「夕唯さん、これ落としたよ」
夕唯は国語の授業中、先生の話を聞かずに窓の外をぼんやりと眺めていた。
「あ、ありがとう!」
「うん」
にこっと優しい笑顔で落としたペンを渡してくれたのはクラスメイトの加藤莉奈。
加藤さんは優しくて明るい性格だから女子だけでなく、男子からの人気も高い。
陽キャ女子は怖いイメージしかなかったけど、こんなに優しい人もいるんだなと毎回思う。
「くそっ!ここ間違えた、くそっ!」
急に台パンをして今日も抜群にキレている男の子は心の中で「キレ症くん」と呼んでいる。
普段穏やかなのにいきなりキレるところが怖い。うるさいなと思ったら、先生の無言の圧とみんなの視線で恥ずかしくなったのか、すぐに静かになった。
昼休み、私は別のクラスに用があって廊下に出た。4組に私の友達がいて、別名「シナモン女」と呼んでいる。
「ごめん歴史の教科書貸してくれない?」
「いいもりかもりもり!いいよ~!」
ロッカーから歴史の教科書を取ってきて私に渡してくれた。
「ありがとう、終わったらすぐ返すね」
教室に戻ろうとすると、
「ねえいいもりかもりもり!」
腕を掴まれて呼び止められた。
「ん?」
シナモン女は、悪戯っぽく笑みを浮かべて小声で言った。
「うちのクラスに夕唯のこと好きな人いるらしいよ~!」
ドキッと胸が高鳴った。
「えっ!?」
私のことが好き?誰が?
「神原って人なんだけど~」
こうはら?知らない名前だ。
たぶん話したこともない。なんで私のことが好きなんだろう?
「ふふ、それだけ!じゃあね」
教室に戻って5時間目を受けているときも、
ずっとシナモン女が話してくれたことが頭から離れなかった。
帰ってから仲のいいネッ友に相談することにした。
「えび!ただいま」
「おかえり!ただいま!」
ネッ友の名前はえび。知り合って1年は経つ。
「今日学校でね」
シナモン女から聞いた、神原さんのことをえびに全部話した。
「え!なにそれ!きゃー!」
えびは、イケメン?タイプ?どんな人?といろいろ質問をしてきた。
「いや、話したこともないんだよね」
「じゃあなんで好きになったんだろ?一目惚れ!?」
その日の夜は神原のこともすっかり忘れて眠りにつくことができた。
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