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寿司野 海老真夜 様より、ナチソのリョナ














ふわ、と意識が浮上した。

いつもの鉄格子と、その向こうには高級そうな調度品。

どうやら、ナチスのやつはいないらしい。

ここに捕えられて何ヶ月目だろうか。

突然背後からぶん殴られて、気がつけば冷たいコンクリートの部屋に拘束されていた。

そしてそこにいたナチスに屈辱的ながら解放を求めたが、犯人は自分だと告発され、その後散々な目に遭うことになってしまう。

お前がムカつく、と言われてまずは殴り蹴られ、奴の吸った煙草を顔に押し当てられた。

今もその跡は残り、なんなら日に日に増えている。

ジュッと自分が焦げる音を初めて聞き、ソ連からは痛みによって絶叫と嗚咽が漏れた。

そしてその後、ナチスはソ連の足を切る。

ザクザクザクザク太ももの肉を切り開き、関節から切れば良いものを、無理に骨を切断された。

あまりの激痛に失禁して気絶したが、継続する激痛に叩き起こされるということを何度か繰り返しながら、ソ連は移動手段を奪われたのだ。

更に後日、利き手も切り落とされた。

心底楽しそうに笑い声を上げるナチスに恐怖して泣きながら檻に閉じ込められたことを思い出し、治っていた痛みが再発したような気がしてくる。

「…寝ないと、体力持たねえよ…」

ほぼ毎日殴られる腹は蒼くなっており、少し体を曲げるだけでも結構痛い。

壁にもたれかかるようにして、ソ連は寒さに震えながら無理やり眠ることにした。

こうでもしなければ、毎日行われる虐待には耐えきることなどできやしない。










ナチスが帰ると、ソ連は死んだように眠っていた。

ボロ雑巾にも近い服でクソ寒い部屋に閉じ込められているのに、よく眠れるものだ。

暖炉に火を灯してから、ソ連が自分の気配に気づいて起きるかどうか試してみた。

ここで起きたのなら、ソ連は大火傷を回避することができるだろう。

上等な椅子に座り、長い足を組んで読みかけの本を開く。

湯を温めるのも忘れずに。


さて、数分が経った。

ソ連は先ほどより気持ちよさそうに眠るだけで、特に起きる様子は見られない。

分厚い本に栞を挟み、ナチスは沸騰した湯を容赦なくソ連にかけた。

「ッぃあ゛あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

「おはよう、寝坊助」

「あ゛づッ!!ごめ゛んなさ”いッ!!ぃや゛ぁああああ”““!!! 」

沸騰した熱湯をかけられ、ソ連はのたうち回る。

ナチスは頭を目掛けて熱湯をかけてくるため、激痛と熱さでおかしくなりそうだ。

なくした手で必死に身を守ろうとするが、傷だらけの肌が爛れるだけだった。

「痛いか?熱いか?この私が帰宅したにも関わらず、堂々と眠る貴様が悪いのだぞ」

「ごぇん゛らさ゛ぃッ!お”ねがッ、もッ、あつ゛いのい゛やです゛ッッ!!」

「ふん。次はこんなことでは済まさんぞ」

「ひゅッ…は、はい…もうしわけ、ございませんでした…」

服に染み込んだ熱湯は熱を持ち続けていたが、ここで謝罪しなければどうなるかわかったものではない。

熱い熱いと小さく苦しみながら、爛れた皮膚を冷たい鉄格子に当てて冷やす。

先ほどまでは凍えるほど寒かったが、誰がこんなに熱くしろと言ったのだろうか。

再び本を読み始めたナチスを見て、ソ連はようやく一息つけた。

一度集中し始めたナチスは、終わったり邪魔をしたりしない限りは何もしてこない。

パチパチと暖炉から鳴る音と、ページを捲る音。

それ以外の音をこの場に出さない限り、一旦はソ連の無事が保証されているのだ。

それから数時間は、緊迫感と痛みがありながらも穏やかに過ぎていた。





パタン、と数冊目の本が閉じられた。

「ふぅ…おや、もうこんな時間か」

ソ連の体に、嫌な予感が走る。

「そろそろ散歩をしようか、ソ連」

「ひッ…」

散歩。

ここに来てからのソ連にとって、その意味は拷問だった。

重々しい鉄格子の扉が開き、黒い首輪にリードがつけられる。

「ぅ、ぐ…ッ」

短いまま伸ばされないリードはソ連の首を締め、無理矢理歩かされてしまう。

火傷して水ぶくれなどで敏感な手で床を押して進み、中途半端に切断されて骨が突き出た足で地を蹴らされる。

歩き方を少し間違えるだけで、常人には耐え難い激痛に襲われるが、立ち止まれば鞭で打たれて…

その状態で階段を下るように引っ張られ、帰りは上らされるのだ。



到着したのは、暗い地下室。

最初にソ連が目覚め、より酷い目に合わされる場所。

「今日はまたイタ王の奴が遅刻してな、少しイラついているんだ。いつもより長く付き合ってもらおうか」

最悪だ。

ソ連はこの状況を何も知らないイタ王を憎み、今からされることに恐怖して震える。

「最近思っていたんだが、お前の腕は邪魔だな」

「ッえ…」

「躾を防ごうとしたり、抵抗したり…うむ、やはり邪魔だな。切り落とすことから始めようか」

「そ、そんなッ…」

「なんだ?家畜未満の気晴らし道具が、この私に逆らうのか?」

ぐっとナチスの眉間に皺がより、ソ連は咄嗟に否定した。

「そ、そんなわけありませんッ、腕邪魔ですッ」

「そうだよな?腕は邪魔だよな?では、お願いしなくてはいけないよな?」

「お、お願い…」

「邪魔なものを私が善意で切ってやると言っているのだから、懇切丁寧に頼む必要があるだろう?違うか」

圧を込められた否定を許さぬ一言を恐れ、ソ連はついに言いたくもない言葉を紡いだ。

「ッッ…お、俺の……俺の、邪魔な、この腕を、き、切り落として、ください…ご主人様…ッ」

「…まあ、及第点だな。いいだろう、ならばこちらへ来い」

青白くなった顔で涙ぐみながら、ソ連は心の中で腕と最後の挨拶をしてみる。

切り傷、擦り傷、打撲、火傷、脱臼、骨折…

数えきれないほどの傷を負ってきた腕とも、今日でお別れだ。

ナチスに近づくと、手術台に乗せられて拘束された。

「そうそう、一つ謝っておくべきことがあるんだが 」

一つどころじゃないだろ、と心の中で思ったものの、口に出せば縫われるかもしれない。

その言葉は喉の奥へ押し込め、黙ってナチスの話の続きを待つ。

「お前の血で刃物が錆びていてな、切れ味が馬鹿みたいに悪い。束の葉野菜すら切り難いほどに」

「…ぅそ…」

「嘘かどうかはお前自身が試してみればいい。やるぞ」

爛れた皮膚に、ボロボロの刃が当たる。

スッと横に引かれて、痛みが走り抜けた。

「い゛ッ…〜〜!」

熱湯地獄ほどではないが、火傷で敏感になった肌は痛みをよく通す。

外部からの熱とはまた違う、ジクジクとした熱が傷口に溜まる。

「な?嘘ではないだろう?まあ、時間はかかるだろうが、きちんと切り落としてやるから。暴れるなよ」

溢れた大粒の涙が、ナチスに響くことはなかった。

「いや゛ぁあああ゛ああ゛!!!」














ふっと目が覚めた。

場所はいつもの鉄格子の内側で、冷え切った室内に1人ぼっち。

でもいいのだ。

ナチスは絶対にここに帰る。

帰ってきて、自分を痛めつけて、生かし続けられている。

裏切られ、捨てられることはない。

自分は彼の玩具であり、ストレス発散の便利な道具なのだから。

腕に巻かれた包帯が何よりの証である。

こんな痛みを経験するくらいなら、小動物にでもなって、踏み潰されたほうが楽なのだろう。

でも、必ず自分の元へ来てくれて、自分を見てくれる安心感には変え難い。

生まれる前から否定されてきた自分の、ようやくできた居場所なのだ。

今日もソ連は眠る。

次はナチスが来たらすぐ起きられるように、気をつけなくては。

彼が見てくれる限り、地獄のような苦痛の日々でも耐えて見せよう。

触れ合える唯一のため、自分のために、傷だらけの体を休めた。

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