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俺にしては珍しく、日付が変わる前にベッドに入ってちょうど眠りに落ちそうなところで、何かの音に起こされた。
「んだよ…」
ベッドサイドテーブルに置いたスマホが光っている。そこからいつも聞く着信音が鳴っている。誰かからの電話だ。こんな時間にかけてくるやつは、どこぞの後輩か――。
「え、慎太郎…?」
真夜中に電話がくるなんて初めてだ。何か話したいことでもあるんだろうか。
「もしもし…」
自分でも疲れてると自覚する声が出てしまった。でも、応答した慎太郎の声は断然いつもと違った。俺よりも。
『……あのさ、樹…ごめん』
「え、なに、どうした? 何が?」
その覇気のなさすぎる雰囲気に、思わず質問を重ねる。
『ちょっと…家来てほしい』
「え? いいけどなんで? こんな時間だよ?」
『ほんとごめん…』
そうとだけ言って、電話は切れた。待ち受け画面に切り替わったスマホを呆気に取られて見つめる。
いや、慎太郎がこんなことを言うなんて余程のことがあったに違いない。夜のゲーム明けの頭をいっぱいに回転させて、俺は仕事帰りのままのかばんを持って車に慌てて乗り込んだ。
今日はみんな個人の仕事だったはず。俺も、ひとりで番組の収録をして帰ってきた。
だから慎太郎は、仕事場で何かあって俺に電話してきたんだろうか。相談事か、急用か。にしても時間と「俺」という相手がどうにも腑に落ちない。
ハンドルを握りながら、電話を繋いでおけばよかったと思った。
急いで彼の家に着くと、『開けるよ』とメッセージを送って合鍵を取り出した。念のために、と最近メンバーで交換したものだ。
おじゃまします、と小声で言ってから家に入る。中は廊下の奥から電気が漏れているだけで、暗かった。
「慎太郎? 来たよ」
呼びかけてみるけど、返事はない。焦って壁のスイッチを手探りでつけると、ドアの横で慎太郎がうずくまっていた。
「わっびっくりした、お前どうした!? 大丈夫か」
慌てて駆け寄る。
「何があった?」
顔を上げた慎太郎は、なぜか涙目だった。
「腹痛い…」
え、と口から声がこぼれる。どこか拍子抜けした気分だった。
「腹痛いの? ならトイレ行きな」
「行った」と短く答える。
「…とりあえずソファーかベッド行こ。どっちが近い?」
ソファー、と言うから明かりがついている部屋のドアを開ける。少し前にも来た彼の家のリビングだ。
背中を支えて寝かせると、
「寒い? それともなんか食べた?」
それも対しての答えは、「わかんねぇ」だった。
「え…。じゃあ俺、薬買ってくるわ。あ、その前に熱測っとこ」
体温計の場所を訊いて持ってくると、慎太郎に渡す。
「辛いからこの時間に呼んだのか。でも何で俺?」
「適当に押した」と慎太郎らしい言葉。にしても、こんなことは珍しい。
「何があったんだろな…」
すると、体温計がピピピッと音を立てる。見てみると平熱だった。
「ああ、良かった。ただの腹痛かな」
俺はほっとしてうなずく。「ちょっとコンビニ行ってくるから、寝ときな」
そう言って、エアコンの設定温度を上げて寝室を探して見つけた毛布をそっと掛ける。
ドアを閉める前に振り返って見た慎太郎の表情は、不安そうでどこかあどけなくて、弟みたいだった。
「大丈夫。すぐ戻るよ」
続く