お昼ご飯を食べ終え会計争いの後、瀬南くんが私の分とまとめて会計を済ませてくれた
「私瀬南くんにお礼しなきゃなのに!」
「僕の予定に付き合わせてるんだから、黙って言うこと聞いてればいいの」
「これじゃ恩返し出来ずに恩だけが溜まっていくじゃん!」
「はいはい、静かにして。別の形で返してもらうかもしれないし、今は溜めてくれて構わないよ」
「溜まりきった後が怖いんですけど」
私の言葉を華麗にスルーした瀬南くんは腕時計を確認して、来た道を戻っていく
「次はどこに行くの?」
「駅。電車乗るよ」
駅の名前を聞いたら知らない駅だった。私が普段使っている電車とは別の路線の電車らしい。
「どこまで行くの?」
「3駅分くらい電車に揺られるかな」
「着いたらどこ向かうの?」
「本当にお喋りな口だよねぇ」
「え、だって瀬南くんと話したいから」
「はぁ…話してたら喉乾いてきたコンビニ寄る」
お店から駅までの間にあったコンビニへと立ち寄る。自分の飲み物を選ぶと私にも声をかけてくれる
「飲み物選びなよ」
「じゃあ、ほうじ茶にする」
「ん、あと何か欲しいものある?」
私が取る前にほうじ茶を取ってくれた瀬南くんに言われ、何かあるかなと視線を彷徨わせていると目にとまるものがあった
「…………」
「小学生みたい」
「な、なんで?お菓子って高校生も食べるでしょ?」
「目の輝き具合の話。いいよ、何か選びなよ。鞄の大きさ考えて選びなよ?」
選んでもいいと許可が出たので、何にしようかと悩んだ末、チョコレートがいくつか入ったチャック付きのものを1つ手に取った。
「これにする!」
と言った瞬間に手からそれを奪われレジへと持っていかれる。ここでも私が財布を取り出す前に会計を済まされてしまった。
「頭が上がりませぬ」
「何その喋り方」
「誠に申し訳ない」
「お茶とチョコ買っただけなんだけど」
差し出されたチョコとほうじ茶を受け取る。
「ありがとう」
「そうそう、今みたいに素直に人の厚意を受け取っておけばいいの」
彼の表情が柔らかく見えたせいか何だかほっぺが熱くなってきた気がして、ほうじ茶をグイッとひと口飲んでから鞄へと収めた
電車は混んでなかったので2人とも座れたし、3駅だったから割とすぐに着いた
「この駅で降りたの初めて」
「あんまり大きな駅じゃないからね」
瀬南くんに続いて改札を抜ける。大きな駅ではないけどとても綺麗で壁の模様が独特だ。その壁には『文化ホールにてアートイベント開催中!』と大きな字で書いてあるポスターが見えた。
迷う様子のない彼に着いていくと頭上にぶら下がる看板に’文化ホール’と書いてあるのが見える。
『絵を見るのは好き?』
私の暗い話を唐突に切り上げた台詞。瀬南くん、絵を見せるために連れてきてくれたんだ。
駅から歩いてすぐのところに文化ホールはあった。無料で入れるものだったのでリーフレットを受け取り中へ入る。
たくさんの絵が飾られていて息を飲む。素人の私には繊細なタッチだとかダイナミックな表現だとか、そういったのは分からないけど
それでも其々の絵の世界観に入り込んで観るのが好き
順番に絵を見て瀬南くんのペースに合わせて進む。
花瓶に入った花束
点だけで描かれている美しい女性
線路のない道を走る鉄道
星空を歩く紳士
夕暮れの草原…
ふと私の足が止まる。私の好きな絵も夕暮れを描いたものだった。似た絵を見つけると、ついあの人の絵かなと思ってしまう。
赤、オレンジ、黄色のグラデーションがとても綺麗な1枚だった。
けれど、じっくりと見れば見るほどあの人の絵ではないなといつも私の直感が訴えてくる。
私にはセンスも知識もないから、会いたい人が夕暮れの絵以外の絵を描いて展示していても、その人の絵だと私が認識できていないだけなのかもしれないけれど…
「五十嵐…!」
ふと小さな声で自分の名前を呼ばれ、ハッとして顔をそちらへ向ける。レンズ越しに見えたのは、僅かに心配の色を含んでいる目だった。
「ずっとここにいたの?」
「うん」
「…そっか。途中まで同じペースで見てたから、立ち止まってるってすぐに気づけなかった。」
「あ、ごめん。足が止まっちゃって」
立ち止まっていなかったら、もっと先まで進んでいただろうな…瀬南くん、そこそこの距離を戻ってきてくれたのかもしれない。
私が見ていた絵へ瀬南くんも目を向ける。
「夕暮れか…」
「ごめんね、進もう?瀬南くんどこまで観たの?」
「もういいの?」
「うん、他にもたくさんあるし早く回らないと」
夕暮れの風景画はこれしかなかったから、他の絵は瀬南くんのペースに合わせて観て進んだ。
1つ隣の絵に進むたびに瀬南くんが私に視線を向けて着いてきていることを気にかけてくれたのは嬉しかった。
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