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「君がうちから依頼された仕事はコールセンターと共にクレームをデータベース化し、企画や開発と共有している大切なものです」
「……はい」
「君は普段、社内の人間を相手に仕事をすることが多いですね。暇つぶしで手伝われて発生する小さなミスが、対社外だと取り返しのつかないことになる。 その意味はわかりますか?」
声色は優しいが、妙な威圧感に身が竦んでしまう。
どんな表情をしているのか、確認する勇気もなく白いテーブルの小さな傷を眺めた。
「甘い認識で本社にいるなら、一度営業所に異動しますか? うちの事務も仕事を増やされて何かしら対処しないと黙りそうにもないんだ」
「そ、そんな大事かな、高柳部長。 それに責任なら上司である僕が取るものでしょう、何もこんな若い女の子に」
隣に座っている杉田が、フォローの言葉を挟みながら真衣香を心配するようにオロオロと2人を交互に見た。
部長クラスからは人事に口を挟めるようになる。
単なる嫌味での言葉とは思えず、声がうまく出せない。
こんなにも真正面で、責任云々の話をされるのは働き出して初めての経験だった。
いかに、甘やかされて、身内の中だけで仕事をしてきたのかわかる。
唇を噛み締めていないと、嗚咽が漏れ出そうだ。
涙とともに。
(情けなさすぎる、泣くなんて。 ミスした挙句泣くなんてダメ、無理)
背筋に力を込めて息を吐きながら、何とか声を出した。
「も、申し訳ありません、わかって……」
『わかっているつもりです』
そう、言い切りたかったはずの言葉は背後の扉が乱暴に開かれた音で、かき消される。
その後に聞こえてきた、場にそぐわない明るい声。
「っと! わー、マジですか。 マジでいる。部長勘弁して下さいよ、 何してるんすか、暇ですか?」
その声が、真衣香の張り詰めた心を一瞬で柔らかくした。
振り返らなくてもわかる、声。
今、聞きたかった、声。
(――坪井くんだ……っ)
スカートの上で握り締めてた手から力が抜けていく。
嬉しい。
ごめんなさい。
怖い。
合わせる顔がない。
会いたかった。
いくつもの感情が、駆けめぐる。