。カウンター席に座る奥樽家父。
「とりあえず生ビールと枝豆お願い」
「うっす。じゃあせっかくだから金城崩さんに注いでもらいます?」
「お。いいね」
「じゃあ」
神羽がやり方を教えて夏芽が注ぐ。
ビールの泡の割合は泡が3、液体が7という3:7という割合いが黄金比といわれているが
夏芽が注いだビールは泡が4、液体が6という割合だった。
「まあまあまあまあ。初めてにしては」
「生ビールです」
夏芽が奥樽家父に渡す。
「ありがとうー。あ、夏芽ちゃんもよかったらどお?乾杯でも」
「2、30分前くらいに娘さん来ましたよ」
「嘘!?どっち?」
「あぁそっか。鳥希さんです」
「あぁ鳥希か。まあそっか」
「鳥希さんと店のみんなで乾杯しました」
「えぇ〜。あいつなんも言ってなかったな。じゃああれか。これ以上飲んだら業務に支障きたしちゃうか」
「んん〜」
夏芽を見る神羽。
「まだ全然大丈夫です」
「じゃあ。奥樽家さんの奢りということで」
「うん。好きなの飲んで?」
「どうする?レモンサワーにでもしとく?」
「じゃあそうします」
ということで神羽がレモンサワーを作り夏芽に渡す。
「じゃ、おめでとう?ということで」
「ありがとうございます」
「乾杯」
「乾杯です」
と2人で乾杯をして飲んでいた。
「そうか。鳥希来てたのか」
「来てましたねぇ〜」
「どっち?って聞いたけど、上のほうはこーゆーとこ来るとか聞いたことないからな」
「我が母校の先生のほうですよね」
「そうそう。あれ?年齢的にはー」
「被ってないです被ってないです。もしかしたら教育実習で来てたかもしれないですけど」
「あぁ〜。教育実習か。あいつどこ行ったって言ってたたっけな。それより夏芽ちゃん、大丈夫?」
と夏芽に声をかける奥樽家父。
「はい。全然酔っ払ってる感じはしないです」
「あぁ。ま、そっか。それならよかったけど、そっちじゃなくて業務的な話」
「あぁ。うぅ〜ん。まだ注文とかパニクりますね」
「まあそうだよね。ゆっくり慣れたらいいよ。常連さん多いから大丈夫よ。ね?」
神羽に同意を求める奥樽家父。
「ま、そっすね。最初なんてパニクりますよね。オレもそうでしたもん」
「あ、そうなんだ?」
「そっすよ?初バイトの15のときはマジでなんもできなかったすよ」
「え。店長さん、15歳で初バイトなんですか!?」
驚きを隠せない夏芽。
「あ、そんな早かったっけ?」
奥樽家父も驚く。
「そうなんすよ」
奥樽家父に言うのか夏芽に言うのか悩んで2人を交互に見ながら言う神羽。
「高1ですぐバイト始めたんで。親父の通いの店で」
「ほお」
「へぇ」
「へぇ〜」
名論永も初耳で思わず声を漏らす。
「父親の通いの店だったんで、採用はすんなりいって
しかも父親来るときは夜中までバイトしてもオッケーだったんでよかったんですけど
初日のオーダー取りとかキッチンにオーダー伝えたりとかレジとか
覚えること、やること多すぎてマジで1日でやめようかと思ったレベルでしたよ」
「ま、居酒屋さんはねぇ〜。忙しいよね」
「先生も忙しいでしょ」
「まあまあまあ…」
と半笑いで言いながらビールを飲む奥樽家父。
「ま、業務に慣れて遅くまでバイトできても、最終的にほぼ親父の飲み代に消えましたけどね」
「あらら」
「ありり」
「飲んで食べて「あ、神(じん)から取っといて」ですからね。
だからいまだに自分の店持ったこと言ってないっすもん」
「あ、そうなの?」
「そりゃそーじゃないっすか?」
カウンターに肘をつく神羽。
「息子の店っすよ?無料(タダ)酒飲みに来るに決まってるじゃないっすか」
「あぁ、たしかに」
「まあ、そうかもですね」
奥樽家父も夏芽も頷く。
「おぉ、わかってくれるか金城崩さん」
「ま、私の父もお酒好きなんで。というか両親共に酒飲みですね」
「おぉ〜!沖縄っぽい」
「沖縄への偏見でしょ」
と笑う奥樽家父。そんなこんなで時間が過ぎていき
いつも通り、終電近くになったらお客さんが減って落ち着いてきた。
そしていつも通り落ち着いたところで
「梨入須(ないず)ー。なにがいー?」
とキッチンの暖簾から顔を入れ、雪姫に聞く神羽。
「梅酒サワー」
「へい、姫」
神羽が梅酒サワーを作りながら
「めろさん。金城崩さんの作ってあげてください」
と名論永に言う。
「了解っす」
名論永はドキドキしながら夏芽のほうを向き
「なにに、します?」
とドキドキしながら話しかける。
「あ、じゃあレモンサワーをお願いしてもいいですか?」
「わかりました」
とレモンサワーを作り始める。
「あ、えっと…めろさん?」
「あ、はい」
「すいません。苗字忘れちゃって」
「あ、全然めろさんでいいですよ。ま、どうしても苗字呼びしたいっていうならあれですけど」
「あ、いえいえ」
「バイト初日でバタバタしてましたからね。苗字なんて覚えられないですよね」
「すいません」
「あ、いえいえ!そんなつもりじゃなくて」
若干気まずい空気が流れる。神羽はキッチンの暖簾を潜って頭を入れ
「梨入須ー。できたぞー」
と手招きする。
「えーまた乾杯?」
「?いつもしてんだろ。あと今日は金城崩さんもいるし、初日だから記念の乾杯だよ」
「さっきやったのでいいじゃないっすか」
「その人見知り直さないと他所でやってけないぞ?」
「…。ずっとここにいるからいいし」
と呟く。神羽には聞こえてない。
「ん?なんか言った?」
「乾杯ですね」
「そ」
レモンサワーを作り終え、グラスの外についた水滴、汗と呼ばれるものを拭いてから
「どうぞ」
と夏芽に差し出す名論永。
「あ、ありがとうございます」
受け取る。雪姫がカウンターに来て、神羽が自分の分と名論永の分のビールを注いで
「じゃ、改めまして。初耳バイト記念かつ、我ら居酒屋の仲間となったことを祝しまして」
と音頭をとってから
「乾杯!」
「「「かんぱーい」」」
と乾杯した。夏芽は小声で
「すいません。ありがとうございます。お世話になります」
と言いながら改めて全員のグラスにコキン、カキンとグラスをあてた。
「めろさん…は、長いんですか?」
「ここですか?まあ…」
と言って神羽を見る名論永。
「そっすねぇ〜。ま、うちでは一番ですね。あ、オレの次にですけど」
と笑う神羽。
「めろさん…は、ずっとここで?」
「あ、いや。元々は会社員をしてまして」
「あ、そうなんですね」
「そうなんです。大学卒業して…1年くらいかな?新卒で就職したんですけど
仕事ができなくてできなくて。…。で、たぶん1年くらいで会社辞めて。
で、しばらくは少ない貯金で食い繋いでたんですけど
さすがに底が見えてきて、で店長に拾っていただいた。って感じです」
「はい。拾いましたー」
と手を挙げながら笑う神羽。
「そうなんですね」
と話して閉店まで仕事をした。
「さてさて閉めますよーと」
本来の閉店時間で看板のライトと提灯の明かりは消していたが
閉店時間を少し過ぎても寝ているお客さんやまだお酒が残っているお客さんがいたので
そのお客さんが帰ってから閉め作業をする。暖簾を店の中にしまい、更衣室というか控え室でエプロンを取る。
「あの、エプロンって」
「あぁ。エプロンは各自、最低週1は洗濯してねぇ〜って感じで。
毎日洗濯してもらってもいいですし、週1でもいいですし。って感じです」
「あ。わかりました」
雪姫、夏芽、名論永、神羽の順番で店を出て神羽が鍵を閉める。
「よし。じゃ、ということで初日お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
頭を下げる夏芽。
「いえいえ。こちらこそ」
「すいません。いろいろ迷惑をおかけしてしまって」
夏芽が神羽、名論永、雪姫、それぞれに頭を下げる。
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
「…」
「全然大丈夫です。次もー来てくれます?」
と神羽が聞く。
「はい。ご迷惑でなければぜひ来させていただきたいです」
「おぉ〜。じゃあ、次はー…月曜日かな?」
「はい」
「ちょっと時間空いちゃいますけど、月曜日もよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。お2人もよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「…」
「じゃ、めろさん、金城崩さん。また」
と神羽が手を振る。その横で雪姫はペコッっと軽く頭を下げる。夏芽は
「あ、はい」
と言って頭を下げ
「はい。また明日」
と名論永は手を振る。
「金城崩さんこっち?」
「あ、はい」
ということで名論永は夏芽と帰ることに。
「めろさん…でいいんですか?」
「呼び方ですか?自分はなんでも。
みんなめろさんって呼んでくれてるから、もうめろさんで慣れちゃったかな」
「じゃあ私もめろさんでいいんですか?」
「はい。全然」
「…聞いてもいいですか?」
「ん?なんですか?」
「…めろさんは会社、合わなかったんですか?」
「あぁ。1年くらいで会社辞めたって話ですね」
と名論永は本来の名論永の帰路ではなく夏芽に合わせて話ながら歩く。
「はい」
「まあ…。合わなかったっていうか合わせられなかったかな。
中高大と周りに合わせながら過ごしてたはずだから、周りに合わせるのは得意なはずだったんだけどね」
という少し寂しげな表情で空を見る名論永。その横顔をなにも言わずに見る夏芽。
「単純に能力がなかったんだろうね。パソコンも遅いし、資料まとめるのも遅いし。
上司の方も先輩も同僚も「大丈夫大丈夫」って言ってくれてたけど
それがまたプレッシャーだったのかな?昔から深読みする悪い癖があって。
あぁ〜内心はグズだな〜とか使えないなぁ〜とか思ってんのかなって思ったら
段々朝起きるのが嫌になって…」
そこから細かく言おうとしたが、初めて会ったその日に暗い話というのもと思ったのでそこで止めて
「会社辞めて一回休憩しようと思って」
と言った。
「なるほどですね」
「うん」
「そのー…なんていうのかな?水色?よりは明るいー…空色?好きなんですか?」
という夏芽の質問に
空色って言ってくれた人初めてじゃん
とめちゃくちゃ嬉しかったが、そこではしゃぐと引かれるかもしれないと思ったので
「あ、うん。そ、そうなんですよね」
と嬉しさを少し溢しつつも堪えながら話す名論永。
「めちゃくちゃ綺麗ですね」
「ありがとう。…あ、そうか。こんな髪色にしてて人と合わせるの得意だったって、嘘つけって感じだよね?」
クスッっと笑った後はっっとして
「あ!いえいえ!」
と訂正する夏芽。
「そういえば中学生くらいから小説読み始めて、よく考えたら小説読んでるのオレくらいだったな。
その頃から実は周りに合わせるの苦手だったのか…?そっから小説家になるのが夢になったし。
…あぁ、そう考えると全然周りに合わせるの得意じゃなかったわ」
と笑う名論永。夏芽はその笑顔を見て、得意じゃなかったと言っている割に嬉しそうだなと思った。
「小説家になるのが夢なんですか?」
と夏芽に言われ
しまった。つい言ってしまった
と思った。
「あぁ…そうなんですよね…お恥ずかしい話ですが…」
「全然恥ずかしくない…んじゃないですかね?小説がお好きなんですか?」
「あぁうん。実はこの髪色にしたのも小説の影響なんだよね。これまたお恥ずかしい話ですけど…」
「なんていう小説ですか?」
「「人生君色パレット」っていう小説」
「あぁ!」
と言って背負っていたリュックを前に持ってきてジッパーを開けて
中からカバーに包まれた本を取り出す夏芽。そして最初のページを捲る。
「これ!」
そこには小説のタイトルが。
「人生君色パレット」
「おぉ!読んでるの?」
自分の小説でもないのに嬉しくなる名論永。
「いえ。バイトに来る前に買ったばっかりで」
「そうなんだ」
やっぱり嬉しい名論永。
「私もお恥ずかしい話、初バイトで緊張して早めに着いちゃって。
時間潰すために本屋さん入ったらこの本の主張が激しかったもので」
「主張激しい」
本屋さんの光景を思い出す。専用のブースに大きな広告
店員さんそれぞれのポップに著者のサイン入りのどデカい表紙のポスター。
「あぁ。まあたしかに」
「そっか。おもしろいんですね、これ」
「まあぁ〜。うん。笑えるおもしろさではないけど」
「読むの楽しみです」
と言って笑顔を向ける夏芽。
「お、おぉ。そっか」
「でも小説好きなら小説に携わるお仕事とかじゃなかったんですか?」
「あぁ〜…。周りに小説好きって話してなかったから、大学の先生にもなんも言われず。
両親はさすがに小説好きなこと知ってたけど特になにも触れられず。
なんも小説と関係ない仕事に就いたんだよね。…そっか。言われてみれば出版社とかに入ればよかったのか。
金城崩さんは好きなこととかないの?」
と聞く名論永。
「好きなこと…」
咄嗟に頭に“音楽”と出てきたが
「仕事に繋がる好きなこと…」
と「仕事」というものと繋げることができず言うことができず
「うぅ〜ん…」
と悩み続けた。
「ま、まだ若いし、ゆっくり探せばいいよ。
オレみたいに好きなことと関係ない仕事に就いて、しんどくなって…っていうのはね…。
ま、金城崩さんはオレみたいに不器用じゃないかもだけど」
と笑う名論永。
「いえいえ不器用です不器用です」
「そおなの?ま、でもまだ若い金城崩さんにはオレみたいに人生後悔して、辛い思いしないでほしいから」
夏芽から見た名論永の横顔は辛くも寂しそうにも、でも楽しそうにも嬉しそうにも見えた。
話ながら歩いていると夏芽の家の前についた。
「あ、私ここなので」
「あ、そうなんだ。じゃ、お疲れ様でした」
「あ」
ありがとうございます。送っていただいて
と言おうとしたが
いや、もし家に帰る道中だったら自意識過剰と思われる?
と考え
いやでも、もし送ってくださったのだとしたらお礼言わないと失礼だし
「お礼言わねぇんだ?へぇ〜」って思われるかもしれない。
いや、めろさんはそんなこと思うような人ではないと思うけど
といろんなことを考えて
「送っていただき、ありがとうございました!」
結局言った。自意識過剰と思われてもお礼言わないよりいいと考えたためである。
追い切り頭を下げた。立った状態での長座体前屈、立位体前屈というもののように。
「うおっ」
目を瞑って尚且つ目を開けてたとしても自分の脚が見える角度でのお辞儀。
そんな状態で聞いた名論永の「うおっ」っというリアクション。
あぁ。自意識過剰女だと思われた
と思った。
「金城崩さん頭上げて頭上げて」
と言われ、恐る恐る頭を上げ、目を開ける夏芽。
すると目の前で散らかった物をしゃがんで拾っている名論永がいた。
「さっきファスナー閉め忘れたんだね。ごめんね。オレが小説の話したばっかりに」
「へ?」
と自分のリュックを前に持ってきて確認する夏芽。
リュックの口がパァ〜と開いていた。すぐに事態に気づき顔が熱くなり
「わっさいびーたんわっさいびーたん」
と言いながらしゃがみペンケースやポーチなどを拾う。
「わっ?」
名論永は物を拾いながら「?」と思う。
「ちいうかっとぅしてい。うはじかさん」
「ん?」
名論永が小説を拾おうと手を伸ばす。夏芽も小説に手を伸ばす。手が触れた。
2人ともビクッっとして手を引く。夏芽が小説を拾う。テキトーにリュックに突っ込む。
「ありがとうございます。すいません」
「いえいえ。じゃ、ま、次は月曜日だっけ?」
「あ、はい」
「じゃ、また月曜日」
「はい。また、よろしくお願いします」
と頭を下げる。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
名論永は少し遠くなってしまったが家へと帰る。夏芽はすぐそこのアパートに帰る。
めっちゃ訛り出てたじゃん
と思わず笑顔になる名論永。夏芽は家に帰ってすぐソファーに倒れ込み
「あぁ〜自意識過剰いぃなぐやてぃんうむらったるぁ〜。
しかむしにドジししに迷惑かきたるぁ〜。無理ぃ〜。月曜ねーわしてぃてぃふさるぃ〜」
と独り言を言っていた。
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