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umaimon
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大正
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五木友人
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ゴールデンウィークとともに4月が終わった5月の頭。中学を卒業した優は、『国立第三訓練学校』――通称、第三校にいた。
全国に7つ存在する訓練学校。
そこは魔獣の駆逐を専門に行なう特別魔獣討伐派遣人員――特派員を育成することを目的に作られた、国の研究機関だ。魔獣・魔法に関する最先端の研究が行なわれ、最新の知識を学ぶことが出来る、3年制の教育機関でもあった。
優の通う第三校は、大阪の南東端。奈良県との県境の山中にある。
全寮制で、入学時、全員に個室が与えられる。学内にあるコンビニや、山を少し下った所にあるスーパーを利用しながらの自炊生活をしなければならなかった。
そんな、特派員の卵たちを養成する学校に入学を果たした優。身長はギリギリ170cmに届かないくらい。髪は動きの邪魔にならないよう、耳にかかるかどうかの長さで整えている。
顔つき・体つきにも青年のソレになり、もう立派な“高校生”だ。
かつてヒーローに憧れていた無邪気な優は、中学時代の黒歴史によって矯正されている。普段の振る舞いも年相応、ともすれば同年代の学生よりも落ち着きのあるものになっている。
それでも、彼の中で変わらない想いは確かにあって――
「優、はやく次のとこ行くぞー」
授業終わり。優の幼馴染である瀬戸春樹が、座ったまま動かない優に声をかける。
優と春樹は小学校からの付き合いだ。16歳の平均身長を地で行く優より10㎝ほど背が高く、中学ではサッカー部に所属していて、体も引き締まっている。運動の邪魔にならないよう、自然に立つぐらいに切られた黒髪も含め、まさに運動部系の好青年といった印象だった。
「次の魔法実技、今日からは着替える必要もあるし、ちょっと急ぐぞ」
春樹の言葉に「ああ」と短く返事をし、優は荷物をまとめ始める。
優たちがいま居る建物と着替えを行なう体育館はかなり距離がある。移動のための休憩時間が15分あるとはいえ、着替える時間も考えると少し急ぐ必要があった。
「それにしても優。お前、授業聞いてたか? 特派員免許、取れないぞ?」
呆れ顔の春樹が、優をたしなめる。
今の授業、少しぼうっとしていた優は、授業をしていた女性教員に注意されていたのだった。
なお、春樹が言った特派員免許とは、魔獣と魔法の知識を持っていると国が認めた証だ。これがあれば、魔獣討伐を生業としていきていけるようになる。また、魔法を公的に、自由に使うことを国から認められるようになることも大きいだろう。
人類が魔法を手にして、はや10年。特派員免許を含む一部の免許が無ければ、魔獣の襲撃などの緊急時、もしくは学校の授業等以外で魔法の使用が原則禁止されている。そうして管理しなければならないほど、魔法とは危険な力だった。
「これからは気を付ける。注意されるのは、格好良くはないからな」
「格好良い、か……。ほんと、優は変わらないよな」
小学校の頃から変わらない優の判断基準に、春樹が苦笑する。
身体、心。色々と大人になってしまった優だが、今でも、心の中ではヒーローに憧れている。その影響もあって、彼は大まかに格好良いか、良くないかで物事を判断するようにしている。
――偽善とわかっていても、誰かを助けられるような、誰かに誇ってもらえるような、格好良い人間になりたい。
例え誰に笑われようと、青臭いと言われようと、優はそうありたいと今も思っている。
また、優にとってなにより重要なことがある。
「天に見損なわれるのは嫌だしな。……いや、まじで。想像すらしたくない」
「毎度のことだが、優は天のこと好き過ぎな。このシスコンめ」
「まあ、可愛い家族だからな」
大好きな妹のことを想いながら、教室の窓から見える曇り空を見上げる優。別のクラスで授業を受けている同級生の妹を思う彼の瞳に満ちる感情は、愛情というよりは“憧れ”に近いものだった。
(……っと。早くいかないとだな)
のんびり考え事をしている場合ではないと、席を立った優。春樹と連れ立って速足で数分ほど歩けば、着替えを行なう体育館に到着だ。
いつもはクラスを4つに分けて行なわれている授業だが、これから始まる『魔法実技』の授業だけは学年全員――100人が同じ授業を受けることになっていた。
主に優のせいで初動が遅れた優と春樹。授業に遅れないためにも、さっさと運動着に着替え始める。
(やっぱり、みんなも長袖か)
チラリと同級生たちの姿を見た優が内心でこぼしたように、学生のほとんどは、長袖長ズボン姿だ。木々が生い茂る森に入ると事前に聞かされていたためで、優と春樹も例にもれず、中学時代のジャージを着ていた。
(あとは服の中にプロテクターを着けて……)
今回の授業では、学校支給のプロテクターの着用が必須だ。
慣れないプロテクターの装着に手間取りながらも着替えを済ませた優たちは、続いて。
ほかの学生にならい、荷物と共に携帯を体育館に置いてある金庫に預ける。普通の携帯は雨や戦闘の衝撃で簡単に壊れてしまう。買い直す費用と手間を考えると、持って行かない学生の方が多いのが現状だった。
「よっし、行くか、優!」
ぐっと背伸びをして言った春樹に続いて、優も薄暗い体育館から隣にある運動場へと移動する。
これまでは、中学校で行なっていた『体育』や『魔法』の授業に近い内容ばかりが行われていた魔法実技の授業。
しかし、今日からは『外地特別演習』と銘打って、少しずつ外地――魔獣が駆逐されていない場所――で魔法を使う訓練が行なわれることになっている。
つまり、いつ魔獣と出くわしてもおかしくないということでもある。そこで起きる全てのことは自己責任だ。
「頑張ろう、春樹」
「おう」
例年、この授業中に少なくない死者が出る。一度の失敗が、そのまま死に直結する。そんな緊張感に満ちた授業に向けて、優と春樹は軽く拳を打ち合わせるのだった。
学生がクラスごときれいに整列し、朝礼台を向いている。その朝礼台では、優たち“9期生”の学年主任が今日の授業を監督する男に告げていた。
「第三校9期生100名。全員集合しました」
「了解だ。それでは魔法実技、外地特別演習を始めていく。今日からしばらく、お前たちの授業を見る特派員の進藤進だ」
そう自己紹介をした監督官の男性は、強面の40代の男性だ。
白髪交じりの短髪に無精ひげ。少々だらしない印象を受けるが、カッターシャツが悲鳴を上げるほど身体が鍛えられている。覇気こそ感じられないものの、得も言われぬ存在感がある。そんな印象の男だった。
と、進藤の名前を聞いた9期生の一部が、にわかに色めき立つ。優もその中の1人だ。なぜなら――
(――進藤進! A級特派員だ!)
進藤が、優にとっての憧れの職である特派員の、そのさらにトップクラスにいる人物だったからだ。
様々な場所で魔獣の脅威から国を守っている特派員は、公務員の扱いだ。その給料は主に税金から支払われている。その代わり、国民は特派員の実績などを国が運営するサイトであるていど確認することが出来る仕組みだ。
そして、特派員は、活躍によってA~E と仮の6段階にランク分けがされており、ランクに応じて給与に優遇措置がされている。特に、国内にいる特派員総数の上位1%に当たるA級特派員は名前が公表され、大きな優遇措置を受けられるようになっていた。
そんな、ヒーローの中のヒーローに、優が興奮しない訳もない。中学時代の彼であれば、声を上げて喜んでいたに違いなかった。
そうして色めき立つ学生たちを制するように、進藤が無精ひげの下にある口を開く。
「早速だが、これからお前たちにはセルを作ってもらう」
進藤が言った『セル』とは魔獣討伐の際に用いられる行動単位だ。1人から4人までが1つのチームを作り、役割を分担して行動することが特派員の基本となる。
「これからお前たちは外地に行く。今日は内地のすぐそばで、比較的安全な場所だ。しかし、魔獣が跋扈する外地であることに変わりはない――」
鋭い目つきと声のまま、進藤は言葉を続ける。それはひとえに、未来ある優秀な若者たちを1人でも多く生存させようという考えによるものだ。
「――内地とは比べ物にならないほど、死の危険と隣り合わせだ。頼れるのは自分と、仲間しかいない。……組む相手は慎重に選べよ?」
こうしてセルを決める時間が始まる。
開始の合図の後、優と春樹はすぐに合流する。2人は第三校への入学が決まった時点でツーマンセルを組むことを決めていたからだ。結果、手持ち無沙汰になったため、優と春樹はチーム結成の流れを遠くから見守ることにする。
こういう時、事前の準備がものを言う。たとえば信頼できる人物と組むために交友関係を広げたり、有用な人材の情報を集めたり。それをもとに、ある人は求め、また、ある人は求められる。
「お、さすが天。オレたちと違って、モテモテだな」
そう言った春樹が見つめる先には1人の女子学生がいる。黒い髪に、所々メッシュを入れたような金髪が混じる小柄な女子学生。彼女こそ優の妹、神代天だ。天もまた、優や春樹と同じく第三校に入学していたのだった。
わらわらと妹の回りに人だかりが出来ていく様を見遣りながら、
「モテすぎるのも大変だな」
独り言ちた優は特派員としての“有用性”について考える。
特派員として、その人の有用性を量る指標は何か。
分かりやすいのは、魔法の素となる「マナ」の総量だろう。今は『魔力』と言われている指標だ。これは入学の際、その人の持つマナに反応して光る感応石という石の輝きを数値として表したもので、公表もされている。
魔力が高い、つまりマナが多いほど、魔法を多く、長く使うことが出来る。魔法が何よりも大切になってくる魔獣討伐では、魔力が高いほど、重宝される傾向にある。そして、それこそが天の周りに人が集まる理由だ。
「『魔力持ち』か……。まさに神様にも匹敵する力だもんな」
「そうだな。天人と同じで、人間の10倍近いマナを持ってるらしい」
春樹の言葉に、優が『魔力持ち』の特異性を語る。
魔力持ちに天人。彼らがいるだけで、戦略の幅が広がり、同時に自分たちの生存確率も上がる。さらには、彼ら魔力が高い人たちは美男美女が多いため、セル全体の士気も高まる。
天も、例に漏れない。整った顔形に、人懐っこい言動。身長こそ150cm前後でこぢんまりした印象だが、それもまた小動物のような可愛らしさを生んでいる。
シスコンかつ家族というひいき目を抜きにしても、人だかりができるのは納得だ。
もちろん優も彼女をセルに誘いたかった。それでも誘わなかったのは、単純に怖かったのだ。
格好悪い姿を見せてしまうかもしれないという恐怖も、もちろんある。
しかし、何より、特派員として魔力も技術も未熟な自分のせいで、天が死んでしまうのが怖い。
なまじ面倒見がいい面も持つ自慢の妹だ。不出来な兄を庇って死ぬなど、ほかでもない優自身が許せない。
今後、何度もセルを組み直す機会はある。少なくとも今は憧れの存在でもある妹の隣には立てない、立つべきではない、と、優は密かに唇をかみしめる。
(それでも、いつか……。いや、なるべく早く)
“憧れ”のそばで戦っても良い。そう自分で思えるような誇れる自分になろうと、優は密かに拳を握った。
コメント
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うわ、進藤進!A級特派員が出てきた瞬間テンション上がったわ。ちゃんと設定がガッツリ組み込まれてて、世界観に没入できた。優が妹の天に対して「まだ隣に立てない」って思うところ、兄としての距離感と憧れが混ざっててすごく刺さった。格好良さを基準に生きようとしてるのも、青臭くて良いよね。これからの外地演習、どうなるか楽しみ。