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「く、くそっ!! 頭足族には炎属性だけでは倒せないのかっ?」
「ラリーさん、そろそろ魔力が尽きます。デミリスは何をしているのですか!?」
「寄せ集めの義勇兵をまとめられないあいつではどうしようもなかったか……まずい、まずいぞ」
などと、魔道士たちはクラーケンの動きを止めるだけが精一杯。ラクルでパーティーを結成した剣士の加勢も無いまま力尽きようとしている。巨大なタコにはレベル不明の強さも相まって、表面は僅かな焦げのみだ。魔道士たちは炎属性攻撃だけしか放っていないようで致命傷を与えられていない。
「ふぅ。あの者たちがこのまま魔法を撃ち続けてもジリ貧ですわね」
「そんな……」
「リエンス。あなたは王国の騎士なのではなくて? あの者たちに加勢するのはいけないこと?」
「い、いえ、僕に戦う力は……」
シーフェルはかつて水棲怪物スキュラだった。それにもかかわらずクラーケンを従わせられなかったのが完全に誤算だったようで、リエンスにも強く言えずにいた。
「どうしたものかしら」
「ここにアックさんやレティシアさんがいてくれたら……」
「あたしもそう思いますけれど、仕方のないことですわ。タコを片付けないことには王国へもたどり着けないのですもの」
リエンスが言うようにこの場にアックがいてくれたらと思ってもどうにも出来ない。さすがのシーフェルもお手上げで、魔道士の苦戦も見ることしか出来ないのが現状だ。
「ウガウゥゥッ!!」
そんな時、装備品であるロインクロスから隠れようのない尻尾が見えた。
「じゅ、獣人……!? 王女様、彼女はアックさんと一緒にいた……」
「彼女の強さであれば、ある程度焦げついたタコにも攻撃が届くでしょうね」
「そして彼は剣士の……!」
「ウフフ……隠れるばかりで出て来ないかと思っていましたけれど、宝剣に魅せられての行動なのかしらね。それにしても、あの方以外に言葉を伝えることが出来たなんて意外でしたわ」
シーニャの攻撃から遅れること数秒後――人化の宝剣フィーサと共に剣先の鋭い両手剣を手にした剣士が姿を見せる。剣士デミリスは精神的緊張がほぐれ、そこから意を決しやる気を出していた。
「デ、デミリス!?」
「もう少しです! みなさんで踏ん張りましょう!!」
「獣人の邪魔をすることなく炎を出し尽くすんだ!」
デミリスの姿とシーニャの加勢によって魔道士たちは残った魔力を放ち続ける。表面がやわらかく攻撃もままならないタコは、何度も焦げをつけられ静止した状態だ。シーニャの爪により表面の皮も引き裂かれ、次第に弱まっていく……。
魔道士たちは後退、剣士デミリスが前に出る。重厚そうな両手剣を振り下ろし、弱り切ったタコに突き刺すことに成功した。
「ウニャ? 強い気配が消えていくのだ」
「やっぱりそうだったなの。イスティさまに似た意志を強さを持つ剣士なら、何とかなると思っていたなの!」
「タコが海に落ちていったのだ~!」
「元々船を襲ったタコじゃなかったなの。倒せなくてもいいなの」
フィーサの言葉通り巨大なクラーケンは気配を弱めながら海へと沈んでいく。それを見たデミリスは途端に腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。
「ウニャ、お前人間のくせに強い!」
「え? あ、ありがとう」
「シーニャのあるじと合うぞ。きっと合うぞ!」
「あ、あぁ……君にはそんな人がいるんだね?」
「シーニャ、お前を解放する。早く行け」
弱っていたタコへの攻撃。しかし、シーニャは人間である剣士を見直していた。同時にあるじのアックと合いそうな気配を感じたようだ。
「リエンスはあの者たちに褒美を取らせなさい。あたくしはこの子たちと話をしますわ」
「はっ。かしこまりました」
リエンスをデミリスたちの元に行かせたシーフェルは、シーニャたちの元に近づく。その姿にいち早く気付いたのはフィーサだ。
「……そのまま人間として生きるつもりがあるのなの?」
「どうかしらね。少なくともあたくしはあの方の傍に仕え続けるつもりがありますわ。水棲怪物スキュラとしての自分を捨てただけで、そのまま王国の王女になる予定はありませんもの」
「今度は人間に乗っ取られるようなことがないようにして欲しいなの」
「小娘に言われるまでもありませんわ!」
船上での戦いを経てかつてのスキュラは完全に吹っ切れていた。
「むっ! わらわはこう見えても九百……」
「ウフフ……言っとくけれど、あたしはもっと――ですわよ? 口の利き方にお気を付けあそばせ」
「ムカつくなの~!!」
「ウニャ……アック、アックに会いたいのだ~……」