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家に帰り、鏡を見る。
私には“それ”を人だとは思えない。
正確には、人に値すると思えない。
よく、社会を機械、人を歯車に例えられるだろう、ところがその中の私は摩擦車で、無理を偽り頑張ることが出来ない。
それ以上に他の人の歯車の歯と噛み合わない。
…それが最も問題なのだ。
だがそんな私にも「友達」はいる。
彼女はヒエラルキーで言うと一軍ギリギリといったところだろう。
「友達」がカースト圏外の私と話してくれるのは、一軍の最上位からの命令であることくらい分かっている。
TRAIN-TRAINを歌い、彼女は走る。なんてことは無かったにも関わらず「友達」なのだから。理由はそれで充分だ。
その一抹の寂しさを和らげるべく、頭の中はこんな哲学的な喋り方になっているのを留意してほしい。
そう、私は一通り儀式を済ませた。
明日は土曜だ！
ウエストポーチ、メガネ、、とキャップ！
フル装備！
私は趣味の文房具の物色に向かう。
文房具物色によく使うショッピングセンターはすぐ近くにあるのでいつも歩きで行くのだが、今日は気分を変えて少しまわり道をして行くことにした。
気分良く歩いていると何かを通りすぎた気がした。
それは奇怪、爽快、、そうか？いや、爽やかな狂気？つまり、奇妙ということだ。
私はTo Doリストに一文書き加えた。
「あのー、すみません、、」
「・・・」
私はこの人も摩擦車なのだと思いほっとした。
だがしかし、私とは何かが違う気がする。そう、溝つき摩擦車のような。
「お一つ、もらえませんか？」
「いくらで？」
後から付け足したのか、『値段はあなたが決めて。』と看板に書いてある。
「なら、、これで！」
差し出した手にはお小遣いの２分の１が入っていた。
「まいど」
私は本来の目的を忘れ満足に家に帰った。
「さぁ！、、、えーと、あれは、、」
貯金箱にはこれまた急いで書かれたような説明書が添えてあった。
「にじゅーよじかんごとに、なかのじゅうえんがばいになります、、つまり明日は二十円か、、」
「遠いな。」
買うべき物は、ないのだが。
「いや、待てよ？明後日は四十円、一週間後は六百四円、、遠、、かない？」
ピコン！と、スマホの着信音が響いた。
「んーと？未凛か、、」
そう、「友達」です。
『明日10時に公園来れる？』
『大丈夫！』と、タッという音を立てながら打ち、紙飛行機ボタンを押した。
「ふぅー、」
私はベッドの上に大の字になった。
翌朝、私は用意を済ませ、9:30ごろに公園に着いた。
そしてウエストポーチにあの貯金箱を忍ばせてきた。意外に薄いのだ。
「うーん、さすがに早かったか。」
一瞬思考した後に、私は『ノケモンGO』を開いた。
その後ユーチューブを開き通知ボタンを見た。すぐに閉じた。
一度電源を落とした後、時間を見ていないことに気付きもう一度電源を入れた。
スマホは10:02と表示していた。
「お待たせー！」
「あっ、未凛！」
「やっぱり待たせちゃった？」
「いや全然！」
・・・流行りの色を着こなしている未凛に負けた気がして、魔が差した。
「この貯金箱なんだけどさ、」
「何？」
貯金箱のルールを一通り説明すると、未凛はとても信じられなさそうだったが、疑う素振りはなかった。内心はどうせ嘲笑っているんだろう。
まぁでも未凛にひとつ勝てて気分がよかったので、さらに一つ、予言をしてやった。
「つまり、一ヶ月後は10億になるんだよ！」
「へ～」
相変わらず信じられなさそうだ。
その日は気分良く終えた。
また次の日、月曜に学校へと向かった。
教室に着くと住 未凛と共にスクールカースト最上位の長谷川 京香がいた。
「ねぇ、お金が増える貯金箱ってどんなの？」
「あっ、今は持ってきてなくて、、」
「なら今日と明日、私は塾があるから明後日、公園に来てくれる？」
「大丈夫だよ。」
「それじゃぁね」
長谷川は信じられなさそうだ。
その日は憂鬱で終えた。
とうとう明後日が来た。
学校を終え、憂鬱。
「はぁ。」
思わずため息が出る。だが流石私。前向きに考えようとしたらしい。
「本当に貯金箱があるって言えるじゃないか！」
自転車に鍵を差して手首を捻り、一度またがってから漕ぎ出した。
その後は立ち漕ぎで急いだ。別に間に合わない訳じゃないが、涼しい風を全身で浴びたかったのだ。
「着いたぁ！」
この公園は湖つきでだだっ広かった。
私は目で長谷川を探した。
流石スクールカースト最上位、オーラが違いますね。すぐに見つけられた。未凛も一緒にいる。
私は小走りで二人の元へ行く。盗賊かなんかが来てくれたら私は倒れて、あぁ友人よ、私はそちらへ行くことが出来ない。許せ。なんて言い訳できるのに。
「やっほー」
いつの間にかすぐ近くまで来ていたらしい。
未凛が声をかけていた。
長谷川が勝者の微笑みで私に促す。
「で、持ってきたの？その不思議な貯金箱ってのは」
「あるよ！これだよ。」
私は本物の不思議な貯金箱を出した。
「本当にお金は増えてるの？見たところただの貯金箱だけど？」
その言葉にカッときた。いや、正確には反撃のチャンスだと思った。
私は貯金箱を開けて長谷川に見せた。
「あら、本当ね。あ、ごめんね、私、この後塾があるから。」
長谷川は帰っていった。未凛も一緒だ。
私も帰る。
自宅に入った瞬間、全身が青ざめた。
私はさっき何をした？そう、貯金箱を開けた。
それじゃぁもう金が増えないではないか！
ピコン！着信音が鳴り響く。
『一週間後、またあの貯金箱、見せて貰える？』
「嘘だろ、、」
「何か、、何か、金が欲しい！今すぐに！・・・そうだ！金融、、！」
私はすぐに外へ出た。まともな金融ではどうせ出して貰えないから裏路地へと入った。
すぐに約束を取り付けられた。
ピコン！スマホが震える。
『ごめん。やっぱり遊ばなくていいや』
理由は、塾だから。
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