Side 緑
「これは捻挫ですね」
また同じように、レントゲンを見た病院の医師からそう告げられる。
迎えに来てくれたマネージャーさんの車に同乗し、そのまま一緒に診察室までついてきたのだ。
「ど、どのくらいで治るんですか」
珍しく動揺したように高地が尋ねる。
「状態はそんなにひどくないので、おそらく2週間くらいだと思いますよ」
そうですか、とつぶやき、恐る恐る続ける。「…仕事は…」
医師はうーんと低くうなる。
「高地さんのご職業を考えると、やっぱり動くことが多いと思うので…治ってもしばらくは気を付けたほうがいいと思います。でもとりあえず、完治するまで運動は控えてください」
高地は落胆したようにうなだれる。
医師の「お大事に」という声に会釈し、松葉杖で足取りのおぼつかなくなった高地の背中を支えながら病院を出た。
「けっこうやっちゃってますねぇ…中程度ですか」
テーピングから包帯になった高地の右足を見て、マネージャーさんは苦笑を漏らした。
「ほんとですよね。いっつもふざけて言ってるのに、まさかオオカミ少年みたいになるなんて」
後部座席の俺の隣で、高地はふてくされたように窓の外を見ている。
「…そんなしょげるなって。責めてるわけじゃない」
「……もう言わない」
俺も続けて苦笑する。「それならいいよ」
聞くところによると、高地は松葉杖が初めてらしい。やはり慣れていないせいか、車を降りてからもかなり危なっかしい。
「サッカーとかよく足怪我しなかったな」
「まあね…」
まだ落ち込んで声の低い高地。これ以上励ましても辛いかな、とあえて何も言わないでおいた。
ゆっくり一歩一歩進んで、やっと家の玄関まで着く。
「家ん中でこけんなよ」
「まあ大丈夫だって」
そこでやっと、高地が笑ってくれた。目じりにくしゃっとしわを寄せて。でもすぐに消えてしまった。
「…ごめんな、迷惑かけるよな。振り入れ遅くなるし。別に、5人で進めてくれてていいから」
「ねえ、それ2回目。そんなことするわけないじゃん。だって俺らだよ?」
俺ら、とつぶやいた。
「遅くなってもいい。変えたっていい。置いてったらさ、俺らだって寂しくなっちゃうからそんなことできないんだよ」
「…そっか」
「転ばないか心配だから、中入るまで見届けるわ。ほら、ちゃんと歩けよ」
照れ隠しでそんなふうに笑い、背中をそっと押してドアを大きく開ける。
「…ありがとな、わざわざ」
「うん。じゃ」
軽く手を上げれば、高地ははにかんで応える。
照れ屋で隠し事のへたっぴなうちの最年長の後ろ姿に、「早く戻ってこいよ!」とエールを贈った。
終わり
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